魔道具作成大作戦(一応完成篇)
あらすじ:
ドライヤーができたというジェラードが何故かギルバートと郊外で……
「というわけで、作ってみました。」
「色々聞きたいことはあるが…… やっぱり聞くか。なんで俺だけと、なんでこんなところだ?」
「悪だくみは男同士でこっそりやるのが楽しいじゃないですか。」
爽やかに語るジェラードに、ギルバートは一瞬反論しようとしたが、自分の中の「少年」の部分がちょっと反応して、言葉に詰まってしまう。二人がいるのはハンブロンから少し離れた郊外。周囲に人影はない。
誤魔化すようにコホン、と咳払い。
「ま、まぁ、言ってることは分らんが、変な被害が出る前に俺に言ってくれたのは助かるな。」
「変な被害とは何とも失礼な。」
「……姫様たちやアイラに聞いた。」
「申し訳ございません。」
三秒ほど真剣に頭を下げていたジェラードだが、何事もなかったかのように顔を上げると、持ってきていたアタッシュケースから何かを取り出す。
「まぁ、聞いているならご存じの通り、適当に魔法陣と魔石を繋いで見ると、ビックリするような出力になりました。
なので、それをいかに弱めるか、を考えなきゃならないのですよね。
で、我々の世界における『電気抵抗』の話をしたと思いますが、それの関連で色々分かったのが、魔力の伝導体として魔法金属、抵抗として魔力を帯びない金属であることが判明しました。」
「……何?」
聞き捨てならないことが聞こえたので、真顔でギルバートが聞き返すが、まるで聞こえないように言葉を続ける。
「そして金属から魔法金属を作る、もしくはその逆も大体分かりました。実用性には乏しいですか。」
「ちょっと待て!」
さすがに止める。
「それって重大な発見じゃないのか?!」
「たとえ話として適切かどうか分かりませんが、我々の世界だと他の金属から金を生み出すことができます。が、実際の金の価値の数百倍の経費が掛かります。」
「……なるほど、そういうことか。」
知恵者同士なので言葉が少なくて済む。ギルバートは腕を組み目を閉じて思考の海に沈む。
自分でもよくあることなので気にした様子もなく、ジェラードは持ってきた荷物の中からテーブルを組み立てると、その上に「試作品」をいくつか並べていく。
「ちなみに、方法は聞いてもいいものか?」
思考の海から戻ってきたギルバートが顔を上げる。
「ルールとしては難しくありません。非魔法金属にその性質が破壊されるまでの魔素を与えると、魔法金属になります。逆に魔法金属に過度な電流を流すと、元の金属になります。」
「……簡単だな。」
「ですが、自然では魔素が集まったところで数十年数百年くらいかかって、どうにかってレベルですね。」
「なるほど。」
「で、時間を短縮させるために、繊維状にした金属をダンジョンコアの人に頼んで魔素漬けにしてどうにか、と。」
と、小さな透明ケースに入った銀髪を切ってきたような束を見せる。
「なんだこの加工精度は。」
強度はともかく、形だけは糸に使えそうな細さ。糸として使えなくても、細工物のには重宝しそうだ。そして……
「しかも魔法銀か!」
久々に驚くのにも疲れた。
「ええ、これくらい細いと、魔素が浸透するのにも大した時間がかかりません。」
おそらく銀糸を作ったのはジェラードの持つ「科学」の力だろう。そしてダンジョンコアの力で魔素を浴びせた魔法銀の糸。
「なんというか…… 理屈は分かったが正直再現は不可能だな。」
「まぁ、そんなわけでこの魔法銀の糸で魔法陣を作ってみました。それで効率がアップしたので、後は銀で抵抗を作って魔石に繋いで出力を調整してみました。」
それがこれです、と試作品のドライヤーを指さした。
「それでまぁ、一応完成品です。」
「……ふ~ん、構造的には難しい物ではないのだな。魔法銀さえあれば、か。」
スイッチを入れると穏やかな風がでる「ドライヤー」。手元のスイッチを切り替えて、冷風も温風も出てくる。
「方向性は分かったので、気が向いたら色々試作品を作ってみようかな、と。」
「まぁ、ほどほどにな。」
実用性というか、商品化はできるのだろうか、という疑問が残るが。
試作品を眺めているギルバートだが、不意に嫌な予感が走ってジェラードを見ると、そこには邪悪な笑みが浮かんでいた。
「ちなみにこれは全く抵抗を入れていないフルパワーの『ドライヤー』でして……」
「ちょっと待ったぁ!」
「え? 何か?」
口元を歪めるジェラードに、ギルバートが顔を押さえる。
分かっているのだろうが、そこでスッとジェラードが真顔になる。
「風量も調節したので、どれくらいの威力になるのかって…… 気になりません?」
「ぐっ……」
そう言われると、自分の中の「少年」が疼きだす。
「…………」
しばらく黙っていたギルバートだが、長めのため息をつくと、どこか口元が緩めながらも、それを誤魔化すように咳払いをする。
「……まぁ、その、そうだな。やはり興味はある。」
絞り出すような声にジェラードに口の端を吊り上げた。
「ではやってみますか。」
キョロキョロあたりを見回して適当な木に目を止めると、ジェラードはそちらに「ドライヤー」を向けてスイッチを入れた。
……その後、森林火災を起こしかけたということで、領主のジェニファーと、ついでにアイラに二人揃って床に正座させられて、こんこんと説教をされた話はいずれどこかで。
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