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異世界行ってもチーム・グリフォン!2  作者: 財油 雷矢
小ネタ集2

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137/152

魔道具作成大作戦(閑話篇)

あらすじ:

 ちょっと気まずくなったサフィメラ王女が一人悩む

「皆さんに嫌われてしまったでしょうか。」


 他に誰にいない大浴場でコンラッド王国の第一王女であるサフィメラが口元まで浸かってブクブクしながら切なげに呟く。

 色々あって(ホントに色々あって)、王都から一週間離れたハンブロンの町の「雄牛の角亭」という宿屋に常駐するようになったのだが、その中でも新参者であり、知らなかったことが多い。

 不意に聞いた「ジェラードが誤って女性陣が入っていた浴場に入ってしまった」話に、女性として、王家の人間として、ついジェラードに厳しく言ってしまった。婚姻前の王族の、しかも未成年の肌を見てしまうことがどれだけ重大なことか、と思うと口を出さずにはいられなかった。

 が、その時顔を伏せながらも、垣間見えたジェラードの表情は、思わず後悔してしまうほど昏いものであった。この時点ですでに何か「誤った」ことには気づいたのだが、次の瞬間、周囲の女性陣の目が自分に圧をかけていることに気づいた。

 怒ると怖いがいつも優しい表情豊かな店主も、「姉」として「妹」話に弾んだ少女も、妹の親友である少女も、そして最愛の妹までも同じような目で見てきた。

 何を言えばいいか分からないでいると、妹の命の恩人で、色々あって「姉様」と慕っている相手にも愛称ではなく敬語でたしなめられた。


 それからの記憶は曖昧だ。


 話題を振ったことで「姉様」が謝り、そして話の方向性をどこか無理やりながらも変えたせいで空気は良くなった。でも何かいたたまれなくなって部屋に戻り、それでもモヤモヤが収まらず、他の人が入らない時間帯を狙って大浴場へと足を運んだサフィメラであった。


「…………」


 この「雄牛の角亭」は実に快適だ。魔法ではない不思議な力で明るさも温度も快適に保たれていて、食べ物は美味しく水も豊富。二十四時間いつでもお湯に浸かれる、というのは王城でも味わえない贅沢三昧だ。そして馬車で一週間はかかる王都コンラッドの王城まで行き来するのも、ここに備え付けの転送陣に魔力を流すだけという便利この上ない。

 人間関係もいい。自分を王女だとして腫れもの扱いもされないし――まぁ、未だに王族に慣れない人もいるといえばいるが――、ここだと普通の年頃の女の子でいられる。

 今回の件で周囲と気まずくなって、それから居づらくなったとしたら……


「それは…… 嫌ですわ……」


 切なげに呟いた言葉もお湯の泡と消える。



「あー やっぱりいたいた。」

「いたのー。」


 そんな風に暗くなっていると、聞き覚えの声が二つ聞こえてきた。


「先に身体洗うから待っててね。」

「待って欲しいのー。」


 サフィメラが声を振り返ると、金髪の頭が二つ見えた。一つは「姉様」と慕うラシェルで、もう一つは自分の最愛の妹ルビリアだ。

 二人並んで身体を洗い頭を洗う。

 サフィメラもそうなのだが、ルビリアも王女として育てられて、ここに来た当時は一人で身体も洗うのに慣れてなくてしばらくは苦労していたが、アイラを始めとする世話焼きに教えてもらったのは懐かしい思い出だ。

 それでも長い髪を洗うのは大変なのか、ラシェルが手伝っている。洗い終わって、二人お揃いで頭の上で髪を巻いた。


「待たせてごめんねー。」


 何も気にした様子もなくラシェルがサフィメラの隣に入り、更に隣にルビリアが入る。


「おー なんかロイヤルな空間。」


 ラシェルが両側にいる王女の存在に、急に謎の大物感を醸し出す。しばらく黙っていたが、サフィメラがどこか居たたまれない顔をしているので、ラシェルが口を開く。


「ん~ とりあえず色々あってゴメン。」

「え?」


 驚いた声を上げるサフィメラだが、気にせず言葉を続ける。


「あの時はねぇ……

 ちょっと長いけど聞いてね。あ、だりそうになったら言ってね。」


 と、前置きしてから説明を始める。

 色々誤ってジェラードが大浴場に乱入して女の子たちの裸体を見てしまったことは事実だ。その後が問題だった。


「ジェルはね、傍若無人に見えるけど、意外と繊細でね。嫌われたくない人に嫌われるのは苦手なのよね。」

「…………」

「あの時もさ、ジェルが見ていられないほどに憔悴しょうすいしてさ、見てられなかったのよ。

 で、無理やり…… まー なんつーか、補填ほてん、させてね。」


 なんか言いづらそうなラシェルと「補填」の言葉にルビリアもちょっと表情を緩める。

 その内容がちょっと気にはなったが、ジェラードのあの表情の理由がなんとなく分かった。どんな相手でも怯まないと思っていた人の意外というか、でもちょっと嬉しい「弱点」に思わず口元に笑みが浮かぶ。どうやら自分もその「嫌われたくない人」の中に入っているようだ。


「でさ、ここまで聞いてサフィはどう思った?」


 表情を見たのかどうか分からないが、どこか確信めいた口調でラシェルに聞かれて、サフィメラはたまに見せる怖い方のロイヤルな笑みを浮かべる。


「そうですね…… 私とルビィは難を逃れましたが、もしかしたら巻き込まれたのかもしれないですよね。」

「予想できてたのなら教えてほしかったかなー。」

「ですので、今回の件で私たちも『補填』してもらいましょう。」


 そう答えるサフィメラの顔からはすっかり暗さが取れていた。

お読みいただきありがとうございます

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