魔道具作成大作戦(混沌篇)
あらすじ:
魔道具のドライヤーは実用に値しなく新たな改良が必要なのだがその前に……
「武器としては面白そうですが…… あ、でも暴動鎮圧用としては使えるかもしれませんねぇ。」
「スカートめくりに使った奴が偉そうに言うな。」
どこかジトッとした目のラシェルに言われて、ジェラードが嫌そうに目を背ける。
「事実ではありますが……」
と、ちょうど向いた先にたまたまアイラがいて、ニッコリと笑みを浮かべた。が、その笑みに深い「闇」が垣間見え思わず息を飲む。
試しに作った魔道具の「ドライヤー(仮)」だが、出力調整が上手くできずに暴風発生装置になってしまった。その始動実験を見物に来ていた女の子たちのスカートやワンピースの中が百花繚乱になってしまった、というわけだ。
「ちなみに、見えなかったって言い訳はしないんだ。」
「……前のことがありますから、さすがに。」
ラシェルの言葉に苦しげに絞り出すジェラード。
と、いつもの「雄牛の角亭」の中での会話だったので、特に聞き耳を立てなくても聞こえる会話に、サフィメラ王女が「前のこと」に興味を持ってしまった。
誰かに尋ねようかとして、とりあえず妹のルビリア王女に聞いてみた。
そこで驚いたようにジェラードとラシェルが二人の方を振り返ったが、時すでに遅し。姉に問われたルビリア姫が「三徹したジェラードが寝ぼけて女の子たちが入っていた大浴場に乱入した」件を粗方説明終わっていた。詳細を省けばそんなに長い話ではない。
「まぁ、」
弾んだ声で、それでいて笑顔のまま何処か氷点下の視線をジェラードに向けるサフィメラ。
「つまり、故意では無かったとはいえ不用意に乙女の柔肌を見てしまった、ということでよろしいですか? しかもその中には妹も?」
視線の温度がさらに下がる。最近は感じなくなったが、かつては「氷の魔女」とも呼ばれた氷結魔法の使い手なのだが、無意識に魔法が漏れているのが、室内の気温が僅かに下がったような気がする。
「仰る通りです。」
言い訳のしようもないので、どこか暗い顔をしながらもジェラードが肯定したところで、サフィメラが周囲からの視線に気づく。
一応「被害者」である三人娘が責めるとまではいかないが、強い意志を持った目でサフィメラを見つめている。ふと感じて、自分の隣を見ると、妹も同じように見てきていた。悪くなってきた空気の中でラシェルが長めのため息をつく。
「サフィメラ王女、そこまででお願いいたします。」
姉様、と慕っているラシェルに普段のように愛称じゃなくて、敬語で言われて、ハッと動きを止める。
「……って、意地悪言ったわね。
ルビィがすんなり言っちゃったのも悪かったけど、ジェニーさんも含めてこの件は蒸し返さないってことにしたのよね。」
「そう、でしたか……」
どうやら自分の行いは誤ったものだと理解して、しゅん、としおれてしまったサフィメラに、優しい口調で話しかける。
「ごめんねサフィ、どこかで言おうとは思ってたんだけどタイミングが無くて。」
「私の至らぬことで、」
とジェラードがそれ以上にしおらしく頭を下げたところに、リリーとミスキスが左右から慰めるように抱き着いて、アイラもちょっと困ったようにジェラードの背後に回る。ルビリアは姉の方もジェラードの方も気になるのか、あちこち首を振って困っている。
そしてラシェルは無言でジェルの頭にチョップを落とした。
「顔を上げる。」
どこか冷たい口調にジェラードが驚いたように顔をラシェルに向ける。そこでラシェルがまたため息をついた。
「まずはみんなごめん。
あたしが変に振ったからね。」
と、立ち上がって頭を下げる。
「あとまぁ、あの件に関しては、あたしが一番の『被害者』なので……」
その時のことを思い出したのか、色々複雑な表情が浮かぶ。大きく深呼吸をして、ラシェルがどうにかこうにか言葉を続ける。
「ジェルに何かする、って言うなら、あたしを通してからにしてね。
で、そのなんちゃってドライヤーはどうするの?」
どこか無理やり話を戻したところで、やっとジェラードの周りにいた三人娘がゆっくりと離れる。
「そうですね、」
少し考えるそぶりを見せるが、既に答えが決まっているリアクションなのはもう公然の秘密というやつだ。
「予想以上に魔石から得られる魔力が大きかったようで…… 抵抗にあたるものが必要なのですが、その前にですねぇ……」
少し考えてから、サフィメラの方に目を向ける。
「魔力が通りやすい素材と、逆に通りにくい素材ってあります?」
「え? あ、はい。」
さっきのこともあって、一瞬返答が遅れたサフィメラだが、そう問われてすぐに「氷の魔女」としての顔になった。
「そうですねぇ…… 魔法金属がやはり通りが良いようですね。それこそ魔法銀とかですね。」
「ふ~ん…… 色々試してみますか。
……あ、待てよ?」
ブツブツ言い出してバーチャルディスプレイを開いたジェラードに、いつものことだと「雄牛の角亭」の中が通常モードに戻る。
「……こうなったらジェルにまた何かさせようか。」
何かを思い出して顔を赤くしながら頭を抱えるラシェル。集中しているジェラードの隣で小さく呟いていた。
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