魔道具作成大作戦(災害篇)
あらすじ:
ダンジョンコアに相談した後、同時か試作品が出来たのだが……
「一応聞いて良いんですかね?」
(聞くだけは構わぬが、さすがに答えることは出来ぬな。)
「それで十分です。」
出された紅茶を一口含むと、想定済みだったのか落ち着いた口調でジェラードが返す。
ハンブロンの町の宿屋の一つ「雄牛の角亭」の地下には地下迷宮が広がっている。が、どこぞの科学者が作った地下通路と融合しており、存在は一部の人しか知らないが特に危険はない(ということになっている)。
地下迷宮にはダンジョンコアという魔法的な意思を持つ存在がいて、迷宮内部の環境等をコントロールしている。そしてこの「雄牛の角亭」の地下に存在するダンジョンコアは、おそらく変わり者の部類で、知識や議論が大の好物ときている。なので宮廷魔術師のギルバートや異世界の科学者であるジェラードとは交流が深い。
(ほぉ、何故?)
「不可能と言わない時点で、可能性がある、ってことですからねぇ、と。」
(なるほど、言葉選びを失敗したようだな。ただ教えられぬのは事実でな。
何というか『自動的』であり、我にも説明できぬところがあるのだよ。)
やれやれ、とドローンヘッドを左右に振るダンジョンコア。
「なるほど…… やはり自分で上手い事やってみるしかないのですな。」
(うむ、検証が必要な場合は手伝おう。我も興味があるからな。)
「ま、やってみますか……」
紅茶の礼を言うと、ジェラードは立ち上がると地下から出るのであった。
「ということで、出来たサンプルがこちらです。」
「展開早いな!」
数日後「雄牛の角亭」でジェラードが一つの道具を手にしてた。
「まぁ、ギルさんとグレイに頼んで魔法陣を用意してもらい、それを調整して、ってそれはラシェルに見てもらいましたよね。」
「あ~ そういえば。」
何故か魔素や魔力が見えるラシェルが。これまた何故か魔力の流れも見えるので、いつの間にかに魔法陣の正誤をある程度確認できるという謎の特技ができていた。
「そのおかげでできたので、感謝ではありますね。さすがに感謝しておりますが、何か欲しい物とかして欲しいこととかあります?」
「ん~…… 考えとく。」
その会話のせいで急にあちこちから視線を感じたのて、ちょっと眼をそらしながら言葉を濁す。
「で、これは何ですか?」
昼下がりでちょっとヒマな時間帯なのか、興味津々の三人娘とルビリアが二人の周りに集まってくる。代表してアイラが疑問を口にした。その道具はL字型をしており、人が片手で握って使えるくらいの太さ大きさをしていた。
「風が出るだけのものなので、ドライヤーというのは烏滸がましいですが。」
ちなみに大浴場に隣接する更衣室に常備されているドライヤーは科学技術の粋を無駄に極めたシロモノで、髪にも頭皮にも優しい飼ったりする。
「なるほどー。」
それでも少し怖いのか、テーブルの上に置かれたドライヤー(仮)を遠巻きに眺める。
「一応、理論的にはできている、はず、なので、ちょっと実験をしてみたいのですが…… さすがに店内ではダメですよね。」
「はい、さすがにオーナーでもダメです。」
ニッコリ笑って手を×の字にするアイラに、どこか苦笑いを浮かべながらジェラードが腰を上げる。
「裏庭にでも行きますか。」
と、裏庭の方に向かうと、ゾロゾロとラシェルに三人娘、王女姉妹までついてくる。それに気づいて一度振り返ったが、諦めたように前に向き直る。
「面白いんですかねぇ。」
と、ボヤくと、後ろから肯定の声しか返ってこないので、更に肩を落として建物の裏口のドアを開けた。
裏庭は「雄牛の角亭」の増築の度に移動したり拡張されたりしているが、今は落ち着いてコンテナが積まれた普通ではないが一応資材置き場となっている。
箱型汎用作業機械も含めて出入りが多いし、ヒューイやカイルが自己鍛錬で使っていることもあって、地盤も固く踏みしめられており何かするのは適当で色んなことに使われている。
「さて、と。」
ジェラードは裏庭の真ん中くらいに移動すると「ドライヤー」を手にして、空を見上げ、そして地面に目を落とす。
見学者の面々は遠巻きにしているが、興味津々な表情でジワジワと距離を詰めてくるが、ジェラードが手のひらを見せて止める。何か思うところがあったのか、サフィメラが妹の肩を引いて距離を更に開く。
「どっちに向けたらいいですかね……」
「上だと分からなくない?」
「ですかねぇ……?」
ラシェルに言われて「ドライヤー」を下に向けて、スイッチに指を乗せた。
結果を言えば風は出た。
が、その勢いは一瞬ジェラードが宙に浮くんじゃないかと思うほどであった。それを地面に向けていたために、ジェラードを中心に暴風が吹き荒れた。
ちなみに、距離を離していた王女姉妹はともかく、三人娘とラシェルは暴風に範囲にいた。ラシェルは基本ミニスカートだし、私服はともかく珍しく三人揃って「雄牛の角亭」の制服のワンピースだった三人娘。
「わ、」
「…………」
「きゃっ!」
「何?!」
四者四様の悲鳴が上がる。
反射的にジェラードが悲鳴の方を振りむいてしまって、再び反射的に首を捻じ曲げる。
驚いただけのリリーとミスキス。真っ赤になってスカートを押さえるアイラとラシェル。やや対照的な反応で、後者の二人の視線の圧にジェラードが一歩後ずさる。
何て言えば平和に収まるのか考えたジェラードだが、こんな時に科学が全く役に立たないことを理解する。そして最後にやっとのことで絞り出した言葉が、
「……ありがとうございました。」
軽く下げたジェラードの頭にチョップが二つほど落ちるのであった。
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