魔道具作成大作戦(発動篇)
あらすじ:
前々から言っていた魔道具作りをジェラードが始めようとする
「魔道具ってどうやって作るんですかね?」
いきなりそんなことを聞かれたコンラッド王国宮廷魔術師のギルバートは頭の中で何パターンかの答えを考え、その中で質問者の意に最も合いそうなものを考えた上で……
「破壊兵器を作るつもりなら教えんぞ。」
「というか、簡単に説明して作れるものなら、もうこの世界にだいぶ普及していると思うんですよね。」
質問者――異世界から来た白衣の科学者ジェラードの言葉にギルバートは返し方を少々誤ったことに気づいた。
「端的に言えば不明だ。ただ、原理的に言えば、お前が前作ったのがあるだろ? アレの応用としか言いようがない。」
「なるほど…… 基本は回路――魔法陣と、動力、と言うところですか。
ちなみにですが、作るだけで罰則とかあります?」
そこでギルバートがしかめっ面をする。
「お前の発明品だろうが魔道具だろうが、不適切に使わない限りは大丈夫だ。
ただ、人を操るとかおかしくさせるようなものは道具でも薬でもダメだな。」
「そんな下品な物、誰が作りますか。」
吐き捨てるように即答するジェラードに、ギルバートは表情を緩める。
「お前はそういう奴だったな。意外、というのも失礼か。」
「嫌ですねぇ、ギルさんまで私をディスるようになりましたよ。ラシェルの影響でしょうな。」
「ん~ 否定はしづらいけど…… あ、ジェルをディスってもいいのはあたしだけよ!」
小難しい話をしているんだけど、いつものように同席しているラシェルが、不意に振られながらもビシッとギルバートに指を突きつけるパフォーマンスを見せる。
一瞬間が空いたところで、ジェラードとラシェルが同じタイミングで座りなおして口を開く。
「で、ジェルは何を作るつもり?」
「無難なところでドライヤーあたりでも。風と熱を組み合わせて調整できれば応用が利くんじゃないかな、と思いましてね。」
「ふ~ん……」
ふと視線に気づいて、二人揃って横を振り返ると、ギルバートが呆れを通り越した何とも言えない表情で顔に手を当てていた。
「……仲いいな、お前ら。」
「「否定はしない。」」
「まぁ、こうやって考えの整理ができるので、ラシェルがいることにはそれなりの意味があるんですよ…… 多分。」
「そうか……
で、ドライヤーというと、あの温風が出る奴だな。風と火……になるのか?」
「いや、とりあえず風が出るだけのものを作ってみます。最初から欲張っても良いことないですからねぇ。
で、基本コンセプトとして、魔石を動力源にしようと思います。」
ジェラードの言葉にギルバートが表情を変える。
「魔石だと?」
「ええ、魔石です。魔石って余程大きくないと使い道に欠ける、って聞きましてね。」
「……そうだな。俺も詳しくはないが、錬金術みたいな方法で魔石を集めて大きくできるらしい。あと……」
魔石というのは、魔物の心臓あたりにできる石状のもので、魔素が集まってできたと考えられている。来れの有無が魔物と動物の差ともいわれているが、詳しいことは余り分かっていない。
ただ、強大な魔物を倒すと、結晶状や宝石状の「魔石」が取れるので、純度なり密度が高いとそういう変化が見られる。
魔素の塊なだけあって、魔法の補助に使えるそうなのだが、使い方にもコツがあって、誰もが魔石から魔素を引き出せるわけではない。
「それでも儀式魔法や陣を使うときには使えるな。やったことは無いが。」
と、ギルバートが説明を締めくくる。で、メガネの奥の目が鋭くなる。
「で、もしも低級の魔石にも利用価値が高くなったとしたら、世界が変わらないか?」
「まぁ、世界はいずれ変わりますよ。
それに私がすでに広めた技術だって、それなりに世界に影響を与えているかと思います。」
ジェラードの言葉に、ギルバートがうむむ、と唸る。どこか納得できる部分もあるのか、なかなかにシンキングタイムが長い。
「ちなみに、お前の世界の歴史だと、どういう変化があったんだ?」
「そうですねぇ…… まぁ、詳しくは控えますが、簡単に言えば戦争に使われて規模が大きくなった、ってオチが多いのですよね。」
「ままならないものだな。」
「強い力を持ったら、使いたくなるのがヒトなのですよね。」
「とりあえず話がズレてきたな。
まぁいい。何を作るにしても、どこかで俺に見せてくれ。」
「それ以前に作れるかどうかも分からないんですがね。」
いつものように肩をすくめるジェラード。
「それに関しては俺は心配してない。心配するのはどんな恐ろしいものができるか、の方だな。」
「ままならないものですな。」
「確かに。
俺もそろそろ王都に戻るか。ラシェルもそうだが、他の奴らも変なことしだしたら連絡頼む。」
「「はーい!」」
元気な返事が聞こえたのを確認するとギルバートは「雄牛の角亭」の奥にある転送陣で王都に移動していった。
「で、ホントに作ってみるの?」
「ええまぁ、それこそ趣味の世界なので、出来たらラッキーくらいで。」
「ギルさんじゃないけど、あたしもそっちは心配してない。できるものが何が、ってことの方が心配。」
ラシェルの言葉にジェラードが渋い顔をする。
「信頼が重いんですかね?」
「ハカセー しょうがないよー」
「うん、仕方ない。」
『どうでもいいですけど、店だけは壊さないでくださいねー』
三人娘の、しかも厨房の方からも聞こえてくる声に、心外とばかりにジェラードが声の方を振り返る。
「……私、そこまで危ない物作りましたっけ?」
その声はどこか切なげに店内に響いた。
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