実験結果(その3:終了)
あらすじ:
グラディンやカエデの身体変化の能力についての実験をするジェラード
さて、その結果は……?
『説明しますと、グラディンさんの使っている身体変化の能力が、魔素が無い空間でも維持できるかどうか、という実験なのですよね。』
「雄牛の角亭」の地下に密かに作られた空間。
地下は倉庫なり避難所としても側面と、さらに奥にある「秘密基地」への通路として、どこかの科学者が作り上げたものだ。
今はそこにこの世界の「ダンジョンコア」という魔法的存在が魔力を浸透させ、(便宜上)彼がある程度自由に操れるようになっている。
「言いたいことは分かるんやけどな。そのいかにも悪そうな顔、少し引っ込めてくれへんか?」
「ジェルはこういう雰囲気出すの好きだから。」
「ジェラードさんだからねぇ。」
「ん。仕方がない。」
女の子四人の前に展開されたバーチャルディスプレイの中でジェラードが普段は微表情なのに絵に描いたような悪い顔をしてことにツッコミが入る。
慣れてるラシェル・アイラ・ミスキスは平然としているものだが、そこまでじゃないカエデはちょっと怯えている。
「……なんで普通にして。」
『はいはい。』
と、ディスプレイの中のジェラードがすん、と微表情に戻る。
『まぁ、ザックリ説明しますと、その室内の魔素を減らしていきます。それで不具合があったらすぐに言ってください。』
『さすがに我も魔素を減らされると何もできなくなるからな。』
『でしょうね。こちらもよく分かりませんので、室内の魔素の有無を確認できれば。』
『うむ、それは任せてもらおう。』
と、ジェラードの隣には頭が飛行ドローンでできているローブ姿の人?が立っている。彼がダンジョンコアなのだが、知識欲に溢れる人?で、ジェラードとはウマが合うようだ。
「大丈夫なんかなぁ……?」
会話、というか仮定と検証を繰り返す二人に、カエデが不安そうな声を出すと、ラシェルはいつものことなのかそこまで思わない。
「まぁ、話し出すと長いからね。あ、アイラありがとう。」
やや間が空いたところで、四人が入れられた一室に備えられたポットでアイラがハーブティを入れて振舞う。実験に付き合っているとはいえ、こういう時は動いてないのと落ち着かないのはなかなかのワーカホリックと言えよう。
『あー すみません。お待たせしたようで。
これから室内の魔素を消費する形で減らしていきます。先ほども言った通り、不調を感じられたらすぐに中止します。』
バーチャルディスプレイの向こうのジェラードが手を動かすと、慣れた人なら気づく程度のブン、というハム音が聞こえてくると、何となく空気が変わった気がする。
「……あれ? なんか薄くなってきた?」
魔素や魔力が視える「眼」を持ったラシェルが、空気が変わるのが見えた。
『ん、順調ですね。ラシェルは便利ですねぇ。今度…… いや、なんでもないです。』
何かセクハラめいた軽口を叩こうとしたんだろうけど、不穏な空気を感じて慌てて口をつぐむ。
『えーと、大体どんな感じです?』
『ふむ…… 部屋内の魔素が減ってきておるな。そろそろ魔法とか使いづらくなるな。店主殿、どうかな?』
「ふぇ?!」
急に振られてアイラが変な声を上げる。
そう言われれば「雄牛の角亭」の中でも数少ない魔法使いであるアイラ。他はもうすっかり居ついている王女様たちなので、さすがに実験に付き合わせるわけにはいかない。ちなみに本人たちは乗り気だったので、そこを説得する方が手間取ったのは余談である。
「あ…… はい。えっとぉ……」
アイラは店の制服のサッシュに挟んだ星の飾りのついたマドラーを抜くと、その星を見つめながら集中をする。
『ラシェル、どうです?』
「あ~ なかなか集まらないみたい。」
「……ですね。全然火が出ないです。」
マドラーを軽く振るが、何も起こらない。
「こっちもなんか変な感じ。」
ミスキスも不思議そうに首を傾げる。彼女の場合は身体強化や隠身の能力ができないようだ。
「あ~ そうなんかぁ。ウチは魔法とか使えへんから分からへんなぁ……」
自分のことの検証なのだが、魔法に縁がないカエデは別の意味で首を傾げるばかりだ。獣人としての特性で魔法が基本苦手であるが、その分身体能力は高いのだが。
『カエデさん、身体に何か影響はないですか?』
「せやなぁ……」
考えながら、自分の頭の上や腰のあたりをさする。そこには生まれてずっとついていたはずの物がない。
「何も変わらへんなぁ……」
それからしばらく様子を見ていたが、魔素がほぼ存在しないくらい濃度になってもカエデの姿は変わらなかった。
「というわけで、誠に残念ながら魔素が無くなってもグラディンさんの身体変化には影響が無いようです。」
「まぁ詳しいことは分からんが、これで儂も婿殿の世界に行っても大丈夫なようじゃな!」
うっしっし、と悪い笑みを浮かべるグラディンに、ジェラードが疲れたように首を振る。
「まぁ、ウチもジェラードはんの世界、ちゅうのは気になるなぁ。」
元の狐耳・狐尻尾に戻ったカエデが、その感触を確かめながら小さく呟く。
「まぁ、仕方がないんじゃない? ……いつものことだし。」
「なんですよねぇ……」
ラシェルのツッコミにも、力なくそう答えるジェラードだった。
そしてこの獣人商人ズが異世界に向かうのはまた別のお話で。
お読みいただきありがとうございます
どこかでまた元の世界に行く話があると思います