ひっそりしよう
あらすじ:
カイルとソフィアの子供が産声を上げた
聞こえてきた産声にカイルが今まで見たことないような呆けた顔をしている。
ドアの向こうから、なんかシャキシャキしたお婆さんが現れると、身長差もあってかカイルの腰のあたりをバシン、と叩く。
「こりゃ! 男がそんな情けない顔してどうするんじゃ!」
「お、おう……」
「とっとと嫁さんを労わってやらんか。」
「お、おう……」
同じ言葉を繰り返して、どこかフラフラと、それでも器用というか周りに気を使っているのか足音も立てずにドアの奥に入っていく。
「母子ともに健康じゃよ。
……その男は医者じゃな。じゃあ、儂の仕事はもうないな。これでも歳での、とっとと帰るわい。」
随分と存在感のあるお婆さんは、疲れた様子も見せずにスタスタと廊下を歩いていく。
黙って、しかも座って待っていたあたしたちもそれなりに疲れていたのに、ずっと仕事をしていたお婆さんがスタスタ歩いているのはなんというか、凄い。
「ん?」
ジェルが何かに気づいたような顔をした。いったい何が…… って、なるほどこれはあたしでも分かった。
産声が二つ聞こえてくる。
つまるところ、双子って事か。ジェルの反応を見ていると間違いないらしい。
「双子か……」
フリッツさんもどこか感極まった声で呟く。
と、ずっとここで黙っているのもなんなので、あたしが率先して椅子から立ち上がると、男二人も思い出したように腰を上げた。
室内はおそらくソフィアの私室の一つなのだろう。天蓋付きのベッドがあり、横に跪いてるカイルと比較すると、相当大きいんだろうな、という気はする。
「こういう時に言うのが正しいかどうか分らんが…… でかした。」
「はい。カイル様。」
手を取ったカイルが、万感の思いを込めて言ったのを、ソフィアが微笑みで返す。あたしの知っているころと比べると、実に大人びた感じがする。
「その…… なんだ。様付けはどうもくすぐったくてアレだ。」
「分かりました。
それよりも、男女の双子でした。ご覧になってください。……あなた。」
「お、おう。」
年かさのメイドなのか乳母なのか知らないが、二人ほどいてそれぞれに真新しい布に包まれた赤ん坊がいたわけで。
……こういうの、ホント経験ないからどうしたらいいんだか。ジェルに視線を向けると、あたしと同じだったのか、小さく首を振る。
それにしても双子か。
しかも比較対象を知らないから分からないけど、随分と立派な赤ん坊だと思う。
まぁ、ただでさえ規格外レベルの大きさのカイルと、背も高く凛々しい戦乙女のようなソフィアの血を受け継いだんだ。最初から多少大きくてもちっともおかしくないわな、うん。
「さぁ旦那様、良かったら抱っこしてみてください。」
「え? お、俺が……?」
年かさのメイドさん(だと思う)の片方がカイルに赤ん坊を差し出す。
それこそ手のひらに乗るくらいの赤ん坊を、絵に描いたような「恐る恐る」と抱きかかえる。カイルのサイズからすると本当にお人形サイズではあるが、それでもアワアワと動いている。
「……生きてる。」
「さぁさぁ、こちらの子も。」
更にもう一人乗せられたカイルの腕の中。残りのスペースはあと五人くらいはいけそうな気がしないでもない。
なんか彫像になったかのように身動きしない、というかできない? カイルの腕の中にいる赤ん坊を見る。
安定感だけはあるのか、すやすやと落ち着いているようだ。大物になるんじゃなかろうか。
しばらくそうやって抱っこしていたカイルだが、困ったようにソフィアに目を向けると、ニッコリ微笑んで、一人受け取るとメイドさん(仮)に受け渡し、もう一人も腕に収めると、自分の父親の方を振り返る。
「お父様、是非とも抱っこしてあげてください。」
「そ、そうだな……」
まさか自分に振られるとは思わなかった体の驚き方をするフリッツさん。いやいや、この流れは想定内でしょうに。
やっと解放されたとばかりにどこかフラフラと疲れた様子で離れたカイルに代わって、フリッツさんがソフィアのそばに移動して、彼女の手から赤ん坊を渡される。
「お、おお……」
こわごわと受け取ると、重く感じるのか一瞬よろけそうになるが、その場で踏みとどまると、腕の中ですやすや眠る赤ん坊に目を落とすと、思うところがあるのかツーと涙がこぼれる。
「はは、はははは。
自分の子供たちの時とはこんなに違うものか…… 僕の娘が母親になるというのはこんなに心に響くものなのか……」
「お父様……」
親娘が見つめ合う。それこそ今まであったすれ違いも今完全に解消されたに違いない。
「さて、我々はそろそろ辞しますか。」
「そうね。」
さすがにあたしたちがいてもいいような雰囲気じゃない。更に言えば、お二人も、って赤ちゃん抱きますか? とか言われたら全力で首を振る。とてもじゃないが怖い。きっとジェルも同じ気持ちだろう。だからこその発言だと思うし。
それでは後は若い者同士で、って訳じゃないが、二人で息の合った動きでそっと部屋を出ることにした。カイルあたりは気づいたろうけど何も言われなかった。
廊下に出て、見かけたメイドさんに声をかける。まだ陽も高いので今から戻ってもなんとかなるかなぁ、と思ったんで、あらかじめ(ジェルが)用意したお祝いの品を置いていくと、ひっそりとあたしたちは王都を離れることにした。
お読みいただきありがとうございます
……そろそろこの話も終わります
というか、慣れない話だったのでなかなか筆が進まずに苦労しました




