王都に向かおう
あらすじ:
カイルがジェラードとラシェルを誘って王都に向かった
あたしはパンサー1(ピックアップトラックの方)で王都に向かっていた。
ハンドルを握っているのはカイルで、助手席はジェル。あたしはその間の補助席に座っているのだが、カイルがデカいので自動的にジェル寄りになるのはいかがなものか。とはいえ、一人で後部座席というのも寂しすぎるわけで。
さて、なんでこんなことになったかと言えば、カイルが急にジェラードを誘って王都に行くと言い出したのだ。で、あたしはというと「男二人で行くなんて寂しいだろ」となかなかにしょーもない理由であるが、まぁあたしにも特に予定はないのでどうこうすることに。
まぁ気持ちは分からんでもない。カイルは基本そんなに会話が続くタイプでもないし、ジェルは放っておけば無口だ。……いや、ホントよ。
まぁ道中はそんなに話題が弾むわけでもなく、左右見ても面白くも無いので、前を見ているのだが、風景も代り映えがないといえばない。元々速度が違いすぎるので街道を外れて走っているので、他の人とすれ違うこともない。
というか……
「そもそもなんで王都に行くの?」
「うぇ?!」
カイルが面白い声を出した。
「いや、なにっていうかな。そのなんだ。ほら、あれだよあれ。なぁ?」
……いや、具体的になんだよ。というか、こっちが聞いていたんだが。
ジェルの方に目を向けると、小さく肩を竦める。答えは知っているだろうけど、自分が言うことではない、ってとこか?
カイルも言いづらいようだし、王都着くまでは放っておくしかないかな? とりあえずカイルは変に人を陥れるようなことはしないけど…… だからこそ何なのかが気になる。
だいたいのカイルの欲求なんて、食べ物か闘争のどちらかだろう。いやー どちらも想定できないなぁ。食べ物なら「雄牛の角亭」にいた方が良いだろうし、ドンパチは…… いや、まさか王都の真ん中ででっかい花火を打ち上げる的な?!
「それはダメでしょ!」
「は?」
身体ごと振り返って不思議そうな顔をされた。ドライバーがよそ見したところで、制御コンピューターのパンサーがいるので運転には問題ないのだが。カイルにそんな顔されるのはなんか釈然としない。
ポンポン、とあたしの頭にジェルの手が置かれる。
「いつも愉快な発想をするから、そうやって内心で人を謎にディスるのですよ。」
なによぉ。と思いつつも、なんつーか、強く反論できないし、こー頭をポンポンされるのは悪くは……ない。なんでかは知らんけど。
「まぁ、」
ジェルが、また前に向き直ったカイルにチラリと目を向けて、鼻から小さく息を吐く。
「めでたいことだと思いたいですな。」
何処か含みのある言い方なのが、ちょっと気になった。
まぁ途中休憩を挟みながら、って何処まで行っても何か施設があるわけでもない。それこそ小さな村があったりする場合もあるが…… まぁ、トイレはどこも似たり寄ったりで、パンサー1に積んである簡易トイレの方がずっと安心なわけで。
朝食後に出発したので、途中で走りながらの昼ご飯を交えて、午後に王都に到着。
ボンネットに描いてある(王城からもらった)通行用の紋章と、特徴的な車両はすでに定着していたのか、特に何も言われずに門番は通してくれる。何か止められたとしても、こっちには一応子爵様がいるので、どうにかなっただろう。
そのまま王都の中を進むと、全部で五層ある王都の第三層――貴族の住む区画に入っていく。
さすがにこの辺はお世話になってるパレリさんとこの服屋と、マダム・バタフライのところしか知らないしなぁ。そもそも王都に行ったところで特に観光らしいことしてなかったわけだし。……一度ゆっくり回りたいかも。
そんなことを思いながら、知らない街中をトロトロと走る。
しばらく、って程ではないがほどなく一軒の屋敷が正面に見えてくる。随分と大きい。その辺でパンサー1の速度が落ちる。
……ここが目的地か?
ん~と、そもそもカイルが王都のお貴族様と知り合いだったのか、って疑問がわいてきた。いや、そういえば…… あれ? なんか忘れているような気がする。
あ、待てよ。なんか不意に、この国の第二王女のルビリア姫――ルビィの顔が脳裏に浮かんだ。そして思い出した一人の戦乙女のことを。
ルビィが色々あって「雄牛の角亭」に入り浸るようになったころから、彼女の直属の護衛であるソフィア。彼女はある時期からあんまり姿を見せなくなったんだけど……
そういえばカイルとその、一晩、過ごしたらしい。もしその時、それがあーなってたとしたら……
計算は合うな。
となると、えっと、そういうこと、なの?
ジェルが言うところの「めでたいこと」って、確かに上手く行ったらめでたいよね。
でもこういうことって、万が一も考えなきゃならないからジェルもってことなんだろうか。
「……そういうこと?」
あたしの声にジェルが小さく頷く。
「そういうことです。
カイル、もう言っていいよな?」
「そうだな。……頼む。」
珍しく、ちょっとか細い声で言うので、カイルにとってもなかなかのプレッシャーらしい。気持ちは分からないが、なんとなく分かる。
「第八騎士団の副団長、ソフィアさんがそろそろ予定日だそうです。」
「予定日……」
「そう、いわゆる『おめでた』。具体的に言えば、出産予定日です。」
ジェルの言葉にカイルがどこか気まずそうに窓の外へ視線を向けた。
お読みいただきありがとうございます




