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異世界行ってもチーム・グリフォン!2  作者: 財油 雷矢
小ネタ集

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117/152

伯爵の話、おまけ

あらすじ:

 フェルナン=フォン=ダーメルク伯爵の話のちょっとしたオマケ

 コンラッド王城内。

 気難しい顔をした宮廷魔術師のギルバートが石造りの廊下を自室に向かって歩いている。これから数日城を空けるので、溜まっている仕事を一気に片付けてきた。時間は昼前というところだが、なんやかんやで「向こう」に着くころには昼になっていることだろう。

 まぁ「向こう」での楽しみは食事なので、それはいい。


「しかし面倒だ……」


 そして「向こう」には頭痛のタネがある。今度はどんなことを言いだすことか……


「の割には、なんか嬉しそうであるな。」

「げ、」


 ギルバートの私室の前で腕を組んで壁にもたれかかっているダンディ――フェルナン=フォン=ダーメルク伯爵が、よぉ、と気さくに手を上げた。それに渋面を浮かべたギルバートを見て楽しそうに笑う。


「良きかな良きかな。

 吾輩の耳にも色々届いておるが、貴殿の頭脳に対抗できる相手ができたそうだな。吾輩わがはい、自分のことのように嬉しいぞ。」


 最後の一言は不意に真顔になって言うので、色々考えてしまって言葉が詰まってしまう。


「なーんてな!

 よし、ギルよ。あの麗しの美食を求めてハンブロンに向かうぞ!」

「…………」


 一瞬、どうやって断ろうかと思ったが、諸般の事情で付き合いが長いので、自分の知ってる信頼はできるが信用ができない男と同じ匂いを感じて諦める。周到な伯爵のことだ。それこそ「下拵え」は十分で、ギルバートが何を言おうとも手は打ってあるのだろう。

 自力の転移魔法を使うことも考えたが、消耗も激しいし、そこまでするメリットが薄ければ、やらなかった時のデメリットが余りにも大きい。仮に強行したとしたら、数カ月はグチグチ言われること間違いなしだ。

 ため息を一つ。

 無言で自室のドアを開くと、視線で中に入るように促す。

 魔術師の私室がどのようなのか、というのはなかなかイメージしづらいが、ギルバートの場合はもっと違和感がある。

 何というか「武器庫」なのである。壁の一面に剣や短剣が陳列されているのだ。別に魔法使いだからといって剣を使ってはいけないルールはないが普通は使わないはずだ。

 その中に見慣れないデザインのナイフがある。


「ふむ、これは?」

「これはある男からもらったナイフです。魔力は一切ないですが、手練れが握ればミスリルのナイフを切り飛ばすことができます。というか実際に見たのですが。」

「ほぉ……」


 どこかでお話ししますよ、という言葉に好奇心は後回しにして、反対側の壁にあるドアをくぐる。

 そこは調度も何もない石の壁に囲まれた小部屋で、床に描かれた円と複雑な模様――魔法陣だけ唯一の設置物だ。

 もう色々考えるのも面倒になったのか、フェルナンが円内に入ったのを確認すると、陣の中央に手を触れ魔力を流し込む。

 そこから魔法陣の線が中心から広がるように光り、部屋全体が輝いたかと思うと、光が消えた後には何一つ誰一人残っていなかった。



「で、ギルさんとダーメルク卿ってどういう知り合いなんですか?」

「……そして、相変わらず無駄に鋭いと来ている。」


 ハンブロンの「雄牛の角亭」まで転送陣で移動してきた二人。フェルナンはさっさとカウンターにつくと、厨房のアイラやリーナと話をしながら、料理が出るのを待っている。

 ギルバートはほぼ定位置になりつつある、ジェラードとラシェルのテーブルに着いた。領主のジェニファーもワインを傾けている。


「どこか負い目というか…… 恩、みたいなものを感じましてね。」

「…………そうだな。まぁ、秘密にするほどの話でもないが、俺が平民上がり、というのは知ってるな。」


 頷くジェラードにギルバートが言葉を続ける。


「俺は実は孤児でな。物心ついたころにはコンラッドの外周部でゴミ拾いをする生活をしていた。

 そこを、ダーメルク卿に拾われたんだ。」


 その言葉にラシェルが驚いた顔をして隣のジェラードに目を向けるが、また向き直る。


「しばらく伯爵の屋敷で行儀に勉強、武器の鍛錬とか色々させられて、数年経ったら城に連れていかれてバカ王子のお目付け役に。

 その時に魔法の勉強も増えて、気づけば宮廷魔術師なんて呼ばれるようになってな。」


 どこか複雑な感情を滲ませながら語るギルバート。


「そういう意味では私もダーメルク卿の後押しで王子やギル坊の教師をしてたような気がするな。その後、ハンブロンの町に戻ることになったときも……」


 ジェニファーの呟きでついついカウンターで陽気に食べている初老の伯爵の方に四人の目が向いてしまう。



「ふむ、良い肉じゃな。特に右側。吾輩の見たところ、じっくり焼いてシンプルな味付けが美味そうであるな。」

「仰る通りですね。それでは調理してきます。」


 厨房に面したカウンターで、前菜に舌鼓を打ちながら、見せられた肉の塊を観察する。アイラが肉を切り分けて、リーナがコンロにそれを持って行く。


「お客様、凄いですね。ホントにこちらの方が肉質いいです。」


 他の料理用に更に切り分けていたアイラが、包丁の入り方に違いを感じた。


「うむ、」


 背後から感じる視線に口元に小さく笑みを浮かべるフェルナン。


「吾輩、これでも昔から『目利き』が得意なのである。」

お読みいただきありがとうございます

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