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異世界行ってもチーム・グリフォン!2  作者: 財油 雷矢
小ネタ集
113/130

伯爵の来襲

あらすじ:

 ある日、「雄牛の角亭」を訪れた客は貴族を名乗る紳士だった

「空いてるかな?」

「はい、いつでも空いております。」

『ちょっとーっ?!』


 その日、ハンブロンの町にある「雄牛の角亭」に現れたのは、身なりの良い男性の二人組であった。

 声をかけてきたのは、この世界では初老に達しているだろう男性だ。それでも背筋は伸び、細身に見えるが見る人が見れば足運びで何かしらの武術の達人だと分かるかもしれない。

 灰色の髪を持つ、一言で説明するなら「ダンディなおじさま」な外見である。にじみ出る雰囲気は紳士ジェントルマンの名に相応しかろう。

 そして男性の問いに、ホントに悪気無く(・・・・)答えたリーナの言葉に、厨房からアイラの絶叫が聞こえてくる。

 その和気あいあいな雰囲気に、紳士が破顔した。


「実に雰囲気の明るい店だ。素晴らしい。

 ……おっと、レディを前に名乗らないのは失礼だな。

 吾輩わがはいはフェルナン・フォン・ダーメルク。この国の貴族の末席を担っておる。こっちは甥にあたるジャンだ。」

「ご丁寧にどうもありがとうございます。私はアイリーナ。リーナと呼んでいただければ結構です。」

「厚情痛み入る。」

「はい、それでは席に案内いたします。そちらの方もどうぞ。」


 と、テーブルを勧めて、そのまま流れるように厨房からお冷を受け取って二人の前に置く。


「こちら水となります。」

「噂には聞いたが、冷たい水が出るとは驚きだ。……しかも、甘露を思わせる美味だ。」

「ありがとうございます。それと、噂、ですか?」


 リーナが小首をかしげる。


「うむ、その店は火も魔法も使わない不思議な光で照らされていて、新鮮な材料で見たこともない料理が出てくるという……」

「そうなのですか。」

「吾輩、美味しいものには目が無くてな。最近王都でも新しい料理が流行り始めていて、注目していたが、厳しい言い方だがまだまだ研鑽けんさんが足りてない、という印象だ。」

「なるほど。」

「それで風の噂にこの店のことを聞き、居ても立っても居られずに、来てしまったのだよ。」

「まぁ、それはありがとうございます。」


 リーナがぺこりと頭を下げる。


「当店ではまだメニューができておりませんので、どのような物が食べたいか言ってもらえれば、ご期待に沿えるよう努力いたします。」

「ふむ…… ではテンプラを貰えるか?」


 それはかつて第二王女の快復祝いの席に出た、異国の旅人がもたらしたという伝説の料理。その場で食べたのだが、実に新しい食感の料理であった。


「はい、かしこまりました。材料を確認してきますので少々お待ちください。」

「なに?!」


 フェルナンとしては軽い気持ちで聞いたのだが、リーナが快諾したことに思わず声が出てしまう。


「ちょっと待たれよ!」

「はい?」

「その…… なんだ、貴殿は『テンプラ』を作れるというのか?」

「まぁ、まだつたなくはではありますが。」


 ちなみに、リーナの料理に関する「まだまだです」は話半分に聞いた方がいい。


「……その、作るところを見せてもらってもいいか?」


 真剣な表情のフェルナンに、リーナはちょっと考えるそぶりをすると、厨房の方を一度振り返って、彼に向き直る。


「店長が許可していただけたら……」

『ちょっとーっ?!』


 厨房から悲鳴のような声が聞こえてきて――いや、実際に悲鳴だろう――、すこしドタバタ音がしたかと思うと、厨房から店長ことアイラが姿を現した。頑張ってすまし顔しているようだが、若干息が荒いのは彼女の名誉のために見なかったことにするのがジェントルというものだろう。


「店長を勤めさせていただいているアイラと申します。本日は当店をご利用いただきありがとうございます。」


 ぎこちない表情・口調・仕草で、一応覚えた淑女の礼をするアイラにフェルナンは恭しく一礼をする。


「ふむ、かたじけない。

 で、先ほどこのリーナ嬢にも話したのだが、テンプラの作り方を是非見てみたい。可能なら教えて欲しいのだ。」

「えっと……?」


 リーナの方を見るが、少女はいつもの柔らかい笑みを浮かべているだけであった。


(……ん~ 実はあたしも気になるのよね。)


 過去にリーナが王城の料理人に「テンプラ」なる料理を教えたことがあるのだが、その時は仕込みを少し手伝っただけで、調理法どころか実物も見る機会がなかったし、その後も食卓に出ることも無かった。頼めば良かったのかもしれないが、それもタイミングがどうも合わなかった。


「じゃ、リーナお願い。」

「はい、かしこまりました。先に材料の確認をしてきますので、アイラさんは揚げ油の準備をお願いいたします。」

「了解~」


 厨房に案内されたフェルナンとジャンは厨房の設備を興味津々と眺めているが、理解が追い付かないようだ。

 アイラはかつて自分もそうだったな、と思い返しながらも、コンロに油を入れた鍋を置いて温度を調整する。

 その間、リーナは目を閉じて、考え事をするように指を小さく振ると、冷蔵庫を開けて中を確認する。

 どうやら今日はたまたま海産物もある日だったので、いくつかチョイスして用意をする。


「それでは始めましょう。」


 エプロンをつけたリーナが小さく拳を握りしめた。

お読みいただきありがとうございます

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