妄想メイドは暴走す
あらすじ:
寝る前の時間のメイド少女たちの会話とは……?
「デ、ホントに海はどうだったの?」
ミリアの言葉にハルカの視線が横に流れる。
「?」
「えっと…… メイド水着、でした……」
「WHAT?」
食いついてきたのでサラッと流せなかったようだ。選択を誤ったらしい。普通の、って言っておけばよかったのかもしれない。
仕方なく、ざっくりとしたデザインを説明する。基本はビキニでボトムにはスカート付き。フリルがあしらわれていたけど、やっぱりビキニで、頭にはホワイトブリム、という感じだ。
「OH~」
視線が少し下に向くと、大げさに首を振るミリア。ハルカがむぅ、と唸りながら胸元で腕を交差させる。同い年とはいえ、人種的なものは影響するし、そもそもハルカは周囲に比べて小柄で華奢であった。
「ハルカ、なかなかの勇者ナノデス。」
「いいんです。ジェラードさんそういうこと気にしない人みたいですし。」
「フ~ン…… それでなんかアバンチュールはあったの?」
「へ?!」
なかなかの単語に思わず変な声が出る。
ただ、ミリアはどこか冷静に、異世界に来てからの同郷の親友の表情を観察する。
(フ~ン、これはちょっとしたイベントはあったけど、その程度止まりってとこですネー。)
残念デ~ス、と小さく首を振る。
もう一度ハルカがむぅ、と唸る。
「な、何勝手に納得しているんですか! これでも水着の時に後ろからハグされたり……」
(ウ~ン…… あ、マリンバイクとかそういうのの二人乗りならありえますネー。)
正解である。
「腕にしがみついて、しばらくギューってしてましたし……」
(ナルホド、キット姫様に言われてやらされたんデスネー。)
二問連続正解。
「えっと、えっと……」
思ったよりもエピソードは無いのか、しばらく視線を宙に彷徨わせているが、思い当たったがちょっと彼女的に問題があったのか、視線が床に落ちる。
「そ、その…… ひざ、まくら?をしてもらったような……?」
「さすがにソレは分からないデスネ。」
「は?」
何となく、温度差を感じた気がする。
「まぁでも色々あったようで、羨ましいデスネ。こちらはこちらで結構退屈だったのデスヨ。」
「でもこっちでも色々手続き的なものや、作業待ちでそれなりに時間がありましたよ。
姫様たちと同室だったので、タブレットで何か読んでるわけにもいきませんし。」
この世界は元の世界と比べれば娯楽が少なすぎる。昔流行った歌ではないが、テレビどころかラジオもないわけで。
更に言えば、陽が昇って明るくなったら起きて、陽が沈んだら寝る、くらいなところも珍しくない。
「まぁ、それでも意外とドタバタして、退屈はしなかったかなぁ……」
どこか大変だったと言いたげな口調だが、顔は楽しげなのでヤレヤレデ~ス、という風に肩をすくめるミリアだが、内心は異世界に来てからずっとつるんでいる親友が喜んでいる姿は自分のことのように嬉しい。
もしかしたら喜びついでに口が軽くなってるかもしれない、と思って、前々から気になっていることを聞いてみた。
「デ、結局ハルカはジェラードさんのこと、どこまで考えてイルノ?」
「どこまで……」
ふとハルカが遠い目をする。
「正直言うと…… ラシェルさんとか姫様を押しのけてお嫁さんになりたい! ってわけでもないんですよね。」
「パードゥン?」
どういうことだろうか。
「意外とこーゆーメイドって、性に合っていそうな気がするんですよね。
まだそんな感じはまるでしないんですが、もしも許されるなら、家庭を持ったジェラードさんのもとで働きたいかなぁ、と。」
「ホゥホゥ。」
まぁ「ご主人様」としてはなかなか理想的な人かもしれない。
適度にだらしなく世話のし甲斐はあり、金払いは良いだろうし、噂に聞くようなダメ貴族のような無碍な扱いもないだろう。
「それでたまーに『お情け』でもくれたらもう……」
何を想像しているのが不安になるような表情でクネクネ蠢く親友に、ミリアの口から壮大にため息が漏れる。
「どこの『ウスイホン』デスカ……」
その方面にも理解がある二人――ちなみに前にジェラードからもらったタブレットには、過去の漫画のアーカイブに交じって市販されていないページ数の少ない冊子もデータ化されていたので狂喜乱舞したのは懐かしい思い出である――であるが、それと同一視されるのはいささか何かに触れたらしく、不意に動きを止めたハルカがジト目で睨んでくる。
「そういうミリアはどうなんですか?」
「WHAT? アーソウデスネー……」
普段以上の片言になったミリアもなかなか痛いところがあるらしい。
「ワタシはジェラードさんよりもヒューイさん、カイルさんみたいな肉体派デスネー。
でもリーナさんには敵わないし、カイルさんに釣り合うほどのイイ女にも程遠いデ~ス……」
「それは……」
「ノーノー、気にしなくても大丈夫デース。世の中広いですから、もっとイイ男いるデ~ス!」
「いやぁ、あのお三方を超える人ってそんなにいます?」
「OH~ 異世界は無情デスネ……」
多分異世界じゃなくても同じだと思うが、パジャマ姿の二人の話しは留まることは無いようであった。
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