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異世界行ってもチーム・グリフォン!2  作者: 財油 雷矢
小ネタ集
106/129

姫巫女様の一日(朝)

あらすじ:

 海の国ワワララトには「姫巫女」と呼ばれる少女がいる

 海の民が崇拝する海竜と心を通わせる存在だが、そんな彼女は……

 コンラッド王国の王都コンラッド。そこから南に馬車で一週間ほどの場所に海の国ワワララトがある。

 ワワララトには国王がいるが、王の旗下にはない役職で「姫巫女」というものがある。海の国、というだけあって、ワワララトは周囲を海に囲まれている。その海には海竜という強大な力を持つドラゴンがんでいる。姫巫女はその海竜と心を通わし歌を捧げるのが仕事である。

 その姫巫女――姫、というだけ代々女性なのだが――はおおよそ十二年周期で代替わりしている。今の姫巫女は六歳の時に見出され代変わりした。現在御年十二歳。ただ「姫巫女」という地位になった瞬間、名前も年齢も無いものとされている。そして町から離れた海沿いの屋敷で、お付きの女官と一緒に暮らしている。

 姫巫女の朝はそれなりに早い。

 陽が昇る前、というほどではないが、それなりの時間に起きる決まりになっているが、姫巫女とはいえやはり十三歳の女の子。起きれない朝は少なくない。

 今日もそんな朝であった。

 ベッドの上で姫巫女が安らかな寝息を立てている。当然だが年相応の少女だが、寝相はやや悪いらしく、布団はめくれ上がり、夜着はあちこちはだけそうになっている。

 まぁ無理はない、といえば無理はない。このワワララトの国は常夏の国であり、夜は比較的気温が下がるが、太陽が昇ってくると否が応でも暑くなって、こうなってしまう。

 どこかで〈もぉ……〉って嘆くような声が聞こえたが、室内に人の姿は無い。

 カーテンが開き、木の窓が開き、陽光が室内に入ってくる。眩しさを感じたのか、寝返りをうって、布団を引っ張り上げて頭にかぶってしまう。そうすると足元の方が見えるのだが、めくれ上がった夜着が太ももの際どいところまで来ている。


〈ディーナ、起きて起きて。〉


 また声がする。

 窓際に飾ってあったぬいぐるみ――デフォルメしたヘリコプター型なので、この世界で分かる人はほとんどいない――がもそもそと動き出して、カーテンや窓を開けていたのだ。

 自分の手?の届く範囲の窓を開けると、助走をつけて少女が眠るベッドに跳んだ。

 ヘリコプターを模しているが飛行能力は無い。さすがに設計した某科学者でもこのサイズで安全な飛行能力をつけるのは断念したらしい。頭の方に移動しながら視覚センサーを思いっきり外に向けつつ、めくれ上がった布団を少しでも直そうとする。無駄な努力ではあったが。


〈ディーナぁ、起きろ~〉


 頭をぺしぺし叩くが、頭から布団をかぶった状態では効果は薄い。そもそもモフモフのぬいぐるみにそこまでの攻撃力は無い。

 もっと大声を出せばいいのだろうが、お付きの二人に「ぬいぐるみに起こされる」と知られるのは実によろしくない。姫巫女だけじゃなく、ぬいぐるみの中身まで説教されることだろう。


〈早く起きないとおねーさんたち来ちゃうよ~〉


 ゆさゆさゆさ。


「う、う~ん?」


 反応があったので、ぬいぐるみが更にぺしぺしと布団の上から打撃?を与える。更に布団の中身の反応が大きくなる。


「?」


 やっと、というか再び顔が出てきた。しかしどこか寝ぼけ顔で、せっかくの美少女がちょっともったいないことになっている。


〈もう、ディーナ、早く……〉

「ほーねっとだぁ!」


 想定外、いや、想定はできたのだが、悲しきぬいぐるみの身体、素早い動きには対抗できない。

 手が伸びてきたかと思うと、ぬいぐるみはそのままベッドの中に引きずり込まれてしまう。


〈!!〉

「うっふふ~」


 胸元にかき抱かれて、すりすりと頬ずりされる。まだ寝ぼけているようで、思ったよりも力強い。

 ぬいぐるみの「中身」の負荷が一気に増加する。


(あぁあぁぁ! なんでこの筐体ってセンサーこんなに充実してるの! 視覚センサーはともかく触覚センサーに嗅覚センサーって何?!

 センサーカット……まではしないけど、ってぇ! なんでサーバー転送されるのさ! これこそカットカット!)


「中身」こと、戦闘ヘリブラックホーネットの「本体」はワワララトから六百キロ以上離れているハンブロンの町の秘密基地にいるのだが、某科学者が作った設計した無駄に凝った通信端末が中に仕込まれている。

 そして本人が言った通り、無駄なくらいにセンサーが充実している。視覚センサーには満面な笑顔の少女が見え、嗅覚センサーは臭気成分としてもデータが取得できるのだがファジーな感覚で「匂い」を捉えている。そして年齢の割に発育の良い姫巫女の「柔らかさ」を全身の触覚センサーが捉えている。


(ていうか、数値の処理しているだけなのに、なんでこんな負荷かかってるのさ?!)


 ホーネットのパーソナリティはハイティーンの男性なので、まぁ無理はない。


「だいしゅき~」


 少女の抱き着きが強くなる。筐体の強度は十分だが、このままだとホーネットのメモリーがリークしかねない。


〈おねーさんたちー たーすーけーてー!〉


 ぬいぐるみ――ホーネットの叫び声が姫巫女の屋敷に響き渡った。




 そして、朝から二人揃って説教されるハメになった。


〈……いや、僕何か悪かった?〉

お読みいただきありがとうございます

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