色々買いあさろう
あらすじ:
ミスキスと町に出たラシェル。昼食を終えて、馴染みの店に行くことに
「あら、前連れてたのとは別の子ね?」
それ男相手に言うと騒動しか起きない奴ー。
と、口には出さなかったが顔には出ていたようで、女店長が口元に浮かんだ独特のクププ、って笑みを手で隠す。
物も良いんだが、値段も良く、それでいて店長がちょっと問題、という残念ながらすっかり馴染みのブティックに来ている。……ちなみに大変残念なことに、あたしのお財布ではちと厳しいところだったりする。
でも物が良いのはジェルも知っていて、リーナちゃんの身の回りの品と一緒にあたしの物も結構買わせてもらっている。というか、ジェルは色んな特許を持っているらしく、お金に関してはデータにしか見えないそうで。そりゃまぁ、個人で宇宙船とその整備ドッグ他を持っているわけだし。それでも変な贅沢はしないし、無駄遣いはそんなに好まないらしい。ちなみにリーナちゃん(とあたし)の服飾費に関しては「女の子が着飾るのは必要経費です」とあたしが力説したため、特に何か言われたことはない。
ちなみに使うときは限度無く使う。それでも上手なのか器用なのか、それを悟らせないところはある。……慣れてきてるけど、そばで見ているとたまに心臓に悪いこともある。
「でもホント、いつもの子はいないの? あの子に合いそうなの取ってあるのに~」
「……それは貰う。」
性格はアレだが、センスは抜群だ。ああ、そうだ。あっちの世界の服屋のパレリさんを見たときに何となくここの店長を思い出したんだ。そう思うと、見かけはともかく雰囲気は近い。並行世界の同一人物だったら怖いというか、凄い。
「そーれーとー、あっちの子ね。」
店長の目がミスキスを捉えると、無表情なはずの彼女の顔に明らかに怯えの色が走る。
斥候のはずのミスキスの背後を取ると、店長はそのまま謎の力で店の奥に彼女を連行していく。
……うん、あたしも最初にやられた。スタイルには気を付けていないと「あら? 変わった?」と「測り直し」になるから、マジで節制は必要。
数分後――いや、それでも早いんだ――どこか恨みがましい目をしながらミスキスが戻ってくる。そんな顔もできるんだな、って言ったらさすがに刺されるかもしれない。
「スレンダーだけど身体のラインが綺麗だわ~ 飾り甲斐があるってものね。」
クププ、と笑みを浮かべながら、満足げに戻ってくる「店長」。早速、合う服を探しに店の中を駆け回る。
『ハメられた。』
「人聞きが悪い。」
『異郷の地で亡き者にされるとは。』
「なってないなってない。
ジェルのお金でいくらでも買ってあげるから好きなの選んで。」
他力本願なことを言うと、機嫌を直したのか(そもそも不機嫌だったのかどうか不明だが)周りにある服を手に取り始める。
『あ、これリリーに似合いそう。』
明るい色のシャツを見つけて、どこか顔をほころばせるミスキス。あたしはその近くにあった同じような色合いのシャツを手にとって、ミスキスの身体に当てる。
「うん、これで二人の色合いがあってお揃いにみえるかもね。」
あたしがそう言うと、一瞬驚いた顔をしたが、そのままスカウトさながらの動きであちこち動き回ると、同じようなシャツを色違いで手に取って戻ってくる。
『これはアイラ、これはリーナ……』
と、三枚目のシャツをあたしの身体に当てる。お、色もあたし好みだ。
『うん、サイズもバッチリ。』
目はいつものぽややんとした感じだけど、顔がちょっと赤いので、照れているのかもしれない。
「あら、若いっていいわねぇ……」
年齢不詳の美女である「店長」があたしの背後にいきなり現れた。いや、気配がしなかっただけで普通に来ているはずだ。ジェルの気配は何となく分かるんだけど「店長」の気配だけは全く分からない。それこそ向こうのパレリさんと同じ感じだ。……ホントに同一人物じゃなかろうか。
荷物運搬用のホバーワゴンには梱包された服が山積みにされている。先にリーナちゃんから聞いたアイラとリリー、それと領主であるジェニーさんのスリーサイズや身長、写真を「店長」に送っておいて上から下までに中まで含めて服を見繕ってもらっていた。
……アイラとジェニーさんのスリーサイズは知りたくなかった。
その後ろにもホバーワゴン満載の荷物が見えるので、この時点でスポーツカーのパンサーに詰める量では無くなっている。
「ま、こうやって持ってきたけど、持っていけないよね?」
《あ~ そこは何となります。》
不意に通信機にパンサーの声が聞こえてきた。どこか戸惑った感じだけど……?
言われるがままに店の外に出てみると、スポーツカーのパンサーの後ろに、同じような色合いのいわゆるSUVが停まっていた。
向こうで使っていたピックアップトラックほどではないが、それなりに大きいので、ここで買った物(全部まとめて信じられない金額になった)を詰めるくらいの容量はある。
〈今度向こうで使う用の予備ボディだそうです。〉
まぁ確かに異世界には舗装道路は無いので、こういう車両の方が便利よね。それを遠隔操作というか自動運転で持ってきたらしい。積んであった箱型汎用作業機械が買った服をドンドン積んでいくと、パンサーの指示で研究所に戻っていく。
よし、今日はこれくらいで勘弁しといてやるか。そう決めて、あたしたちもパンサーに乗って研究所への帰路に就くのであった。
お読みいただきありがとうございます




