遺恨
あれから数日後。トーマスはスレイド城を訪れていた。シャルナの葬儀を執り行うためだ。
「僕はシャルナを、守ってやれなかった」
黒く焼けたキャンパスの断片。それが遺体の代わりだった。幻想世界で死を迎えたシャルナの遺体は戻ってこなかった。
「お前は、できることをやろうとした。今回はそれが及ばなかっただけだ」
肩を震わせるトーマスの後ろから声をかけるフランダル。
「及ばなかった……? そんな理由で許されるのか? そんな理由で、死んでもいいっていうのか……!?」
悲しみと怒りがない交ぜになった表情で、トーマスはフランダルを振り返った。
「そうは言ってないさ。ただ、いつもうまくいくとは限らない。たとえ、いくら力を持っていたってな」
「そんなもの、何の慰めにもならない! シャルナはもう帰ってこないんだよ!」
「わかってるさ。だから今は、せめて彼女が安らかに眠れるように祈るんだ。残された俺たちにできるのは、それだけだ」
トーマスは歯を食いしばり、何事か言おうとした。言おうとしたが、言葉が出てこない。怒りか、悲しみか。自分が抱いている感情さえうまく表現できない。ただやるせなさと、後悔だけははっきりと残っていた。
「僕は――」
「やめておけ」
言いかけた言葉を遮られ、トーマスはなおのこと腹が立った。
「どうして……!」
「俺たちは復讐のためにいるわけじゃない。シャルナが死んだのは悲しい事実だが、私情を挟んではいけない。それが掟だ」
「あんた、それでも人間か!? どうしてそんな冷静でいられるんだ? シャルナは勝手に死んだんじゃない! 殺されたんだぞ!」
「俺もたくさん失ってきたさ。シャルナもその一人だ。お前の痛みだって、よくわかってるつもりだ。」
「何が、理の番人だ! 誰に何をされても、黙って見てろっていうのか!? 僕にはそんなことできない!」
怒りを爆発させたトーマスは城を飛び出した。
シャルナの仇は必ず僕がとる。このままにしておいていいはずがない。掟なんか知るものか。あの男を殺すためなら、僕は理を超えてやる。
雪道に足跡を残すトーマスの背中は、やがて吹雪の中へと消えていった。




