シャルナ
この世界では、シャルナはいわゆる転生者だった。異世界で一度死を迎え、その記憶や知識を全て持ったうえで再度、生を受けた。
だから前世で自分がどんな死に方をしたのかも、はっきりと思い出せる。傍目に見ても、いい死に様だったとは言い難い。なぜなら、自死を選んだから。
原因は戦争だ。これだけは明確。父も母も、戦火に巻き込まれて死んだ。シャルナが14歳のときだ。そのあとは2つ年の離れた兄と、国中を転々とした。
しかし、兄もやがて病に侵されて死に至る。一人取り残されたシャルナは、ただただ絶望に打ちひしがれた。
己の人生を、命運を、境遇を呪った。神を恨み、人を恨み、自分をも恨んだ。なぜ自分がこんな目に遭わなくてはいけないのか。なぜ? なぜ? そう思うたびに悲しくなった。
戦時中とあっては、似たような状況に置かれている人など数限りなくいる。自分だけが特別でないことなど、理解しているつもりだった。
自分は特別じゃない。自分だけが苦しいのではない。そう言い聞かせるほどに、生きているのが辛くなる。そんなことを言ったって、何の救いにもならないのは痛いほどわかっているから。
孤独、恐怖、空腹、そして精神的な苦痛。あらゆるものに打ち勝てなくなったとき、強烈な感情が腹の底から湧いてきた。
死にたい。
死んで楽になりたい。死ねば、きっと今よりずっと楽になる。解放される。幸せになれる。
思えば思うほど、その気持ちは増幅していった。
そして、死んだ。どこともわからない道端の木で、首を吊って。
二度と目覚めることはないと思っていたのに、というよりむしろ、それを心から望んでいたのに、シャルナは目覚めることになる。それも、自分が知っている世界とはずいぶんと異なる場所で。
そこでシャルナは、愛を受けた。誰とも知れぬ両親から、忘れてしまっていた愛情をたくさん注がれた。幸せだった。天国だと思った。
家は裕福ではなかったものの、幸せな家庭があって、温かい食事があって、帰る家があるというだけで満足だった。
しばらくは、自分が前世でどんな思いをしてきたか忘れてしまうほど、シャルナは浮かれていた。
歌うことが好きで、よく軒先に出ては歌を歌っていた。両親も娘の歌っている姿が好きなようだった。近所の人たちからも、シャルナは歌がうまいと褒められた。
ある時シャルナは、自分に秘められた能力に気づく。きっかけは小鳥を呼び寄せたことだった。最初のうちは、歌声に乗せられて集まってきていたものと思っていたが、歌詞に鳥が出てくる歌の時しか、小鳥たちは寄ってこなかったのだ。
そのうち、特定の節に合わせて歌うと、自分の言ったことが現実になることをシャルナは突き止める。戸惑いもあったものの、人々は奇跡の歌声だと称し、シャルナをもてはやした。
噂は遠方の山奥にまで届き、やがてシャルナはフランダルという男と会うことになる。
彼は言った。「その力、人々のために役立ててみないか?」と。
自分の力が戦争で苦しんでいる人たちの助けになるのならと、シャルナは承諾した。
理の王の呼ばれるフランダルの仕事は時に危険が付きまとうような、奇妙な内容だった。しかし、自分と同じように特別な力を持ったり、戦争に発展するような事件に巻き込まれている人たちを助けたりすることは、シャルナにとって有意義だった。
二度目の人生にして、ようやく本物の生を実感している気さえしていた。
大人はいつでも、自分の都合のいいように他人を利用する。子供はそれにたびたび巻き込まれる。それもよくない形で。
ダラムーダなど、その典型だ。自身の二度の人生どちらもにおいて、最も忌諱すべき人間だ。
あの男を止めたい。なんなら、戦争をも終わらせてしまいたい。
しかし、それには障害がある。理の守護者という立場上、ジェイを守るために力をふるうことはできても、ダラムーダ本人に危害を加えることは許されない。歴史を歪めてしまう可能性があるからだ。
では、どうすればいいのか。今の自分にできることは明確だった。
ジェイを引き入れる。理の守護者たちの庇護のもとで、ジェイがよからぬ輩に利用されぬよう見守っていくのだ。
アンナの家に戻る道すがら、頭を巡らせていたシャルナが導き出した結論はそれだった。




