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理の王 ~転世者を裁く者たち~  作者: 鹿竜天世
第三章 災禍の歌声
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ギルダラ・エル・ダラムーダ

 教会都市ネレネア。隣国のカストシアから来たクラド聖騎士団によって占拠された町。リクリシア有数の荘厳な教会であるロモエッダ教会を中心に、主に農業と交易によって栄えている。周辺を自然豊かな土地に囲まれており、遠方から望む町の景色は教会の大きな尖塔も相まって絶景と称される。また、遠くからでもよく見えるこの町はランドマークとしても有名だった。


 シャルナも事情が事情でなければ、町に入る前に風景でも見ながら一息つきたいところだったが、今はそれどころではなかった。


 クラド聖騎士団による、子供の誘拐未遂。それは被害者が理外の者であるか否か以前に、由々しき問題であると感じていたからだ。自分が理の守護者であるかどうかも、さして重要ではなかった。


 反面、自分でも衝動的に行動している自覚があった。仮にもネレネアは戦争中の町だ。敵国の兵士に占拠されている場所へ単身乗り込むなど、普通に考えれば常軌を逸している。それがたとえ、国境の関係ない理の番人だとしても。


 いざ近づいてみると、町は思ったよりも平穏を取り戻しているようだった。決して人々に活気があるわけではない。しかし、通行規制などの特別な措置は講じられていないようで、シャルナも検問など受けることなく町へ入り込めた。


 町で最も大きな建造物を前にしたときも、シャルナの前に何者かが立ちはだかることはなかった。まるで自分が来ることを予期しているかのように。それがかえって不気味だった。


 この町は本当に占拠されているのだろうか。教会も開放されていて、中には祈りを捧げている人さえ見受けられる。


 この町を取り仕切っている人物がいるのなら教会だと思って来たのだが、当てが外れたかもしれない。祭壇に人は立っておらず、ろうそくの明かりでおぼろげに照らされた講堂内にはロド教の信奉者と思しき数人が手を合わせて祈っているだけだ。


 他を当たってみよう。そう思って踵を返したときだった。


「来るのはわかっていたぞ、理の守護者よ」


 低い男性の声がして振り返ると、祭壇の脇の小さな扉からこちらを見据える男の姿があった。


 やけに豪勢な黒い毛皮のローブを纏った男は、人の頭ほどもある大きな水晶のついた杖をついて迫ってくる。


 気がつくと、祈りを捧げていた者たちはいずこかに消え失せていた。


「ダラムーダ卿……?」


 勘繰るように尋ねると、男は両手を大げさに広げて答えた。


「いかにも。私がギルダラ・エル・ダラムーダ。ロド教会の枢機卿だ」


 白髪交じりの短髪。ところどころしわの目立つ細い顔。派手な金の縁取りがされたローブさえ着ていなければ、どこにでもいそうな初老の男性だ。しかしそのオーラは、紛れもなく指導者の風格を漂わせていた。


「ダラムーダ卿。お聞きしたいことがあって参りました」


 近くまで来るとわかるが、彼の身長は想像以上に高い。それがなおのこと、彼の威厳を増長させている。


 その雰囲気に負けじと、シャルナははっきりと発音した。


「ああ、知っているとも。理の守護者よ。名は――シャルナといったか」


 名を知られていることに驚きつつも、顔には出すまいと気を引き締め直す。


「ダラムーダ卿。今朝がた、クラド聖騎士団と思われる兵士が民家に押し入り、子供をさらおうとしました。あれはどういうことなのか、説明していただけますか」


「ふむ……。私の教徒がそのような蛮行を? 聞き及んではいないが、早急に調べさせ、然るべき処置をとらせよう」


 不信感を持って話しているシャルナには、ダラムーダの言葉が嘘偽りにしか聞こえない。


「あなたが命令したのではないのですか。私たちはその家に用があって伺いましたが、私たちが来るよりも早く、ロド教会の方たちが来ていたそうです」


「なるほど。私の知らぬ間に、そのような出来事が起きていたとは。しかし、仮に私が命令を下したとして、いったい何のために? その子供に何があるというのかね?」


「ある事件を起こした男の子の噂を、ダラムーダ卿はご存知ですか? その子供は、声を発するだけで動物の命を奪ったと」


「ほう、それは興味深い。それが、私の部下が連れ去ろうとした子供だと?」


「その通りです」


「では、その証拠が何かおありかな?」


「ありません」


「なかなか笑わせてくれる。威勢がいいのは良いが、憶測だけで我々を犯人扱いするのはよしたまえ」


「あなたが命令したんでしょう!?」


 非を認めようとしないダラムーダを相手に、シャルナは思わず声を荒げた。


「少し落ち着いたらどうかね。冷静になって考えてみたまえ。君は何の証拠もないのに、我々に子供を誘拐した罪を着せようとしているのだ。異常なのはどちらの方なのか、誰にでもわかる話だ」


「あなたには、自分が悪事を働いているという自覚がないのね。なんでも神の教えだかなんだか言って、正当化しようとしているだけじゃない。誰が戦争なんて望んでいるというの? 聖典にだって、そんなことは一つも書いてないじゃない!」


「つまみ出せ」


 シャルナの言うことは意に介さず、ダラムーダは低くしゃがれた声で命令した。


 即座に行動の入り口から衛兵たちが現れ、シャルナを羽交い絞めにする。


「あなたのしようとしていることは、必ず私たちが阻止して見せる! 理の番人を甘く見ないことね!」


 講堂から連れ出される最後の一瞬まで、シャルナはダラムーダから目を離さなかった。それほどまでに、あの男に嫌悪感を示していた。

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