行動開始
テムザが村に戻った頃には、もう夜が明け始めていた。
「ミリア!」
村に着くや否や、隻腕の鍛冶師がテムザのもとに駆け寄ってきた。
「彼女は――」
「俺の娘だ。ああ、こんなにボロボロになって…。悪かった。ごめんな。父ちゃんが悪いんだ」
片腕で娘を抱えて泣く父を見て、テムザは言った。
「悪いのはこちらのほうだ」
「なぜあなたが謝るんです? 悪いのは俺です。この娘が受けた仕打ちは消えない。俺の腕なんかよりもよほど深い傷を心に負ってしまった。この娘は一生、それを抱えて生きていかなきゃならない」
返す言葉が見当たらなかったテムザは、二人をそっとしておくことにした。
自分にもやるべきことがまだ残っている。それを終わらせるのだ。ヘイレスを亡き者にしたところで、解決というわけにはいかない。
あの少年は誰だったのか。ここへ来る烙日草の啓示は、ヘイレスのことを暗示していたのか。どこか釈然としない。あの花はもっと、別のことを知らせようとしていたのではないか。
――とにかく、少年を見つけ出すことが先決だ。
テムザは近場にあった木に近寄り、手を当てて目を閉じた。
――木々よ、草よ、花々よ。我の呼びかけに応え、この言葉を彼に伝えてほしい。
祈りを捧げると、呼応するように周囲の草花が風に揺れる。
これは万が一のための保険だ。少年だけならばいざ知らず、ここにはあのゼルヴェも姿を見せている。ゼキア家の人間ともあろう者とぶつかれば、勝てるかどうかは賭けになる。
目を開いたテムザは、草木の声に耳を澄ませた。ここから先、力の出し惜しみはしない。その分、いくらか副作用が出るが、気にはしていられない状況だ。
木々が草花の声を伝え、風に乗ってテムザの耳へと届く。
「そこか」
はっきりと少年の位置を把握したテムザは、森の中へと歩を進めていった。




