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理の王 ~転世者を裁く者たち~  作者: 鹿竜天世
第二章 花冠の王
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精霊の加護を受けし者

「すまない、あなたを助けられなかった」


 クルータノ方面へ向かう森に続く道すがら、エリックはミリアに謝罪した。


「どういう意味です? 私はこうして、あの屋敷から解放されました」


「村に戻れば、またあの男に見つかってしまう。あいつを殺さない限り、同じことの繰り返しだ。いや、今度はもっと酷い目に遭うかもしれない」


「やはり、彼を殺そうと――」


「それ以外、あなたを――いや、あの村を救う術はない」


「…私が、間違っていました」


 立ち止まるミリアの次の言葉を、エリックは待った。


「あなたに手紙を出すべきではなかったのです」


「手紙?」


「はい。手紙を読まれたから、ここに来てくださったのではないのですか?」


「いや、僕は僕の意思でここに来た。手紙とは何の話だ?」


 話の辻褄が合わず、首を傾げるエリック。


「助けを求める旨を書いた手紙を、シュナンティのゼルヴェ・ゼキア伯爵に送ったのです。てっきり、あなたがその伯爵だと思っていたのですが…」


「人違いだ。…そうか、あの銀髪の男か。とにかく、あなたはしばらく家には帰らないことだ。ここからクルータノに向かう道を歩いていけば、国境付近の小高い丘の上に家がある。そこにいる老人なら、きっと助けになってくれるはずだ」


 事情を知っているベイカーにミリアを託すことにしたエリックは、彼女を送り出して自分はヘイレスの屋敷に取って返すことにした。


 ゼルヴェという男。領主でありながら、人並外れた力を持っていた。自分と同じか、あるいは違う方法で何らかの力を得ているに違いない。


 その彼にミリアは手紙を送り、助けを求めたと言っていたが、だとしたらあの屋敷で何をしていた? 談笑してテーブルを囲み、殺す機会を窺っていたのか?


 真意はわからないが、ヘイレスが生きているなら、野放しにしておくことはできない。諸悪の根源を断ち切るのだ。


 それが、力を与えられし者の宿命なのだから。




 ◇ ◇ ◇




 エリックがこの世界に来たのは、今から半年ほど前だった。


 とある森の泉近くで目を覚ました彼は、前の世界で自分が死んだということをはっきりと覚えていた。そして自分でも意外にあっさりと、異世界転移したという事実を受け入れたのだ。


 理由はあった。


 その泉はどうやら精霊と呼ばれる不思議な存在が棲む場所であり、エリックはその精霊たちと会話ができた。


 精霊たちは、異世界からやってきたエリックに興味を持ち、取引を持ち掛けてきたのだ。


『わたしたちは今、この一帯に縛られて外に出られなくなっている。だから、呪いを解く手伝いをしてほしい。そうすれば、代わりに力を授けてやる』と。


 地元民によって張り巡らされたという呪いの品々を森から取り去ると、精霊たちは約束通りエリックに力を与えた。


『この精霊の加護がある限り、あなたは神秘の力を使うことができる。それを使って、多くの人々を救ってほしい。まずは、この近くに住む村人たちから。彼らは悪意ある精霊によって心を支配され、わたしたちをここに縛り付けたのだ』


 精霊はそう言って、泉の中に姿を消した。


 エリックは精霊に言われた通り、村人を苦しめる精霊を打ち倒し、その心を解放した。


 それからというもの、エリックは方々を転々として、それぞれの地域に蔓延っている悪を倒し続けた。


 生前の自分では、到底成しえなかったことだ。エリックは自分の行動に誇りを持ち始めていた。


 自分が死んだのは、病のせいだった。不治の病に侵され、医者には余命も宣告された。


 日増しに体の自由が利かなくなり、最後には寝たきりになった。


 家族は一様にして自分を励ましたり、元気づけようと試行錯誤してくれたりしていたが、エリックにとって、そんなことは何の励ましにもならなかった。


 あまりにも呆気なく、あまりにも不甲斐ない人生。毎晩エリックは涙で枕を濡らしていた。


 その幕切れも、あまりに唐突だった。苦しみから解放されるという謎の安心感さえあった。


 それが今では、人々から頼られる存在になっているのだ。


 苦しんでいる人々を救い、英雄として称えられる。これほど気持ちの良いことはなかった。


 自分の天命はここにある。心からそう感じていた。


 今回も必ず救い出して見せる。ヘイレスから虐げられてきた人々は、真っ暗で何も見えない場所で彷徨い続けているのだ。


 そんなことは許されない。


 そう、この僕が許さないのだ。

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