エリック
イルドラとクルータノの国境付近にほど近い小高い丘。その上にぽつんと立つ一軒家を、一人の少年が訪れていた。
彼の名はエリック。短く刈り上げた茶色い髪に、グレーの瞳。黒いマントを羽織っており、その内側から見え隠れしているのは軽装の鎧だ。
いわゆる旅人や傭兵の装いをした彼は、その家の住人であるベイカーという老人と、アレックスという青年と話をしていた。
「見たところ、まだ若いようじゃが…。その年でもう旅をしておるのか?」
ベイカーが物珍しそうに尋ねる。
「はい。困っている人を見かけたら居ても立っても居られない性分でして」
ハキハキとした口調で答えるエリック。ベイカーの言った通り、年はまだ十五、六といったところだが、それを感じさせないほどしっかりとした物言いだ。
「だからって、ラナゼアに向かうなんて…。まさか、その剣で領主を殺っちまう…、なんてことはないよな?」
大柄で筋肉質な体型をしたアレックスは心配そうに言う。
「あそこの領主は民に酷い仕打ちをしていると聞き及んでいます。僕はそれを止めに来たんです」
「止めるって言ったって、相手は領主だぞ? どうやって止めるんだ?」
疑問符を投げかけるアレックスに、黙り込むエリック。
その反応を見たアレックスは何かに気が付いたかのようにハッとした。
「おいおいおい! それはダメだろ! いくらなんでも人殺しは――」
言いかけたアレックスを、ベイカーは手で制した。
「いや、アレックス。あの男はもうこうでもせんと止められんかもしれん。被害は村人全員じゃが、最近は特に鍛冶屋の娘に対して、度し難い域に達しておると聞く。あの娘が取り返しのつかないことをしでかす前に、誰かが力づくでもいいから止めねばならんのじゃ」
反論の意思をなくしたアレックスを尻目に、ベイカーは今度はエリックに言った。
「わしは村から離れて長いのでもうあまり人付き合いもないが、頼まれてくれ。あの村を窮地から救ってくれ」
それを聞いたエリックは、ベイカーの顔を覗き込んで答えた。
「わかりました。何が何でも、ヘイレスの横暴を止めて見せます」
そして、一言「ただし」と付け加えた。
「僕の存在は、他の誰にも黙っていてほしいんです。正体がバレると、ヘイレスに警戒されてしまうかもしれない。お願いできますか?」
「もちろんじゃ。お前さんのことは言わないでおこう」
「あ、ああ。わかったよ」
ベイカーとアレックスから情報を得、口止めもしたエリックは、ヘイレスのいるラナゼアの屋敷に向かって歩を進めた。




