捌け口
募る不安を誤魔化すかのように、ヘイレスは馬を駆った。
行く先はただ一つ。ミリアのもとである。
夜も更けていたので、村人たちは皆、寝静まっているようだった。鍛冶師の家も例外ではない。
「ミリア」
不躾にもドンドンとドアを叩き、彼女の名を呼ぶ。
以外にもミリアはすんなりと姿を現した。その後ろにはエーデンの姿も見えるが、彼も何も言ってこない。
「エーデン、腕は大丈夫なようだな」
声をかけないのもどうかと思ったのか、ヘイレスはそんなことを言った。
聞こえているのかいないのか、エーデンは無視してそこに立ったまま、反応がない。
当然と言えば当然だ。人の腕を切り落としておいて、『大丈夫なようだな』とは、どういう了見か。我ながら笑える話だ。
「ああ、ミリア」
月光のもとにさらされた美しい素肌に、思わず見入ってしまうヘイレス。
「ミリア、今日はいいワインが手に入ったんだ。これから俺の屋敷に来るといい。朝まで飲み明かそう」
彼女もまた、聞こえているのかいないのか、無表情なままだった。
しかし、そんなことはどうでもよかった。今はとにかく、彼女が欲しいのだ。
ミリアを自室へと連れ帰ったヘイレスは、感情のない人形のようにただ一点を見つめて動かない彼女を椅子へ座らせ、ワインを注いだ。
「さあ、ほら、乾杯だ」
まるで動じないミリア。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
「……」
「ミリア。返事をしてくれ。俺には君しかいないんだ」
「………」
「頼む…ッ!」
肩を掴んで乱暴に揺さぶるが、それでも彼女に反応はない。
胸にグッと熱い何かがこみ上げてきたヘイレスは、ミリアを床に押し倒した。
声も出さず、表情一つ変えなかったミリアの目からは、涙がこぼれていた。




