凶兆
「だから、近郊に逃れた残存兵力の掃討が急務だと、さっきから言っておるだろうが!」
「都市内が不安定な状態のままでは、そっちに割く兵の余裕などあるわけがない」
「まったく、いたずらに革命だのなんだのと暴動を起こすからこうなるのだ」
「それならどうしてお前はここにいるんだ。我々に与していなければ、お前の首などとっくの昔に地面に転がっていたものを」
「貴様、何を――!!」
革命運動が終わって体制の整わない国内情勢について話し合うつもりが、急ごしらえの会議室での罵り合いに発展する。
一時的な国王に即位したテムザは、肩肘をついて静かにグラスのワインを傾け、香りを愉しんでいた。
「お前も王などという肩書を名乗るからには、何とか言ったらどうだ!?」
急に目くじらを立てられたものの、テムザは相変わらず静観していた。
それどころか、隣に控えていた部下に耳打ちする。
「フランク、後は任せた」
「わかった…」
溜め息交じりに了承したフランクは、騒ぎを収めようと席に着く者たちに話し始めた。
そんなことはお構いなしといわんばかりにテムザへ怒号を浴びせる者たちを、これまたお構いなしに奥の部屋へ去っていくテムザ。
ふと窓から外を見ると、舗装された道の敷き詰められた石の間から、一輪の花が咲いていた。濃紺の、少しうつむき加減に咲くその花を見たテムザは外に出て花の傍らにしゃがみこんだ。
花弁にそっと手を添えたテムザは呟いた。
「烙日草の花よ、そなたが咲くわけを教えてくれ」
濃紺の花はぽとりと地面に落下し、石畳の上に焼け焦げた跡を残して灰になる。
焼け跡をしばらく見ていたテムザは、眉をひそめた。
「これは…」
立ち上がったテムザは踵を返し、すぐさま会議室に戻った。
室内では相変わらず怒号が飛び交い、とても話し合いと呼べる状況ではない。
「フランク、すまない。しばらく戻らない」
静粛にと大声を張り上げていたフランクはテムザの言葉に驚きの表情を浮かべた。
「おい、それはどういう――」
「悪い。お前にしか頼めない」
何事かを察したフランクは小さくうなずいた。
「わかった。が、あまり遅くならないでくれよ。こっちの後始末も終わってないんだからな」
「わかっている」
会議室とはとても言い難いような民家を出て、足早に街中を歩いていく。
何か不吉なことが起こっている。花がそれを伝えている。
テムザは白い外套をはためかせながら、先を急いだ。
◇ ◇ ◇
「ゼルヴェ様、お手紙が届いております」
そう言った侍女から手渡された手紙を、ゼルヴェは眺めた。
「見たことのない封蝋だ。どこからだ?」
侍女に問うと、彼女は困惑したように首を振った。
「わかりません。今朝がた、若い男性がお持ちになられたのですが…」
「その男は? 帰したのか?」
「ええと、手紙を渡すなり、去っていきました」
そこまで聞いて、ゼルヴェは侍女を下げさせた。
頭を下げて部屋を後にする侍女を確認してから、封を開けて中身を取り出す。
一通り目を通したゼルヴェは口元を歪ませた。
「ほう…。これは面白い」
再び侍女を呼び出したゼルヴェは、彼女に言った。
「すぐに出立の支度だ」




