ヘイレス卿の手記より
クルータノ王国、シークォン領シュセルセン。
二カ月前、そこで暗殺事件があった。殺されたのは領主のバルゲルト・シークォン。殺した犯人は未だ捕まっておらず、逃走を続けているらしい。
クルータノ王国というと、ここイルドラ国の隣国に当たり、ことラナゼアと呼ばれるこの地域はまさに国境に位置している。そんな場所の領主となったのも、今から二カ月ほど前の話だ。
父親は自分が幼かった頃、すでに戦争で他界していた。それからは母が一人でこの地域を治めながら、自分の面倒も見てくれていた。唯一の、心の拠り所だった。自分が死んだらあなたが家の当主になるのだと幼い頃から言い聞かされてきたが、いざそうなると実感もなければ、自覚もない。自分に器がないことなど、誰よりも自分自身がわかっていた。
しかし、嫌なことばかりではなかった。母を亡くしてしばらくしたのち、一人の女性と出会った。名をミリアといい、鍛冶屋の娘で器量がよく、美しかった。それから少しの間は、とても穏やかな時間を過ごしていた。
それも、ここ最近までの話。シュセルセンは他の領地を二つほど跨いだ先にあるが、どうやらその近辺ではそれまでも似たような事件が頻発していたらしい。――権力者の暗殺だ。そしてさらには、その暗殺者は西へ西へと移動しているようだ。事件の足跡をたどれば、自ずと犯人の進行ルートも割り出せるというもの。はっきりと行く先が予測出来ておいて、なぜいつまでたっても事件解決に至らないのか不思議でならないが、故に、悪寒が走るのを抑えられない。
もしその暗殺者が国境を越えて、この地まで来たら?
次の犠牲者は自分かもしれない。
そう考えると、夜もろくに眠れやしない。
ミリアに救いを求めても、近頃の彼女は様子がおかしい。なぜか自分のことを避けているように感じる。
それに加えてクルータノでは、国内で暗殺騒ぎが収まってもいないというのに、軍が不穏な動きを見せているとの報告も上がっている。
なぜだ?
なぜ、俺ばかりがこんな目に遭わなければならない?
不安は募るばかりだ。今夜も彼女に会いに行く。
ここからは第二章となります。第一章で活躍したドグや魔王フェベムといった登場人物も、後々の物語に登場させていきたいと思ってますので、応援よろしくお願いします!




