報せ
「フランダル様、あのような場所でくつろがれると、風邪をひきかねませんぞ」
フランダルが部屋に入るなり扉を閉めたキースは呆れた様子で言った。
「この城はどこにいても似たようなものだ」
室内には火のついた暖炉もあるが、閑散とした城内は天井も高く、とても暖房としての機能を果たしているとは言い難い。実際、自分の書斎や寝室以外ではフランダルも外套を着て生活している。
「それで、問題発生か?」
フランダルは手近にあったソファに腰かけ、足を組んで言った。
「ドグ・ラクラ様からの報せです。魔の国に凶兆あり、と」
「ラダンカか。国王がらみか?」
フランダルは目を細めて言った。
ラダンカはアレド山脈の南に位置する、溶岩と荒野の国だ。文字通り荒れ果てているので、地理的な面で言うと特筆すべき点はない。彼の国の特徴はなんといっても、その国民性だ。
――魔の国。ラダンカを言い表すのに、これほど適した表現はないだろう。なぜなら、そこに住んでいる者は人ではないからだ。全国民が魔物で構成された、世界で唯一の人外の国なのだ。故に当然、国を治める者も魔物――すなわち魔王である。
「どうやら、そのようです」
「そりゃ、ちっとばかし骨が折れそうだ」
フランダルが立ち上がると、キースがすかさず指を鳴らした。
どこからともなくメイド姿の侍女が現れる。手に持っているのはフランダルの旅装だ。
「それじゃ、キース。留守は頼んだぞ」
侍女から行きの分だけの旅支度を受け取りながら、フランダルは言った。
キースが何も言わずに恭しく礼をする。
物静かな二人を背に城を出たフランダルは、薄く雪の積もった山道を歩き始めたのだった。