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理の王 ~転世者を裁く者たち~  作者: 鹿竜天世
第一章 雷を呼ぶ青年
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選択肢

「そこまでだ」


 不意に第三者の声がして、フェベムとカサンドラの両者は動きを止めた。


「さすがに干渉しすぎだな、ライムさんよ」


「フランダル…?」


 フェベムが問いかける。


 闇から二人の間に姿を現したのは、フランダル・ゼキアその人だった。


「なぜ貴様がここにいる…?」


「おっと、カサンドラ、また会ったな」


「貴様には刺客を差し向けたはず。あの手練れなら、殺せはせずとも時間稼ぎくらいは――」


「見くびってもらっちゃ困る。あの程度なら、お茶の子さいさいよ」


 話の流れから推測するに、どうやらカサンドラはフランダルの追跡を妨害しようとして、差し詰め殺し屋でも送り込んだのだろう。だが、フランダルは意外にもあっさりとそれを看破してきたようだ。


「さて、話を戻すぞ」


 フランダルはこの差し迫った緊迫感の中でも、飄々(ひょうひょう)と話し始める。


「あんたらは己の利害が一致した、上司と部下の関係だった。だが、そこにこのライムとかいうヤツが現れて、王であるあんたは心変わりしちまった」


 フランダルはそう言いながらフェベムを指さした。


「ところが、生涯を復讐に捧げてきたあんたにとって、それは大変好ましくない状況だった」


 今度はカサンドラがいるであろう方向を指さすフランダル。


「それで、ライムを殺しちまって、それを人間のせいにすれば、もしかしたらフェベムは元に戻ってくれるかもしれない…なんて思ったあんたは、暗殺を企てた――。あるいは、俺たちのせいにしたかったのかもな? ゼルヴェみたいな曲者(くせもの)を利用したのも、それが理由か?」


「なに?」


 思いがけずゼルヴェの名を耳にして、フェベムの頭に疑問符が浮かぶ。


「おやおや、あんたはわからなかったのか。ゼルヴェに告げ口してあんたら二人を襲わせたのは、そこにいるカサンドラちゃんだよ」


「カサンドラ、お主――」


 姿を見せないカサンドラは沈黙を守ったままだ。


「まあ、それはどうでもいい。問題はライムっていう転世者(てんせいしゃ)の存在が、この世界の国や歴史を変えちまうくらい干渉しちまってるってことだ。そこで――」


 フランダルはパンパンと手を叩いた。


「もう起きてもいいぞー」


 訳のわからないフェベムをよそに、何者かに呼びかけるフランダル。


 すると、フェベムの背後でごそごそと物音がした。


 振り返ると、そこにライムが立っていた。


「ライム…?」


「いやはや、名演だったよ。素晴らしい」


 フランダルがパチパチと拍手する。


「無事だったのか? ケガは? もう大丈夫なのか?」


 矢継ぎ早に質問するフェベム。


「ライムくんは最初からやられてなんていないよ。ただちょっと、演技をしてもらってただけだ」


 フランダルの言葉に、頭を下げるライム。


「すみません。ただ、フェベムさんを守るためだと言われて…」


「その通り。カサンドラを吊り出すためのな。なんせガードが堅いもんだから。絶好の機会を作ってあげないと、表舞台に顔を出してはくれなさそうだと思ってね」


「ではフランダル、お主、それも計算ずくで…」


 呆気にとられるフェベム。


「まあね。このいざこざを収めて、ライムくんから本心を聞き出すためにはどうしたらいいか、あれこれ考えたもんだ。さて――」


 そこで、フランダルはスッと息を吸った。


「そろそろ審判の時だ。(ことわり)を超えたら、番人に裁かれる。それがこの世界の掟だ。ライムはその(たぐい)まれな力によって、世界の命運を左右する重大な選択を迫られた。ことによっては、世界中が戦争に巻き込まれていたかもしれない。理の王の俺としては、できるならこっち側で働いてもらいたい。これ以外にも理外者を利用して、あれこれ企んでいる連中は山ほどいるからな。でも、他にも選ぶ道はある。一つは――」


 フランダルはフェベムを指し示して続けた。


「魔王フェベムのもとで人として生活を続けていく。もちろん、竜化の力は使用禁止だ。フェベムから了承が得られるのなら、それでもかまわない」


 少し間をおいて、フランダルは続ける。


「二つ目は、フェベムとは縁を切り、人のもとで人として新たな人生をスタートさせることだ。そのために必要な身分やらなんやらは、こっちが手配する。けど、こっちも力の使用を確認した時点で、お前は再び俺たちと会うことになるだろう」


 そこまで言って、フランダルは一度言葉を切った。


「俺から提案できるのはそんなとこだ」


 少しの間があって、口を開いたのはライムだった。


「それ以外の選択肢はないんですか?」


「ん? まあ、ないことはないんじゃないか? あくまで俺は一例を披露しただけだしな」


「なら――」


 言いかけたライムを怒りのこもった声が遮った。


「貴様ら・・・、いい加減にしろ。理だのなんだの、私には関係ない」


 カサンドラが暗がりからゆっくりと姿を現す。


「おっと、お怒りのようだな」


 フランダルはおどけた様子で言った。


 木々の隙間からこぼれる光に照らされたカサンドラは、もはやいつもの姿ではなくなっていた。


 皮膚は赤く染まり、ところどころに黒い斑点模様が浮かび上がっている。髪の隙間から細くて赤い二本の角が飛び出し、耳は鋭く尖っている。腕や手の指も従来のそれとは違って細長く、体の後ろではツタのような尾がゆらゆらと揺れている。


「カサンドラの真の姿じゃ・・・。ああなっては一筋縄ではいかぬな」


 フェベムは呟いた。


 イレイド族の特徴は、その華奢な体から繰り出される素早い動きと、大地を焦がすほど強烈な炎の魔法だ。古くは炎の悪魔として人々に恐れられてきた、凶暴な性格の持ち主でもある。


「まずは目障りな貴様から始末してやるッ!!」

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