推測
ライムが床に入ったのを見計らって、フェベムは焚火から少し離れた場所に移動した。
「カサンドラ」
「ここに」
背後に前触れもなく現れるカサンドラ。
フェベムの声色は真剣だった。
「お主のことは、もう怒ってはおらぬ。呼び出したのは別件じゃ」
フェベムは振り返らず、宙に光の線で模様を描き始めた。
「昼間見たイルドラ兵どもの鎧にあった紋章じゃ。見覚えがあろう?」
少し間があって、カサンドラは答えた。
「シュナンティ領主、ゼキア家の紋章です」
「なぜ、こんな場所にゼキアの紋章を纏った兵士がうろついておったと思う?」
「さあ…。私にはわかりかねます」
「ゼルヴェ・ゼキアがどういう人物かは知っておろうな?」
「無論です」
――ゼルヴェ・ゼキア。イルドラ国シュナンティを治める領主にして、伯爵の肩書きを持つ男だ。そのルーツはとても古く、そして歪である。姓にあるゼキアという名は、あの理の王、フランダル・ゼキアと同じで、彼の親族だ。具体的な関係は不明だが、古くから伝わる強大な魔法を扱うことで知れている。
性格は比較的温和で友好的なフランダルとは対照的に、冷酷かつ非情。他の領主とのいざこざに介入し、弱みを握って利益を得るなどの狡猾さも持ち合わせている。
そして何よりここで特筆すべきは、かつてカサンドラの住む村を火の海にし、イレイド族を皆殺しにした張本人が、彼かもしれないということだ。確信は得られていないが、現場に落ちていた様々な遺留品がそれを物語っていたのだ。
「わしが思うに、あのイルドラ兵どもが計ったようにあの場に現れたのは、どこからか情報が漏れていたからじゃろう。何者かが、わしらがあの場所を通ることを、こっそりゼルヴェに告げ口したのじゃ」
「・・・なぜ、そんなことを?」
「理由はわからぬ。今さらわしの命を狙ったところで、大したうまみがあるとは思えんからの。ただ、あやつらはわしらを生け捕りにしようとした。もしかすると、狙いはわしではなかったのやもしれぬ」
「では誰を?」
「簡単な話じゃ。わしでないとするなら、狙いはライム。ただ一人じゃ。お主であろうはずもないからの」
「ライム・・・。しかし、彼の情報はどこにも漏れていないはずでは? 彼の存在を知っている者は城の中にいる連中と、陛下ぐらいなものです」
「もう一人おるじゃろう」
「・・・まさか、理の王が――」
「大当たりじゃ」
「城に来た後、あの者たちに動きはありません。ドグとかいう男の行方はわからなくなっていましたが、フランダルは城の近くをフラフラとしていただけです」
「では、真っ黒というわけじゃな」
「二人が後を追ってきている…?」
「その通りじゃ」
「――私は、どのようにすれば?」
「あやつらを敵に回すのは得策ではない。時間稼ぎをするのじゃ。頼めるかの?」
「わかりました」
そこまで話して、カサンドラはスッと姿を消した。
理の王・・・。あの男がなぜそう呼ばれ、なぜ理外とされる者たちを付け狙うのか。真意は不明だが、邪魔立てするなら容赦はしない。
フェベムは夜闇のその先を静かに見つめていた。




