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理の王 ~転世者を裁く者たち~  作者: 鹿竜天世
第一章 雷を呼ぶ青年
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竜化の力

 間もなくイルドラに差し掛かろうという頃、フェベムとライムはイルドラ軍の衛兵に取り囲まれていた。


「お前たち、そっちはラダンカ領内だろうが。何者だ!」


「見てわからんのか、このたわけが。わしはラダンカ国王、フェベムじゃ! そこを通せ!」


「なに? 貴様のような小娘が魔王フェベムの訳がないだろうが。我々を騙そうとしても、そうはいかんぞ」


「ええい、埒が明かん。かくなる上は――」


 強硬手段に及ぼうとして、出発前のジュードの言葉が頭をよぎる。


『くれぐれも、騒ぎだけは起こしてはいけませんよ』


「ではどうしろというのじゃ……!」


 頭を掻きむしるフェベム。


 そもそも、ジュードの教えてくれたルートならば衛兵とバッタリ出くわすなどといったハプニングは起きなかったはずなのである。見たところ、衛兵の鎧についている紋章は黒字に白い狼をあしらったものだ。つまり、イルドラ国ゼキア領の兵士。シュナンティと呼ばれる地域を治める、ゼルヴェ・ゼキア伯爵の私兵ということになる。


 シュナンティというと、今フェベムたちがいる場所ではなく、もっと北東に位置する地域だ。さらに言えば、ラダンカに接してさえいない。なぜそんな遠く離れた地域の兵士がこんな場所で検問まがいのことをしているのか。


「貴様らを魔物と断定し、直ちに拘束する! 反抗する場合はその場で殺害する。大人しくしていろ」


「拘束じゃと? 魔物であれば即刻処刑が通例であろう。誰の(めい)で、どこへ連れて行く気じゃ」


「それを貴様らに言う理由はない」


 ますます意味がわからん。ゼルヴェ・ゼキアの命だとするならば――ゼキア……?


 フェベムの頭に何かが浮かんだ瞬間、ライムが声を上げた。


「やめろ! 僕たちはホロウトーナメントに行くだけだ!」


「ホロウトーナメント?」


 衛兵の一人がせせら笑う。


「ハッ。笑わせるな。お前ら魔物がトーナメントに出られるわけがないだろう」


「僕は……、人間だ!」


「嘘をつくな! 知っているぞ。お前たち魔物の中には、人の姿に扮して魂を奪う卑劣なヤツがいるとな」


「よすのじゃ、ライム。こやつらは話のわかる連中ではない」


 それ以上ヒートアップしないうちに、フェベムが治める。


「偉そうなことをいいやがって……」


 フェベムの近くにいた衛兵が悪態をつく。そしてつかつかとフェベムの傍まで歩み寄ると、その腹を槍の柄で激しく突いた。


「うっ……!!」


 痛みでうずくまるフェベム。


「おい! 貴様、よくも……!!」


 ライムが叫ぶ。


「ううヴ……。ううぅヴウゥァアアアッ!!!」


 フェベムがふと見ると、ライムはすでに我を失っていた。


 いかん、このままでは――!


「カサンドラ!!」


 フェベムが叫ぶ。


 いざというときのため、彼女がいつでも近くで待機しているはずだ。


「カサンドラ! どうした、早く来ぬか!」


 いつもなら、名前を呼び終わらないうちに現れるはずなのだが、今回はなぜか一向に出てくる気配がない。


「……かさんどら? なんだそれは」


 衛兵たちは最初こそ、魔法の類かとビクビクしていたが、何も起こらないのをいいことにフェベムの発言を面白がった。


「このガキも、うーうーとやかましい!」


 衛兵が今度はライムに標的を移す。


「よせっ! やめろ! ライム! 落ち着くのじゃ!」


 ここで竜化してしまうのはマズい。衛兵たちはひとたまりもないだろう。


 かといって、代わりに自分が衛兵を始末してしまえば外交問題だ。国力の劣るラダンカは、瞬く間に周辺国家の餌食になってしまう。


 ええい、どうすればよいのじゃ……!


 考えあぐねていると、ふとライムの唸り声が止まった。


 見ると、そこには見上げるほど巨大な銀嶺のドラゴンがいた。


「お、おい、なんだコイツは!!」


「やっぱり化け物だ!」


 衛兵たちが口々に驚愕の声を上げる。


「ライム……」


 フェベムが名を呼ぶが、まるで聞こえている様子はない。


「グオオオオォォォッッ!!」


 ドラゴンは空高く雄叫びを上げた。


 衛兵がそれに怯え切っている隙に、ドラゴンは三本の鉤爪が生えた腕でフェベムをひょいと持ち上げると、空を覆い尽くすほど巨大な翼であっという間に空中へと飛び立った。


「ライム、聞こえておるのか……?」


 ひんやりとした鱗に触れながら、フェベムは問いかけた。


 聞こえているのかいないのか、ドラゴンは悠々と空を飛び続ける。


 やがて、人気のいない草原の真ん中に降り立つと、フェベムをそっと地面に下ろしたドラゴンは光に包まれながらその姿を徐々に変えていった。


「フェベムさん、ごめんなさい……」


 そこには申し訳なさそうに俯くライムの姿があった。


「何を言うか。謝るのはわしの方じゃ。一国の主がみっともない。わしはお主に助けられたのじゃ。あの場では、これが最善の策だったように思う」


 フェベムはそう言いながら、立ち尽くすライムをそっと抱きしめた。


「ありがとう。お主は優しいのじゃな。ドラゴンになってもなお、わしのことを考えていてくれた」


「さっきは必死で、ただ――」


「……なんじゃ?」


 ライムの顔を見上げると、彼は困ったように笑って見せた。


「方向がわからなくて……。どこだかわからない場所に飛んできてしまいました」


「なんじゃ、そんなことか」


 ライムから離れたフェベムは周囲を見渡す。


「ふむ、てんでわからんの」


 二人は大草原の真っ只中で、遭難してしまったのだった。

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