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七宝特選作品

この愛をキミに!

作者: 七宝

 その日は5歳の娘が『ゆうたろうくん』という友達にバレンタインチョコをあげたいというので、2人で大きめのショッピングモールに来ていた。


 正直娘から話を聞いた時は「早っ!」と思ったが、まぁ本気ではないだろうと思い、一緒にチョコを見てあげることにした。


 が、チョコは全然売っていなかった。前日だとここまでなくなるものか、と狼狽えていたところに、娘が話しかけてきた。


「ママ、これ見て!」


 娘の手元に2つの袋があった。

 1つは茶色い袋を真っ赤なリボンで縛った、いかにもバレンタイン! というもの。

 もう1つは真っ白な袋を、これまた真っ赤なリボンで縛った、クリスマスプレゼントを思わせる色合いのものだった。


 はて、もはやここには板チョコしか売っていなかったはずだが、娘はこれらをどこから持ってきたのだろうか。


「これ、どこから持ってきたの? いくらなの?」


「てんちょーさんにもらったの!」


 店長だと?


 ここの店長がこの子にバレンタインチョコをくれたというのか? どういうことだ?

 店内でそういう配布イベントをしていたのか? もしそうなら太っ腹じゃないか。


「店長さんにお礼は言ったの?」


「たぶん」


 挨拶だけはしっかり教えないと将来確実に苦労をすることになる。


「ダメじゃないの、ちゃんとお礼言わないと。店長さんはどこなの? ママもお礼言いたいから教えてちょうだい」


「どっか行っちゃった」


 忙しいのだろうか。

 さすがにそんな人を探し出して呼び止めてまでお礼を言うのも申し訳ないと思い、私たちは店を出た。


 それから他の店を2軒回ったがどこもチョコは売り切れていて、手に入らなかった。


 娘は「ルール違反だ!」ととても嫌がったが、背に腹はかえられないので、先ほどもらったうちの1つをゆうたろうくんにあげることにした。


 また、娘が「みんなの前で渡すのは恥ずかしい」と言うので、帰りにゆうたろうくんの家に寄って1日早いバレンタインデーを済ませた。


 家に帰ると、ゆうたろうくんのお母さんから電話がかかった。

 さっきも何度もお礼を言われたのに、電話でまでなんて律儀な人だな、と思いながら電話に出ると、いきなり罵声を浴びせられた。


 なんでも、ゆうたろうくんがチョコをすぐに吐き出したので何事かと確認してみると、ゆうたろうくんの口と吐き出したチョコの中から、縮れた毛のようなものが大量に出てきたのだそうだ。


 何度も謝罪をしたが向こうの怒りは収まらず、警察には言わない代わりに、2度と娘をゆうたろうくんに近づかせないという約束をさせられ、電話を切られた。


「なんなのよ⋯⋯」


 私は1人で呟いた。


「あーっ! これ!」


 リビングで娘が嬉しそうな声で騒いでいる。


「なに、なに喜んでるの」


「これ! なくしたと思ってたお気に入りのパンツ!」


 先日干していて、風に飛ばされてなくなってしまったと思っていた娘の下着が、娘の手元にあった。

 はしゃぐ娘の足元には、店長にもらった白い方の袋が開けられ、乱雑に置かれていた。


「もしかして、その中に入ってたの⋯⋯?」


「うん!」


 私はすぐにあのショッピングモールに電話をかけ、今日のことをすべて話した。

 しかし、今日はチョコ配布のイベントなどは開催しておらず、店長はずっと事務所にこもりっぱなしだったと言われた。


 電話を切ったと同時にインターホンが鳴った。あまりにもピッタリなタイミングだったため、不審に思った私は恐る恐るドアスコープを覗いた。


 誰もいなかった。が、ポストに1通の手紙が入っていた。

 その手紙には『おいしかった?』と書かれていた。


 娘にはそのことを伝えず、私たちはすぐに引っ越した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最高に気持ち悪くて良かったです。
[一言] トラウマになりました……_| ̄|○
[良い点] アカン! コレはアカン!! マジガチにアカンヤツや!!! [気になる点] 投稿タイミング。実に勿体無いです。なぜ、バレンタインシーズンまで待てなかったのか? と。
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