側室候補にすぎないので、3年我慢して実家に帰ります。
「フンッ!可愛げもなければ、なんの反応もないつまらない女だな。」
たった今、初夜の営みを終えた男とは思えない捨て台詞を吐いて出ていったのが、情けなくもこの国の王である。
続いて女官が5人程ゾロゾロ入ってきたと思ったら、ベッドのシミを見て、乙女の証を確認しましたと言って出ていった。
この一連の流れを呆れ返って見ていた私は、側室候補として今日王宮に着いたばかりだ。それなのに何の説明も無いどころか、お茶も食事すら供されることもなく、いきなり陛下のお渡りがあると一方的に告げられ、とっとと始めるぞとばかりにベッドで致されてしまって今に至る。
私の後ろからは、殺気がダダ漏れになっているので、
「カエデ、いいから殺気を抑えなさいな。」
「ですがレイカお嬢様、あの男の態度は!!」
「まあ、下手に寵愛されても困るでしょう。私は陛下の子を産むつもりも、側室になるつもりもないもの。」
「それよりお体は大丈夫ですか?」
「そうね。もう今夜は人は来ないでしょうから、寝室の鍵を閉めて、あっちの部屋に行きましょう。」
そう言って、カエデに鍵を閉めてもらった後、到着後直ぐ空間魔法『シークレットルーム』で作り出した部屋に2人で入った。
私は、この国の西端に領地を持つオーバーン公爵家の娘だ。
領地は魔の森と称される魔物が生息する広い未開地と接しており、国にとっての防壁の役目を果たしている。だが、その役目を完璧に果たしているが為に、王都の人々は脅威を忘れ去り、我が家を辺境公と蔑んでいる。この王宮の女官からも既に侮りの態度が透けて見える。
「しかし、想像以上に公爵家への態度が酷いですね。公爵家が本気になれば、王都など一瞬で灰燼に帰すというのに。」
「カエデ、そういうことを言うのはこの部屋だけにしておきなさい。ほら、冷めてしまうわ。一緒に食べましょう。」
私にお茶と食事を用意しながらカエデが愚痴をこぼすので、一応注意して食事に誘う。この魔法で作り出した部屋は、ダイニング、キッチン、トイレ、浴室と寝室がある快適空間だ。設置者である私の許可が無ければ入れないし、外からの干渉は一切受けないものだ。
周囲からは忘れ去られているが、我が領内では魔法を使える者が多い。領主一族は特に魔力が多く、使える魔法の種類も多い。魔の森の影響とも言われているが、理由は未だに不明だ。だがその力で人間に敵意を向ける魔物を、余裕を持って食い止めてきたことも確かなのだ。他の領でも、昔は魔法が使えた者がいたらしいが、攻撃魔法など使う必要も無く、現在は廃れてしまったようだ。
カエデは、領から一緒に連れてきた侍女兼護衛であるが、分家の出であり魔力も高い。大量に収納できる彼女の『ストレージ』にも、たくさんの食料、水、魔道具がはいっている。
「あ、そういえば・・・、痛~っ!!『クリーン!』、『ヒール!』・・・ふうっ~。」
先程の営みで局所的に『ペインレス』をかけて痛覚を遮断していたのを思いだし、解除した途端に激痛が走ったため、急いで浄化・治癒した。
「本当に何の気遣いもなく、いきなり・・するとは思いませんでした。お嬢様が対処する魔力の動きが無ければ、あの男を昏倒させるところでした。」
カエデはあの時同じ部屋で、完全に気配を消して陛下には気付かれずに控えていた。既婚者で仲睦まじい夫婦と有名なカエデからすれば、陛下のヤり様は許しがたいものだっただろう。
尤も、私にしても元々高くない陛下への好意度が、一気に絶対零度まで急落した訳だが。
ちなみに、先程まで乙女であったはずの私が、純潔を失ったばかりなのに比較的客観的で冷静であるのは、人妻だった前世の記憶があり、それなりにそういう経験があるからだ。そして前世では、こちらの世界のように、初夜の後に女官が確認に来るような処女崇拝など無かったので執着も無い。あとは、ここに来た目的をしっかり理解していたので、覚悟は出来ていたからだろう。痛みだけは魔法で感じなくしておいたし。
この国、ユーエス連合王国には、国王はいるものの一強という訳ではなく、諸侯の力も強いため、王家は常に諸侯との繋がりを切らさない為、側室制度を設けた。
具体的には、諸侯が3代に1人の割合で、直系の娘を王家の側室候補として差し出し、3年間のうちに王の子を孕めばそのまま側室になるというもので、子が王太子になれば、王妃に昇格する。その為、子を産み王太子が決まるまでの間、王太子の座を巡って時には流血を伴う後継者争いが後宮で繰り広げられるのだが。
通常は、子を授かる側室候補が多いが、もし3年子に恵まれなければ、その候補は後宮より実家に戻される不名誉を得てしまう。
だが、私は、側室になるなど真っ平御免であり、汚名などどうでもいい。領地に帰れば自由なのだ。立ち上げた商会を更に発展させるもよし、前世の食事メニューの再現に引き続き取り組むもよし、やりたいことはいっぱいある。
魔法で避妊しているので、好きでもない男に抱かれるのを我慢して、単に3年やり過ごすだけと割り切るのだ。
結局、その夜は旅の疲れもあり、上質なベッドのある自分の寝室でぐっすり眠った。
翌朝、女官が食事を持ってくる様子もないので、大量に持参してきた料理をカエデと一緒に自室でゆっくり食べ、食後のデザートを堪能した後、後宮に与えられた部屋に出た。
こちらには茶器すら置いて無いので、カエデが持参した物を使ってお茶を淹れてくれた。我が商会で製造した高級茶器だ。
お茶の薫りをのんびり楽しんでいると、女官が3人ズカズカと入ってきた。王宮ではノックしてお伺いをたてることもしないのかと呆れてしまう。
「ご機嫌いかがでしょうか?レイカ様。」
いきなり名前呼びか!こっちは王族を除けば身分的には最高位の公爵家なんだけど!とイラッとしたものの、後宮の仕来たりかもしれない(皮肉だけどね)と思い直し、努めて冷静に返す。
「ええ、ぐっすり眠れたし、体調はいいわね。で、貴女はどこの誰なのかしら?ついでに、ここまでで随分と私の知る礼儀と後宮の礼儀が大きく乖離しているようなので、後宮独自の礼儀を知りたいわ。」
微妙に皮肉を交えた言い様に、少し目を見張った女官が、気を取り直し答える。
「失礼いたしました。私は女官長として後宮を取り仕切るアンネローズと申します。クレムゾン侯爵の娘でございます。」
その後、両隣の子爵令嬢と男爵令嬢を紹介されたが、まあどうでもいい。
「それで?」
続きを促す。
「はっ?は、はい、礼儀に関しては後宮独自のものは特にございません。あっ、ただ私は辺境の礼儀は存じ上げませんので違いがあっても分かりませんが。」
と、こちらを侮るような目線で言うと、両隣がクスクスと笑う。
この時点で、後ろから彼女達に向かう殺気がすごい。
「なるほど、ということは、中央の礼儀では、わざわざ領地から呼びつけた側室候補に、食事どころかお茶すら出さず、部屋にはいるときにノックもしないのですか。随分と簡素化されているのですね。ああ、もしくは財政が苦しくて後宮に予算がつけられていないのですか?」
「なっ!なんと不敬な!」
と、女官長が言えば、
「側室候補がお金の話などさもしいですね。やはり辺境は王都とは常識が違うのですね。」
と、確か子爵令嬢だったか、が続く。
「それに、お茶なら今飲まれているではないですか?」
なんだろうか、たかだか子爵の娘が随分と偉そうだ。発言を許してもいないのに、上位の貴族に勝手に話しかけるなど。
「それは、我が家より持参したものです。ここには碌な設備も無いようですしね。」
それでも冷静に伝えると益々調子に乗ったのか、勝手に茶器に近づき、
「まあ、どうりで鄙びた安っぽい茶器ですこと。」
そう言うとわざとらしく茶器を床に落とし粉々にした。
「あら、失礼しました。でも、安物の茶器の1つくらいどうってことありませんわよね?」
もういいかな。カエデの殺気も膨らむ一方だし。
「そう。失礼と分かっていたのね。2度までは見逃してあげたけど3度も我慢する必要はないでしょう。冥土の土産に教えてあげるけど、その茶器は、王都の上位貴族が争って買い求める高級品よ。官僚貴族の子爵家程度では買えないでしょうけど。」
「な、何を言って・・・」
「カエデ。」
「はい。」
と、カエデが答えたときには、ゴトンという音がして、子爵令嬢の首が床に転がり、一拍おいて切り口から血を噴き出しつつ、身体が後ろ向きにゆっくり倒れていった。
「「ヒ、ヒーーーーーーッ!!!」」
女官長と、男爵令嬢が悲鳴を上げて、尻餅をつく。
見ればガタガタと震え、2人して座り込んだ床に湯気の出る水溜まりを作っている。
私は、わざと優しい口調で、
「ねぇ、不心得者のせいで部屋が汚れてしまったわ。早く人を呼んで片付けさせなさい。後宮を取り仕切っているのでしょう?もうこれ以上無礼な人はいないわよね?」
「は、は、は、はひーーーっ!」
多分了承した返事だろう。女官長は、腰が抜けたのかガクガクしながら四つん這いで部屋から出ていった。
新たに取り出した茶器でいれたお茶を2杯ほど飲み終えた頃、ようやく部屋の片付けが終わり、終始硬い動きで作業していた女官達が引き上げていった。
誰も彼もが、怯えた顔でこちらをチラチラ窺いながら作業してるのがウザかったけど。
「やれやれ、昨日ここに来たばかりだというのに、慌ただしくて、疲れるわね。あっ、そうだ、今更だけどごめんなさい。カエデにつまらないものを斬らせてしまって。」
「問題ありません。敵対するもの、無礼をはたらくものは、魔物だろうが女官だろうが斬り捨てるまでです。」
あっ、うん、そうね。差別するのは良くないわね、などと益体も無いこと考えていると、後宮だというのに、1人の男が訪ねてきたのだった。
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『フンッ!可愛げもなければ、なんの反応もないつまらない女だな。』
国王アイゼンは、自分の吐いた言葉を頭の中で反芻しながら、頭を抱えていた。
自分の代では、オーバーン公爵家という国防の要というべき貴族から側室候補が出ることになっており、年齢的に公爵の愛娘に白羽の矢が立ったと聞いていた。
その令嬢が昨日到着したと聞き、慰労の挨拶だけのつもりで彼女の部屋を訪問をしたのだ。
そのつもりだったのだが、彼女を一目見て、その容貌の美しさと、16歳とは思えない妖艶さに衝撃を受け、気が付いた時にはベッドに彼女を押し倒していた。それに対し、彼女は一瞬だけ眉を顰めた後、全く私の行為に無反応で、まるでゴミでも見るような冷たい目で私を見続けていたのだ。その反応に屈辱感を覚え、事後にあのような捨て台詞を吐いてしまった。
だが、冷静になった後、彼女の自分に対する印象が最悪になっているであろうことに気が付いた。あの自分に全く関心のなさそうな目を自分に向けさせ、あの美しい娘を完全に自分のものにしたい。その為には直ぐにでも謝罪に赴くべきなのだろうが、国王として、そして男としてプライドが邪魔をしていた。
非常に自分勝手で下種な思考にまみれた、誠にくだらないプライドでしかないが。
アイゼンが、直ぐに会いに行くべきか、ほとぼりが冷めるのを待つべきか、政務をほったらかして悩んでいると、側近のディールが慌てて部屋に入ってきた。
「陛下っ!後宮でオーバーン公爵令嬢が、女官を手打ちにし、大騒ぎになっているとのことです。駆け込んできた女官も興奮しており、詳細が聞き取りできていない状態なのですが、ひとまず報告に参りました。」
「なんだとっ!直ぐ行く・・・、いや、ディール、特別許可を出す。お前が行って、正確な情報を聞き取ってくるんだ。」
「わ、分かりました。直ぐに行って参ります。」
そう言って、ディールが部屋を出ていくと、
「一体何が・・・。」
全てはアイゼンが後宮を掌握していないことが問題なのだが、今の時点ではそのことに気付いていなかった。
「陛下!後宮にて、女官とオーバーン公爵令嬢からも聞き取りを行って参りました。」
ディールが調査を終え、報告をしにアイゼンの執務室に入ってきた。
「そうか、ご苦労。それで何が起こっていた?」
ディールが聞き取ってきた事実を説明すると、
「その程度のことで女官を殺したのか?後宮での殺生、しかも女官も貴族令嬢だろう?厳罰ものではないか!」
アイゼンは自分の昨日の行動を棚に上げ叫ぶ。
「それにつきましては、公爵令嬢より『古の盟約』と言われましたので調べて参りました。」
ディールが文書の束を机の上におき該当する紙面を示す。そこには、今ではすっかり廃れてしまった魔法契約が記されており、日付を見ると建国当時のものと思われるが、その紙は全く色褪せていなかった。即ち、その契約が現在でも有効であるということである。
「端的に申しますと、国を建てたおり、当時の国王陛下が公爵家に魔の森を押し付ける代償として、『公爵家には、国王を除く全ての人に対し、時と場所に関わらず無礼討ちを許可』する盟約を結ばれているということです。公爵本人だけではなく公爵家となっている為、今回の件では、公爵令嬢に非は無いことになります。」
全く聞いたこともない割には重大な盟約を聞かされて驚愕したアイゼンだったが、
「だが、父親の子爵が怒鳴り込んで来るぞ!」
と、国王という存在自体が危うい貴族バランスの上に立っている自覚はあり、焦っている。
「それにつきましては、『私が相手をしてもいいわ。文字通り首が飛ぶ数が増えるだけでしょうけど。』と、仰られております。」
と、ディールは、レイカに言われたことを伝える。
そんな事をされてはたまらない為、アイゼンは、直ぐに後宮に向かうことを決断した。
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「これは陛下。可愛げもなければ、つまらない女の元にお出でとは、如何なされましたか?」
何故か、国王陛下がやってきた。まあ、無礼討ちの件だと予測はついているが、不愉快なことを言われた意趣返しをしておく。
「ぐっ!!そ、そなたが女官を殺めた件だ!」
「それなら聞き取りに来たその男に話しましたが。」
確かディールと名乗った男を扇子で指しながら答える。
「『古の盟約』だったか?だが、殺める程のことでは無かった筈だ」
私は思わず大きな溜め息をついた。
「陛下、今回の件、原因の大半は陛下にあります。」
「はっ!?何を言っている?私は何もしていないぞ!」
「そう、何もしていないのです。私に強姦まがいの行為に及んだ以外は!」
それを聞いて、控えていた女官とディールが、ビクッと身体を震わせる。
「そもそも、公爵家から側室候補として来たのに、正門からではなく裏門からコソコソ入らされ、粗末な部屋に案内され、後宮での暮らしに関しての説明もなく、食事どころかお茶すら出ない。陛下がお越しかと思えば、挨拶をすっ飛ばしてコトに及ぶ。流石に、ここまで蔑ろにされ侮った対応をされれば、女官だって侮りますわ。」
少しの間、顔を真っ青にして呆然としていた陛下が
「ディール、今言われたことは事実か?」
「私は全て初耳でございます。陛下の行動も含めて。」
同様に顔を青ざめたディールは、やや非難の色を目に込めて答える。
「女官長は?」
来たときから震えっぱなしの女官長にも尋ねる。
「オ、オーバーン公爵令嬢の、お、仰る通りで、ご、ございます。我々が陛下のお考えを忖度致しました。誠に申し訳ございませんでした。」
女官長は、怯えまくって私に土下座状態で謝罪するので、少し安心させてやろう。
「さて、私もこれまで魔の森で多くの魔物を狩ってきましたが、彼らは別に私に対して無礼な行いがあった訳ではありません。正直、私や公爵家に無礼を働いたことを理由に人を殺めたのは初めてですよ。
女官長は大いに反省している様ですので、蒸し返してどうこうする気はありませんので、ご安心なさい。ただ、今後私や公爵家に敵意や害意、侮りを向けるものに容赦する気が無いことも事実です。女官長の教育に期待しますよ。」
「か、畏まりました。ご、ご期待に沿える様、努める所存です。」
う~ん、まだ怯えはあるけど、少しは安堵したようね。次は、
「陛下、正直、貴方様には爪の先程の期待もしておりませんので、私に対する振る舞いを変えて頂く必要は一切ございません。寧ろ、政務に専念して国の窮状を何とかされた方がよろしいかと具申いたします。」
「どういう意味だ!?」
陛下は、何か理不尽なことを言われたかのような反応をするが、
「我が領から王都に至る道中、王都に近づけば近づくほど、街の外で暮らす貧民の数が増え、野盗の襲撃回数も増え、王都に入ればスラムともいうべき光景が広がり・・・、お分かりになりませんか?既に国として末期状態になりつつあることを。然るに、貴族は富を独占し民から搾取することばかり、王族は貴族のご機嫌取りと、後宮の規模を増やす事ばかりに躍起になっていることを。」
一度話を切り、様子を窺うが、現実を初めて突きつけられた様な顔で呆然としている。
「最後に、ハッキリ言いますが、私は陛下の子を孕む気など一切ありません。3年無難にやり過ごして故郷に戻ることが願いです。可愛げもなければ、つまらない女なのですから、今後も放って置いて頂ければ、それでいいです。その方が、私も余計な者の為に手を汚さずに済むというものです。それに、私は自分達だけで暮らしていける準備はして来ておりますので、私の後宮での暮らしに今更国庫を割く必要はございません。民の為にお使いください。」
ピシャリと言い切ると、ディールに目をやり、とっとと連れて出て行け扇子を振って示す。
意図を汲んだのか、慌てて、呆然としている陛下の体を支えながら、部屋を出ていった。
「さて、邪魔者はいなくなったし、気晴らしに街に出てみる?」
と、後ろに控えるカエデに聞くと、じゃ、邪魔者・・・と呟く声が聞こえる。
「あら、女官長、まだいたの?今後も特に申し付けることも無いから、呼ばない限りは来なくていいわよ。」
「しょ、承知いたしました。」
相変わらず怯えながらそそくさと出ていく。まあ、あれだけ怯えていれば、わざわざ顔を出すこともないでしょう。何もしなければ殺されはしないのだから。
「それでは、平民用の服を準備いたしますので、お着替えを。」
カエデは、今までの私の生活を知っているから、街に出るくらいでは何も言わない。
さあ、3年は長いけど、楽しめるだけ楽しみましょう。
その後は、街に繰り出して色んな店を見て回ったり、王都の外に出て狩猟をしたりと、退屈しないよう積極的に出かけた。女官も教育が行き渡ったのか、私の行動を阻害するような者はいなくなった為、気軽に外出している。
陛下は何度かこちらに渡ろうとしているようだが、つまらない女に時間を使うよりは、民のことを考えることに時間を使うべきだろうと拒否している。1回ヤッたんだからそれで十分でしょう。
ディールからは、陛下を受け入れて欲しいという内容の手紙が届けられるが、何を言っているのか分からない。最初の態度がなければ、プラマイゼロの状態だっただろうが、今や好感度はドン底なのだ。何故わざわざ私が不愉快な思いを我慢しなくてはいけないのか?と直球で返すと、暫くは静かになるが、ほとぼりがさめたところでまた言ってくるので、地味にイライラする。
不敬だなんだと言う声も後宮の外ではあるようだが、そもそも3年子に恵まれなければ不名誉などというのも、王族が勝手に都合よく作り出したもので、王族にすり寄りたい家ならばともかく、興味も好意も無い側室候補の私が、陛下を拒絶することを禁止する法も根拠も無いのだからこちらも遠慮や我慢はしないよ。
後宮内では、陛下を私がキッパリと拒絶しているからライバルにならないと認識したようで、他の側室や側室候補からは意外にも友好的なお誘いが増えていた。
見目麗しい娘達と過ごす楽しい女子会なら私も喜んで参加するよ。鬱陶しい男共はいらんですよ。
まあでも、これなら意外と早く3年経っちゃうかな~。
ちょっと忙しくしていたのですが、気分転換として短編を書いてみました。