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ヴィーナスは微笑んだ。  作者: 神崎しおり
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読んでくれてありがとうございます。


誤字脱字、誤った表現があるかもしれませんが、あたたかい目で読んでください。

彼女とはその後何回か食事をしたり、デートをしたりして、俺の心は完全に彼女に奪われていた。

撮影で訪れて街がきれいだと彼女に写真を送りたくなるし、過酷な撮影の後は必ず彼女に電話をしていた。(ほんとは会って抱きしめたかった……。キモッ。)そして俺はついに彼女に告白することに決めた。

最初に声をかけてきたのはむこうだけど、彼女は完全にお友達からって感じで、手応えなしだと思っているようだし、ちょっと驚かしてみたい気持ちもある。そして俺は彼女に電話をした。



2日後の朝9時、S駅前の時計台で。3回目のデートの待ち合わせ場所は今日の目的地に1番近く、わかりやすい場所だ。午前中に美術館に行き、適当にお昼をとって、午後からは近くの動物園に行くというのが今日の予定。毎回の行き先は彼女にリクエストしてもらっていて、1回目2回目のデートは一緒に買い物をしたり、テーマパークに行ったり結構女の子っぽい要望だったが、今回はだいぶ普通だった。



10分前集合が当たり前の俺はそれ以上早く行くことも遅く行くこともない。いつも早く来る彼女に気を使ってほしくなくてそのことは前にも話したのに、彼女は当たり前のようにそこに立っていた……、待った?と聞けば、絶対に首を横に振るだろうから、いつ来たのと聞いてみると、


「楽しみすぎて早く目が覚めて……、30分前に……、来ちゃっ…た……。」


本人はすごく恥ずかしそうにしているけど、100点満点の回答だったよ、今の!

今日の彼女はセーラー服っぽいブラウスに短パンだった。あ……、脚が……。他のヤツに見せたくないな。。初めて夏をこんなに恨んだよ。いつも清楚な格好の彼女にしては珍しいカジュアルな格好だった。高校生みたいだ。


最初に行った美術館では、彼女は本当に、じっくりじっくり、ひとつひとつの作品の説明書きを、一言一句逃さない勢いで読んだあと、作品を色んな角度から眺めて、少し考えて、満足したって顔をして次の作品に行く。そのせいで、2時間でようやく、1階のを観終わった。

俺はというと、そういう彼女を眺めながら、未だにつかめない彼女についていろんなことを考え、妄想した……り、しなかったり……。やっぱりしたり……。特に暇ってことはなかった。

彼女がふと時計を見て、すごく驚いた顔をしたあと、すごくしかめっ面になった。あの顔は、「やってしまったー……。」ってときの顔らしい。すぐに僕の方を見て駆け寄ってきた。


「ごめんなさい!美術館に来るといつもこうなんだよー。退屈だった?引いた?萎えた???」


「ん、別に全然苦じゃなかったし楽しかったよ。(君の妄想で、)でも、さすがにずっと立ちっぱなしは疲れたからそこで休まない?」


俺は庭園にあるカフェを指さした。


コーヒーを注文して少し奥まったところにある席に座ると、


「私ね、前世はヨーロッパの貴族だった気がするんだ。」


唐突にそんなことを言われたから、なんにも返すことができなかった。が、彼女は話し続ける。


「なんかこういう絵を見るときとか、私子供の頃からピアノやってて、吹奏楽もやって、色々と音楽にも手出しててね?そういうとき、心がこう、疼くんだよ。だけどあったかくもなって、懐かしくて、泣きそうにもなる。それにね、既視感って言うの?高い階段のところから降りるときとか、なんか自然にわかるんだよ、ああ、ここにドレスがきて、このぐらいの重さで、コルセットはこのぐらいきついから今日は食べ過ぎちゃいけないなー、みたいな。変でしょ?」


俺は黙って彼女の言葉を待つ。


「でもね、そうやって、信じてるの。ああ、私貴族だったんだ、って。信じたいの。わかってるよ、自分でも、馬鹿げてるって。ああーもう、こんな話誰にもしたことないのに。」


少し涙ぐんでるようにも見える彼女の瞳は、


「たぶん、"特別"になりたいの。うん、私前世知ってるんだー、って。私貴族だったんだー、って。そうやって、自分の"特別"を見つけて、自分の人生なんだから自分が主人公でしょ、みたいなんじゃなくて、この世界の、物語の中心人物になりたいんだよね。

結局自分の評価は他人が決める、だったら自分だけが私は主人公です。って言っててもなんの意味もないじゃん?目立たないといけない、認められなきゃいけない、偉くならなきゃいけない、みんなに……尊敬される存在でないと、崇められる存在じゃないと、……女神のような人でいないと生き残れない。存在価値がない……。ついそう、考えちゃう自分がいる。

そしてそれを間違っていないと思う自分がいる。正直……怖い、自分が。だけど、もう慣れちゃった。たぶんこれが私の生き方だし、ほんとにいつかそんな人になれるかもしれないしね?。」



彼女は最後に、冗談ぽくそう言って、目を涙でいっぱいにして微笑んでいた。彼女の瞳は、彼女の瞳の、奥の奥の奥の小さな小さな彼女は、怯えていた。きっと一生、どんなに幸せでも、どれだけ愛する人がいても、消えることのない何かを抱えて、一生それに怯えながら生きていくのであろう。


「ごめん、暗い話で、あー恥ずかしいな。こんなとこ見られたくなかったのに……。」


「……行こ、そろそろお昼の時間だけど、どうする?まだ2階見れてないし、気が済むまで付き合うけど。」


「お腹すいた!食べに行こう。ここにはまた来ればいいから。」


俺は、彼女から逃げた。怯える彼女をひとり残して。



お昼は近くのインド料理屋さんで食べて、動物園に向かった。動物園につくなり彼女はさっきまでのテンションが嘘かのように大はしゃぎだった。まさに天真爛漫って言葉が当てはまる。珍しい動物を見つけては、「和多利さん和多利さん!」と俺を呼んで、観察中の動物が動くと、「みてみて!」とすぐに俺を呼ぶ。なにこれ、可愛すぎやん!



満足した彼女は今度は隣接されている遊園地に行こうと言い出した。なるほど、彼女はこのために今日の服装できたのかと納得がいくほど、彼女は次よ次よといろんなアトラクションに乗った。そしてあっという間に夕方になり、もうすぐ日が沈みそうなとき、残すは観覧車だけとなってしまった。



「私、男の人と観覧車乗るの初めての!ずっと憧れてたからめっちゃ嬉しい!」


爆弾発言を落とした本人は全く気づいていないらしい。自分から声をかけたくせに、もしや俺を男だと思っていないのか?男とふたり、狭い密室に入ることが夢だったなんて、なんて破廉恥な。……俺が初めてで良かったものの。


観覧車に乗ると夕焼けがきれいに見えた。今日一日動き回った疲れがどっとやってきたのは彼女も一緒のようで、おしゃべりは止まった。今しかない、と思った。


「佐藤さん。今日まで俺と色んな所に行ってくれてありがとう。いろんな美味しいものも食べたし、君といると驚きの連続だったよ。」


彼女は、今から何を告げられるのか不安、って顔だ。


「今日、"特別"になりたいって言ってたよね。佐藤さんが言っていた意味とは少し違うかもしれないけど、今すぐ"特別"になれる方法が一つ、あるよ。」


「?」


「佐藤皐月さん。俺の"特別"な人になってほしい。君のことが好きだ。付き合ってください。」


ちょうど頂上に来た観覧車の中で夕焼けに照らされ真っ赤になった彼女のキレイな瞳から、少しだけ、小さな小さな彼女の、笑顔が見えた。

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