1、彼女と彼の今までは……
読んでくれてありがとうございます。
誤字脱字、誤った表現があるかもしれませんが、あたたかい目で読んでください。
今日はいつもと違う、家から少し遠い大学のキャンパスだった。
電車で30分ガタンゴトン連れて行かれた先は大して変わらない都会の姿で、どんな街なのか少し期待していた心が無駄に落ち込んだ。
駅から降りて、徒歩5分。そこにキャンパスがある。今日は、天気予報で久しぶりの快晴だと言っていたので、お気に入りのブラウスとスカートを着て、髪も少し編み込んでお団子にして、ネイルも新しくした。
そんな調子にのった私への嫌がらせか、雲行きも怪しく、雨の匂いがしてきた。もちろん傘は持ってきていない。
またまた落ち込んだ私は、小さな溜息をして、とぼとぼキャンパスに向かって歩き始めた。
駅前はそれなりに栄えていて、今若者に流行っているアパレルショップやファストフード店があった。人もそれなりに多く、前からは何人かの男女がぽつぽつと歩いてくる。
そう、そんな中に1人、不思議と目が離せない男がいた。なんだか心がうずうずして、遠足の前の日の夜みたいな気持ち。この人から離れちゃいけないと思った。この人をこれ以上1人にしてはいけないと。
「…………っあの!もしよかったらお茶しませんか!」
そんなことを考えていたら、いつの間にかその人の腕をがっちり掴んでいた。
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その日は近くで撮影があって、罰ゲームで1人自腹で帰ることになった。いつもならタクシーを呼ぶところ、今日はなんだか歩きたくて、最寄りの駅まで歩くことにした。
空を見上げると雲行きは怪しく、雨の匂いがした。
鞄の中を見てみると、偶然にも前回の雨のときに使った折りたたみが入っていて、助かった、と心のなかで神に感謝した。
このあたりは今日もそれなりに人が多く、賑やかな雰囲気が俺のお気に入りだった。駅が見えてきて、自分の歩きたい気持ちもそれなりに、うん。満たされた。
「…………っあの!もしよかったらお茶しませんか!」
俺の腕には小さな手があった。。
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「あっ、えっと、その……」
何をやっているんだろうか。相手は明らかに困惑の色を示している。
ええい、ここまで来たらどうにでもなれ。自暴自棄になった私は誰にも止められない。昔からよくそう言われた。
「私、佐藤皐月っていいます。あ、あなたに一目惚れしました!」
彼の顔を初めてちゃんと見ると、、かっこよかった。。
「なんていうか、ビビってきたんです、ほんとに。この人を離しちゃいけないって。」
真面目に話しているつもりだが、完全に怪しいヤツでしかないだろう。そりゃそうだ。自分だったら引いているだろう。暫く沈黙が続いた。……よし。今すぐ逃げよう。
「ごめんなさい。変なこと言いました。ほんとに……。忘れてください。あの……さようなら!」
くるっと踵を返して駅に向かって早歩きをする。はやく、はやく帰りたい。そしてカラオケに直行して、X JAPANでも歌ってこのたった今できた黒歴史を宇宙の果てまで飛ばしてやりたい。
「ま、待って!」
なんか後ろから聞こえるけどとにかく帰りたい。
「待ってって言ってるでしょう!」
彼にがっちり腕を掴まれていた。男の人の、大きな手……。これじゃあさっきと形勢逆転だ。
「いいですよ!お茶、しましょ。」
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正直驚いた。逆ナン、されたってことだよな。もちろん今まで恋人がいたことはあったが、すべて俺から告白して成立した関係で、告白されたことはなかった。
俺がこの誘いを受けた理由はただ一つ、単純に可愛かったからだ。俺の方こそ一目惚れしてしまいそうだった。彼女が本気であることはその目から伝わってきたが、ここでホイホイとついていくような男じゃあ格好が悪い。少し待ってからOKしよう。そう思って、彼女を見ていたら、なんだかその瞳に吸い込まれそうになった。
「ごめんなさい。変なこと言いました。ほんとに……。忘れてください。あの……さようなら!」
そんな言葉で我に返った。えっ。諦めるの!?そそくさともと来た道を歩いていくと彼女の後ろ姿は小動物のようだった。
「ま、待って!」
体が勝手に動いていた。
「いいですよ!お茶、しましょ。」
いつの間にか彼女の腕を掴んでいた。キモッ。これじゃセクハラで訴えられるなと思いながら、彼女の返事を聞くまで離す気はさらさらなかった。
「……はい!しましょ!」
この娘は女神か。愛と美の女神ヴィーナスか。それとも何だ、マリア様か?彼女のとびきりの笑顔は俺にとんでもない爆弾を落とした。
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「あの、私から誘ったのもなんなんですけど、ここらへんの土地勘なくて、美味しいお店とか知らないんです……。なのでその、」
私は恥ずかしさでいっぱいになりながらもさっき見つけた全国チェーン店の珈琲屋を指さした。
「っふ……。」
あ!この人笑いをこらえてるわ!
「ちょっと、笑わないでください!ただでさえ恥ずかしいのにさらに恥ずかしくなりました!」
「ごめん、ごめんなさい。いや可愛かったからつい。いいよ。あそこにしましょう。」
こ、この人何さらっとすごいこと言っちゃってんの!この顔面でこんなこと普通に言ってたら、誰でも好きになるわよ!?無防備すぎない!?私、大変な人をつかまえちゃったかも……。
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「改めまして、佐藤皐月です。21歳、K大学経済学部の3年生。今日は大学のキャンパスに来たんですけど、完全にサボりです。」
彼女は予想を裏切らず、キャラメルフラペチーノを頼み、自己紹介を始めた。
「和多利俊です。28歳、ユーチューバーやってます。今日は近くで撮影をしてました。質問は?」
「結構年離れてますね、私達。年下ってありですか?」
うん。まさか最初にそこツッコまれるとは思わなかったよ。普通ユーチューバーってとこツッコむよね。
「特にこだわりはないよ。全然アリ。」
「そもそも、結婚されてますか………?」
不安そうに聞いてくる。まるで、捨てられた子犬だ。
「いや。してないよ。」
ほら、やっぱり子犬だ。今の一言で急に顔が明るくなる。だけどまたしかめっ面を始めた。今度は何があったんだ。
「じゃあ、恋人は……?」
「いない。」
「好きな人は……?」
ここでいると答えたらどんな顔をするのか見てみたいような気もしたが、そこは紳士に答えよう。
「いない。」
やはり彼女は予想を裏切らない。またまたとびっきりの笑顔を見せた。この娘、大丈夫なのだろうか?こんなに素直で。絶対悪い男に騙されるぞ。
「じゃあ次の質問。ユーチューバーってほんと?」
「うん、調べてみればすぐ出てくるよ。そこそこ有名なんだ。この前チャンネル登録者数100万人いった。」
「なにそれすごい!おめでとう!チャンネル名教えて、今すぐ調べる。」
「それはできない。だいたい君が実はファンだったなんてことになったら、俺身バレしちゃうだろ?それは勘弁してくれ。」
「そっか、そうだね。うん。知りたいけど、今は我慢。それじゃあ、私に質問ある?」
待ちに待った俺のターンだ。そりゃあたくさんあるさ。
彼女は関西の方の出身だそうで、ちょこちょこ見え隠れする関西弁とボケ、ツッコミはあまりにもギャップ過ぎてハマりそうになっている。(本人曰く関西人魂だそう)
それだけでなく、なかなかのゲラであり、俺の一挙一動に爆笑してくれた。こういうとき、ネタがあるからユーチューバーやっててよかったなと思う。
彼女はひとりで喋るというより、誰かの相づちや意見を求めて喋るタイプで、俺の誰かの話につい首を突っ込んで話してしまうタイプとうまく噛み合った。
他にも俺たちは趣味も好き嫌いもなかなかにバラバラだったが、そのデコボコがパズルのピースのようにうまくハマっていって、お互い自分の知らない世界を知ることができた。
出会ったときに降り始めた雨はいつの間にかすっかり止んで、街は夕焼け色に染まっていた。
「今日はありがとうございました!ほんとに楽しかったです。……それで、やっぱり和多利さんと喋っててこの人のこと好きだなって思ったんです。だから、これからも、もしよかったら、たまにでいいので、会ってくれませんか?」
こんなこと言われたら意地悪したくなるのはどうしてなのだろか?もしかしたら彼女は俺に変な方向の新境地を開かせようとしているのかもしれない。
「……ごめん。それはちょっと無理かな。」
「あっ、あー、そうですよね……。ごめんなさい。ほんとに、今日はこんなにお話させていただいただけで、感謝です!ありがとうございました!これでまた明日からもがんばれそうな気がします!ほんとにありがとうございました。それじゃあ、さよなら。」
無意識だろうか、早口になっている。これは早く誤解を解かなければ。
「たまに、じゃなくて、これからもたくさん会ってくれませんか?」
更新時期は不定期です。