9. 帰還
雄太が目を開けると、先程とは違って付近のスライムの気配が全く無くなっており、ダンジョン内は静寂に包まれていた。
一体何処からあんだけの量のスライムが出て来たんだよ・・・
グラトニーが無かったらマジで終わってたぞ・・・
雄太は辺りを見回し、スライムの気配が全く無い事を感じ取り、疲れた表情を見せながら地面へと腰を下ろした。
あ〜。
久しぶりになんか疲れたわ・・・
タバコ吸いた──
「うおぉっ!?」
雄太が座って休息を取っていると、いきなりスライムスーツの首の部分がモゴモゴし出し、雄太の頭を包み込む。
雄太は堪らず咄嗟に目を瞑ってしまい、スーツが口に入ってこない様に必死に口を硬く閉じる。
暫くすると、顔を覆っていたスーツの感覚が引く様に無くなったので、雄太は恐る恐る目を開けた。
目を開けた雄太の視界にはスキルボードを貼り付けた様に何かのマークや数字が空中へと現れており、雄太は咄嗟に自分の顔を触ってみると、何やらゴーグルの様な物が雄太の顔を覆う様に現れていた。
コレってアレか?
新しいスキルを獲得して発現したものなのか?
雄太はすぐ様スキルボードを発現させる。
─────
橘花 雄太(25)
ユニークスキル:
【擬装】 (アクティブ)
-【収納】 (アクティブ)
-【スライムスーツ】 (アクティブ) LV 2
<スライムグラトニーベース>
・身体強化 (パッシブ)
・同属察知 (パッシブ)
・同属捕食 (パッシブ)
・スライムナイト:硬化変形 (パッシブ) 衝撃吸収 (パッシブ)
・スライムソルジャー:斬撃変形 (パッシブ)
・スライムメイジ:膨張変形 (アクティブ)
・スライムスナイプ:NEW
・スライムジェネラル:NEW
─────
スキルボードにはスライムスナイプとスライムジェネラルと言うスキルが増えており、スライムスーツのレベルが2になっていた。
毎度の様にスライムスナイプとスライムジェネラルの概要をポップアップさせてスキルの内容を確認する。
─────
【スライムスナイプ】
・狙撃変形 (アクティブ)
スライム弾を発射する。
吸収したスライム1体につき10発発射可能。
【スライムジェネラル】
・統率変形 (パッシブ)
スーツへゴーグルを追加。
膨張の統率が可能。
─────
「おぉぉぉぉぉ!!」
コレってまんまあのデカいヤツがやってた事じゃねぇか!?
やっぱ倒しておいて良かったわ!
って言うかスーツのレベルが上がってるぞ!?
雄太はスキルの内容が期待していた以上だった為、立ち上がって両手を上に上げて喜んだ。
って言うかスナイプのスライム弾って何だ?銃やそれらしいモノが無いのにどうやって撃つんだよ?
と、スキルについて考えた瞬間にいつもの様にスキルの概要が頭の中へと入ってきた。
「マジで!ウソだろ?こんなの最高じゃねぇか!」
雄太はスキルの概要を元に自身の腕へと膨張を筒状に発現させて、ゴーグル上に現れた丸いターゲットをダンジョンの壁へと固定して照準を定める。
「ほほぉう」
ゴーグルの中のヤツでターゲットをロックオンできるんだ。
成る程・・・
そんじゃ──
「ファイアー!」
パスっ
ドゴン!!
筒状に変形させた膨張から軽い音を立てて発射された黒いスライム弾は、音とは裏腹に凄い勢いで射出され、ダンジョンの壁を抉って軽く穴を開けた。
「うぉぉぉぉぉ!!スッゲぇぇぇぇ!!」
雄太はスライム弾の威力に目をキラキラさせて喜ぶ。
ヤッベーなコレ!
でも、コレでスライム撃ったらコアの吸収が面倒だな・・・
まぁ、スライムにはあまり使う事は無いと思うが、いずれ使えるだろう。
そんじゃ次だ次ぃ!
雄太は次の新しいスキルを試すべく、さっきと同じ様にスキルについて考え、使用方法を理解した。
そう来たか!
先ずは赤腕を発現させてっと。
次にもう一つ発現させてっと。
更にもう一つ発現させて、コレでどうだ!
さっき迄は一つの赤腕だけしか自在に動かす事が出来なかったが、統率変形のスキルを覚えた事で赤腕をオート化する事が出来る様になった。
赤腕に対してある程度の思考を持たせ、それに準じた動きをさせる事が出来る様になったのである。
発現させた三つの赤腕の内の一つに右回りにグルグルする様に、一つに左回りにグルグルする様に、そしてもう一つは自分で動かすと言った感じで複数の膨張を操る事が出来る様になった。
コレを使えば、攻撃された場合にオートでシールドを形成して攻撃を防いだり、モンスターを見つけ次第オートでスライム弾を撃ったりと言った事が出来る様になるのである。
多分・・・
取り敢えずの目標であった赤腕を千本動かすと言う事も、行動をプログラミングされたオートではあるが可能になる。
多分・・・
本当は自分で自由自在に動かしたいけどね。
まぁ、いずれそれも出来る様になるだろう。
因みに、スーツのレベルが上がった事でスーツに吸収されているスキルの威力が上がった。
身体強化は少し向上し、収納は量が増え、防具はより衝撃を吸収し、短刀は切れ味が増し、膨張は動かせるか範囲が伸び、スライム弾は距離と威力が上がり、統率は少し複雑にプログラムできる様になった。
そして今日だけでスライムを226体も狩った。
俺の収納の中には226個のスライムゼリーが入っている。
コレがどれだけの値段で売れるか楽しみだ。
って事で長い間ダンジョンに居たが、お腹も空いたし、なんだかんだで疲れたので今日は帰る事にする。
雄太は元来た道を戻ってダンジョンの入り口へと向かって歩いて行く。
入り口へと向かう迄にスライムの気配は全く無く、何故か1匹も出会う事がなかった。
多分、アレだけの数を一気に狩った為、リポップも遅いのだろう。
しかし、ダンジョンの入り口へと着いた雄太はピタッと脚を止める。
どうしよう・・・
この格好のまま出て行くべきか・・・
擬装を解除してから出て行くべきか・・・
Tシャツ、ジーンズ、サンダルの格好の奴が、ダンジョンから帰ってきたらフル装備って事になると、色々と何か言われるのは間違いない。
しかも入ってから時間が経ちまくっているから怪しまれるのも間違いない。
どうせ何か言われるんだったら擬装を解除しておいた方が良いか。
と言う事で雄太は擬装を解除してTシャツ、ジーンズ、サンダルの格好のまま手ぶらでダンジョンを出る事にした。
ダンジョンを抜けて地上への階段を上がると、空は既に夕焼けに包まれており、そろそろ日が落ちようとしている時間帯だった。
雄太が入って来た時と同じ格好でゲートにカードを翳して出てくると、朝に会った見張りの人がすごい形相で駆け寄って来た。
「キミ!無事だったのかい!? ダンジョンをちょっと覗いてくるって行ったっきり帰って来なかったから心配したよ! 見た感じ無事そうだけど、大丈夫かい? とりあえずハロワの職員へもキミの事を伝えてあるから、帰りの手続きを済ませながら報告してくるといい」
見張りの人は雄太がなかなか帰って来なかった事が心配だったらしく、雄太の無事な姿を見てほっとため息をついていた。
「すいません。ご心配をおかけしました。 ちょっと中で色々とありましたけど、俺はこの通り無事です。 ご配慮頂きありがとうございました。 それでは、カウンターへ行って帰りの手続きして来ます。 今日はありがとうございました」
雄太は本気で心配してくれている見張りの人へとお礼を言い、足早にハロワのカウンターへと向かった。
自動ドアを潜り抜け何事もなかったかの様にカウンターへと向かうと、俺の姿を見たおばちゃんが泣きそうな顔をしながら椅子から立ち上がった。
「あんた! こんな時間までなにやってたんだい! 佐藤さんからあんたがなかなか帰って来ないって言う報告を聞いてどれほど心配した事か・・・」
「ご心配かけて申し訳ございませんでした。 俺ならこの通り無事に帰って来れましたよ。 中では色々とありましたが、有意義な時間が過ごせました。 色々とご助力頂きありがとうございました」
俺はおばちゃんへと謝罪とお礼の言葉を告げて頭を下げた。
「あんた、思い詰めた様な顔をしていたからてっきり自殺しに行ったのかと思ったよ・・・ それで、だいぶスッキリした様な顔をしているけど中でなにがあったんだい?」
おばちゃんは無事な俺を見て気が抜けたのか、ドサっと背中を投げる様に椅子へと座り、中での経緯を聞いて来た。
「ちょっと、ここでは人の目があるから言えないんで、どこか二人で話せるとこってありますか? それと、買取もお願いしたくて・・・」
雄太は他の人には聞こえない様な声で、おばちゃんへと場所を移す様に頼むと、おばちゃんは雄太の買取と言う言葉を聞いて胡乱な表情で雄太の姿を上から下へと眺めた。
「わかったわ。 それじゃ横の会議室を押さえるから準備ができるまでそこに座って待ってな。 って言うか、買取って手ぶらの様に見えるけど、どこにそんなもんがあるんだい?」
「それも後で話しますんで」
と雄太が言うと、おばちゃんはフンっと鼻を鳴らしながら席を立ってどこかへと向かって行った。
おばちゃんがどこかへ行ったので、雄太は冷水機へと向かい水をガブ飲みした後に、おばちゃんに言われた通りにカウンターの前の長椅子へと腰を下ろして待つ事にした。