86. 勇者降臨
カウンターの奥の部屋は、まるでどこかの社長室の様な作りになっており、奥にある大きな執務机の前には、4シーターのソファーが2つ、ローテーブルを挟んで向かい合って並べられていた。
「立ち話もなんだから、かけてくれたまえ」
日向に勧められながら、ソファーへと座る日向と老人の対面へと雄太達は腰を下ろした。
「さて、何から話せば良いものか・・・」
日向が思案げに対面へと腰を下ろしている雄太へと視線を向けると、堰を切ったかの様に雄太が口を開いた。
「ここは、ここは一体なんなんだ?さっき、メガネの女性が、「裏ギルドへようこそ」とかって言っていたが・・・」
雄太の言葉を聞いた老人は、あちゃ〜っと言った具合に、右手を額へと当てて下を向いた。
「あのじゃじゃ馬め・・・ワシの決め台詞を取りおって・・・」
「クククク。マスター。お気持ちお察しいたします」
下を向いた老人とは裏腹に、何か楽しそうに日向が笑い出した。
「橘花君。そうだよ。此処は、木下くん、あ、君を連れてきた彼女の事だ。彼女が言う様にギルドと対立する為に造られた、裏ギルドだ」
「ギルドと対立ねぇ・・・」
雄太は日向の言葉に自身の耳を疑い、思わず感情的になりながら聞き返してしまった。
「あぁ。我々、裏ギルドは、ギルドと対立する為の組織だ」
「・・・一体、どう言う事なんだ」
雄太は、昨晩、日向が言っていた、雄太の力が欲しいと言った言葉を思い出した。
「先ずは、裏ギルドが造られた経緯から話した方が良いだろう。マスターお願いします」
「うむ。ここは、日向が言う様に、ギルドと戦う為に造られた組織、裏ギルドだ。小僧。オマエはギルドについての何を知っておる?何故、この世界にギルドなるものが生まれた?」
雄太は、老人の言葉に対して情報を引き出す為に、敢えて今まで学校の授業で習ってきた事を思い出して伝えた。
「・・・静寂の世界から始まり、スキルを使える者達を纏め、この世界の武力や権力の統率をし、文明や技術の発展の為にダンジョン素材を研究し開発する為、だろ?」
「ふむ。まんま教科書通りだな。つまらん」
老人は眉間にシワを寄せながら顎をシャクリあげながら、顎にある無精髭の様な白髭を触り出した。
「小僧、この世界に疑問を抱いたことはないか?」
「いや、特には。俺が生まれてからずっとこうだったし」
(このジジイ、異世界人がこの世界に居る事についてなんか知っていそうだな)
「ん〜ん。やっぱり、普通だとそうなるわなぁ。小僧の様な若い世代は、生まれた時からコレが当たり前となっておるからのぉ」
老人は顎を触るのをやめ、ペチンと膝へと手をついた。
「では、何故、人類はダンジョンへと潜る?」
雄太は、昨日、日向に言われた事を思い出し、日向へと視線を向けながら老人へと答えた。
「ダンジョンから獲れる素材を利用して、文明と技術を発展させる為だろ?」
「そうよのぉ。それも一理ある。では、誰が、ダンジョン内の素材が、我々の文明の復興や発展の為に有用である、と伝えたのだ?」
「・・・ダンジョン素材を調べたどこかの研究者か誰かか?」
雄太は、敢えてアリアから聞いたこの世界へとやって来た異世界人についてを濁して木下へと答えた。
「一度崩壊した文明で、生きていくのに精一杯だった人類に、その様な高度な研究が本当にできると思っておるのか?」
「・・・無理、だな・・・」
「だろ?こうやって考えていくと、この世界は不思議だろ?しかも、今まで、ダンジョンからは1匹たりともモンスターは出てきておらんぞ?そんな、コチラから好んで手を出さなければ無害なダンジョンへと行く様に、誰が、人々を凶悪なモンスターが蔓延るダンジョンへと焚きつけた?」
「俺が学んだ歴史の流れを見ていくと、政府、いや、ギルドか?」
「お!だんだんと近づいて来たぞ」
老人は楽しそうにニヤけながら雄太へと質問を続けた。
「では、何故、ギルドはそんな高度な技術を知っておったのかのぉ」
「・・・それは・・・」
雄太は老人からの質問に対し、この世界に異世界人が居ると言う事を伝えるかどうかを考えてしまい、答えに詰まってしまった。
「それは・・・ギルドの連中は、最初っからダンジョンの有用性と、それらを利用した技術を知っておったからだ」
「・・・・・・」
「そうでもない限り、人類はゼロからここまで、急激に発展なんぞできやせんわ」
老人は急に目つきが鋭くなり、驚く雄太を睨む様に視線を向けた。
「もう、回りくどく説明するのも面倒だからぶっちゃけるぞ」
「は?」
「ギルドを作った奴らは異世界人だ。奴らは地球にダンジョンが現れたと同時に、ダンジョンに引っ付いてこの世界にやって来おった」
「・・・・・・」
雄太はいきなりぶっちゃけて話し出した老人へと向けて、何故それを知っているのかと言う様な表情をしながら視線を向けた。
事前にアリアからダンジョン出現時の事情を聞いていた雄太にとっては、異世界人がこの世界に紛れ混んでいる事は周知の事実であり、それを他人から、しかもこの世界の人間から聞いた事に対して内心で驚いていたと言うのが実際だった。
「なんでそう言う突拍子もない結論に?その歳で未だに厨二を患っているのか?」
「アホぬかせ!厨二上等だわぃ!こちとら、生涯現役で厨二っておるわい!」
「うわ〜。マジかよ・・・」
雄太は痛い者を見る様な生暖かい目で老人を見つめた。
「小僧。オマエ、異世界転移って知っておるか?」
「オイオイ・・・急に話が飛んだな・・・しかも厨二毒者の大好物な題材じゃねぇか」
雄太は、老人を見る目を、生暖かい目から可哀想な者を見る目へとシフトチェンジした。
「オイ!その可哀想な者を見る目はやめろっ!」
「いや、無理だろ。こんな痛い話を、恥ずかし気もなく言い切る様な老人を、俺にどう接しろと?」
「はぁ〜。ルカのガキだけあって、性格が全く一緒だわい」
「おい、ジジイ・・・なんでそこで俺のお袋の名前が出てきた・・・俺達の何を知っている」
雄太は項垂れている老人へと向けて目つきを鋭くして睨みつけた。
「オマエの事なんざなんでも知っておるわい。小僧が赤ん坊の頃には、ワシがオムツを変えてやった程だぞ」
「は?」
雄太は老人の言葉に対し、思考が停止した。
「色々と語れば長いもんなんだが、端折りながら巻きで端的に話すぞ。先ずは、ワシについてだ。ワシは木下 栄治と言う。60年前に、ある日突然、異世界へと召喚させられた勇者だ」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
雄太は、突然、老人から話された突拍子もない話に対して馬鹿にする様に声を上げた。
「オマエ!?信じておらん様だの!?何なんだ、その馬鹿にする様な目は!?ワシを馬鹿にするなよ!こんなジジイの見た目になっても、オマエなんぞ瞬殺だぞ!」
「ふっざけんなよジジイ!マジで生涯現役で厨二なんかよ!クソっ!来るんじゃなかった!帰るっ!」
雄太は、木下の馬鹿みたいな発言に対し、とうとう我慢ができなくなったのか、日向へと帰る宣言を出した。
「まぁまぁ。落ち着いて、橘花君。マスターが勇者かどうかと言うのは一旦置いておいて、マスターの話を最後まで聞いてくれないか」
「無理っ!誰がこんな痛いジジイなんかにかまってられるかっ!時間の無駄だったわ!ホント、このジジイは勇者だよ!この歳にもなって自分を勇者呼びできるなんて、本物の勇者様だよ!」
「オイ、小僧!ワシを馬鹿にするなよ!ワシだって好きで勇者になんぞなった訳じゃないんだぞ!ワシの青春時代に謝れ!」
「ウルセー!ジジイ!俺が、こんな痛い勇者様にオムツをかえられたとか嘘言いやがって!アンタこそ俺の純真な過去に謝れ!俺の知り合いにこんな痛いジジイなんていねぇよ!」
「なんだと小僧ぉぉぉぉ!!本当に口だけはルカそっくりになりおって!オマエと喋っておると、ルカによって踏みにじられたワシの青春時代が蘇ってくるわぁぁぁぁ!!クソっ!忌々しいルカめぇぇぇぇ!!」
雄太と老人はお互いにヒートアップし出し、ソファーから立ち上がって顔を近づけさせて睨みあった。
「オイ!ジジイぃ!アンタ、一体お袋のなんなんだよ!なんでお袋の名前を知っていて、呼び捨てにしてんだよっ!」
「オマエの家族の事など、なんでも知っておるわい!ルカ、アイツはなぁ!いっつも、人を小馬鹿にする最低最悪な性悪ドSじゃ!ちょぉ〜っと、顔が良くて、ちょぉ〜っと魔法の腕が良いだけのクセに!みんなからは賢者様とかなんとか言われてチヤホヤされやがって!あの、くそミディア人の魔女めがぁっ!!しかも、勝手にワシを召喚したクセに、地球への返し方が分からないとかほざきおって!!」
「え?」
雄太の前で怒り狂っている老人は、雄太がアリアやエルダから聞いたミディアと言う異世界の名称を口にしていた。
「何が「え?」だぁぁぁぁ!!急に異世界に飛ばされて、右も左も知らないワシをいい様にたぶらかしおって!しかも、異世界に飛ばされた時に、変な力まで付与されたせいで、ルカによって年中無休で馬車馬の様に働かされたわい!オマエに異世界にまで飛ばされて、ブラック企業の社員の様に24時間働かされたワシの気持ちなんぞ分かってたまるかぁっ!やっと地球に帰れる手段が見つかったと思ったら、魔王の侵略から救ってやった王国にまで裏切られるとか・・・クソぉぉぉぉぉぉ!!異世界のバカヤロー!!うっ、ううっ・・・」
雄太の前で怒り狂っている老人は、地面へと両手両膝をついて力なく泣き出した。




