8. VSデカスライム
その後も雄太はスライム狩りを続け、スライムを狩った数は合計で62匹となった。
狩りの多くは膨張の腕、─雄太は赤腕と名付けた─ を使用しており、現在、雄太は1本目の赤腕を動かしながら2本目の赤腕の練習をしていた。
1本目はスライムを察知した処へとほとんど自動で動かせる様になり、2本目は未だに簡単な操作しかできない為、自身の腕へと覆い被せ、腕の延長として伸ばしたり広げたりして操っている。
それでも少なくない面積を持つスライムを握り潰してコアを吸収し、一緒にゼリーも収納できる為、雄太が自身の腕で直接触れて吸収するよりもスライムを狩る効率は上がっている。
雄太が2本目の腕の練習に夢中になりながら狩りを続けていると、今までのスライムとは違って3倍以上は体積がありそうなデカいスライムに遭遇した。
「うおっ!?デカっ!?なにコレ!?気持ち悪ぅっ!?」
今までのスライムはせいぜいバスケットボールくらいの幅と高さでグニャグニャと蠢いていたのだが、今、雄太の目の前に居るスライムは、幅が今までのスライムの2倍程で、高さが1メートル程の大きさをした縦長のゲル状がグニャグニャと蠢いていた。
雄太と対峙したデカいスライムは、まるで雄太を敵視し、威嚇するかの様に体表のグニャグニャを激しく波立たせ、体内のコアを高速で不規則に移動させていた。
なんて言うか、すごく怒ってる感じだな・・・
やっぱ、俺がグラトニーだからなのか?
雄太は激しく猛っているデカいスライムから少し距離を取り、離れたところから赤腕を伸ばしてデカいスライムの上部分を握り潰した。
上部分を赤腕で握り潰されたデカいスライムは、上部が潰される瞬間、体内のコアを下の部分へと瞬時に移動させて自身の上部を切り離し、赤腕から逃げる様に後ろへと下がって距離を取った。
「おぉ!?」
吸収を回避された!?
デカいだけあるな・・・
やっぱアイツはここいらのボスか何かか?
初めて赤腕の握り潰しを回避され、瞬時に自身の身体を切り離したデカいスライムに少し感心し、それならと雄太が目の前のデカいスライムを握りつぶせるくらいまで赤腕の掌を広げてサイズを調整していると、デカいスライムの周りに何処からともなく普通のサイズのスライムが大量に現れ、普通のサイズのスライムは自らデカいスライムへと飛び込んでくっつき出した。
「な!?」
吸収した!?
いや、違う。
今のは普通のスライムが自らデカいスライムにくっついたぞ・・・
合体的な感じか?
雄太がデカいスライムへと自ら進んで合体した他のスライムについて思考していると、ゾロゾロと更に大量のスライムが現れ、次々とデカいスライムへと自ら飛びこんで合体していく。
終いには、デカいスライムは雄太が最初に出会った時以上のデカさになっており、デカいスライムはまるで鎌首を持ち上げるかの様に上から雄太の身体を見下ろす形へと変貌していた。
「デカ!?なにコレ!?」
雄太がデカいスライムを見て驚愕して立ち尽くしている間にも、普通のスライムがデカいスライムへと次々と飛び込んでいき、その体積をどんどん肥大化させていく。
「こんなのどうすりゃいいんだよ!?」
って言うか、まずは周りの合体スライムを止めないとどんどんでかくなんぞコイツ!
雄太はデカいスライムへと向かって飛び込んでくる普通のスライムの合体を阻止する為に、赤腕を伸ばして近寄ってくるスライムを次々と払い除けながら吸収していったのだが、そんな雄太の行動に怒ったのか、デカいスライムは体表を棘や針の様に尖らせ、雄太を串刺しにするかの如く沢山の棘を突き出してきた。
「な!?赤腕!!」
雄太は咄嗟にスライムを払っていた赤腕を盾の様に広げて眼前へと出現させ、迫りくる大量の棘の群れを防ぎながら吸収していった。
雄太が棘の対処をしている間、普通のスライムによる合体の対処が出来なくなり、棘を吸収してる側からそれを補うかの様に沢山のスライムが合体していくと言う終わりの見えないイタチごっこが始まった。
実際、雄太的には眼前で赤腕のシールドを張っていれば、これといった支障も損傷もなくただ立っているだけで済むのだが、雨霰の様に降ってくるスライムの棘攻撃を赤腕のシールドで防ぎながら、このままシールドの中に居るだけでは埒が明かないと思い、対処法を考える事にした。
どうしようかこの状況・・・
俺的には別に痛くも痒くもないからこのままここから立ち去ってもいいんだけど、そうするとコイツはどうなるんだ?
他のスライムが合体してもっと大きくなるのか?
それとも俺がここから去ったら合体を解いて出会った時の状態みたいに戻るのか?
・・・考えても全くわからん
・・・って言うか、コイツを倒せば確実にスキル獲得できるよな
・・・やっぱ、ここから去るんじゃなくてコイツを倒す方向で行くか
・・・さて、この攻撃の中どうしたものか
雄太は確実に得られるであろうスキルの為に、このデカいスライムを倒す事へと思考を切り替えた。
今使えるのは自在に動かせられる赤腕が1本、単調に動かせられるのが1本、それと、腰の短刀。さて、どうしたものか・・・
って言うか先ずはアイツの攻撃と合体をなんとかしないとな・・・
雄太は腕を組んで顎へと手を当てながら自身の周りをドームの様に囲っている膜状の赤腕を見つめた。
しかし、この赤腕のドームってそんなに厚くないよな?
・・・そんで、デカいスライムの棘って赤腕に触れた端から吸収されているよな
・・・じゃぁ、もう少しドームを小さくしても大丈夫じゃね?
雄太は広々としている赤腕でできたドームの規模を徐々に小さくしていった。
うん。
小さくしても全然余裕だな。
こっちへは全く衝撃すらないな・・・
んん?
って事はコレを俺が洋服みたく纏えば棘を吸収しながら自由に動けんじゃね?
雄太はさらにドームの規模を縮小させ、自身の頭から足へと向かって赤腕を身体へとラッピングする様に包み込んだ。
出来たよおい・・・
攻撃の衝撃も全く無いな・・・
少しフワフワしてて、なんか水の中にいる様な感じだな・・・
って言うか、どうやって呼吸してるんだ俺?
赤腕で自身を包み込んだ雄太は、この不思議な状態に首を傾げながらも、とりあえず出来た事に納得する事にした。
俺を包んでる方の赤腕は、服を着る感じで別に自在に動かさなくてもいいよな?
って事で、コレはこのままの状態で維持しておいて、次は群がってくる方のスライムだな。
雄太は赤腕の膜の背中の部分から1本の腕を出現させて棘を払う様に動かした。
よし。
膜を維持しても腕は動かせられるな。
コレでようやくアイツが喰える。
雄太は獲物を捕食する様な目つきと共に、口角を三日月の様に吊り上げて笑みを作り、腰から短刀を取り出して右手で握りしめた。
「さぁ!食事の時間だ!!」
赤腕を自身の背後でマントの様に広げて展開させ、腕で顔を隠して視界を確保し、棘の嵐の中を突っ切ってデカいスライムへと突貫していった。
突貫した勢いをそのままに腕を眼前でクロスさせながらデカいスライムへと前蹴りをするかの様に体当たりし、デカいスライムの体表と赤腕の膜が接触した端からスライムの体表を吸収していく。
デカいスライムとの接触は、まるで空気の塊へと突っ込んだ様な不思議な感覚であり、雄太は勢い余ってデカいスライムを突き抜けてしまい、背後にいた普通のスライムの群れの上へと着地する。
デカいスライムと接触して貫通したにも関わらず、これといった衝撃も何もなかった事に対して雄太は少し戸惑ったが、とりあえず、思考を新たに切り替えて、自身の背後へとマントの様に展開していた赤腕を腕の形へと変形させ、着地した先の足元にいるスライムの群れを、まるでゼリーやプリンを毟り取る様にまとめてコアを吸収し、拳の中でゼリーへと変貌させて即座に収納する。
同じ様に赤腕を動かして周りにいるスライムを次々と容赦無く吸収し、赤腕とは別に、雄太はデカいスライムへと突っ込みながら、まるで霧や煙を払うかの様に赤腕を纏った体で短刀を振り回しながらデカいスライムを吸収していく。
雄太がデカいスライムの体内で暴れている中、段々と小さくなっていくデカいスライムを助けるかの様に普通のスライムがデカいスライムへと殺到していくが、雄太は背後で赤腕を広げ、飛び込んでくるスライムを端から吸収して消し去る。
雄太が体内で暴れた事によって体積を大幅に消滅させたデカいスライムは、気づいてみれば当初と同じ様な大きさに戻っており、雄太はトドメと言わんばかりにスライムの群れを対処している赤腕をドーム状へと展開させ、自分とデカいスライムを一緒に包み込んで他のスライムから隔離させた。
大量のスライムが、デカいスライムと雄太が中に居る赤腕の赤黒い半透明のドームへと目掛けて一心不乱に突っ込んで来るが、スライムは膨張のドームへと触れた端から吸収されてゼリーへと変貌し、そのまま収納されて消えていく。
「クソっ」
はじめからこうしときゃ良かったわ!
って事でお前はコレでチェックメイトだ!
「大人しく俺に喰われろっ!」
雄太はデカいスライムへと両腕を横へと広げて一歩ずつ近づいていき、雄太が一歩近く度に雄太とデカいスライムを覆っていたドームも連動して段々と縮小していく。
デカいスライムはまるで雄太を恐怖するかの様に蠢きながら暴れるも、自身の体表がドームや雄太へと触れた端から吸収されて削れていき、スライムの直ぐ側へと着いた雄太が眼前へと突き出した右手でデカいスライムへとゆっくりと触れると同時に、ドームが急激に縮小してデカいスライムを包み込む。
ドームに包まれ、嫌がる様に激しくもがくデカいスライムは、雄太の眼前で縮小した卵形のドームによって全てを吸収され、その身を消滅させた。
ドームがデカいスライムを包み込んで無くなった瞬間、デカいスライムと合体しようとドームへと飛び込んで来ていた大量のスライムが雄太へと殺到し、雄太の周りはスライムの群によって埋め尽くされ、雄太は一切の光も差さない暗闇に包まれた。
周りを大量のスライムによって群がられている雄太を中心に、地面に沿って薄く展開された赤腕が広がっていき、広がった赤腕は薄くて赤黒い巨大な掌を形作り、ある程度まで掌が地面へと広がると、5本の指がゆっくりと同時に動いて立ち上がる。
そして、立ち上がった5本の指は、掌の中心にいる雄太を握りつぶすかの様にスライムの群れを巻き込みながら拳を閉じた。
雄太の周りにいる全てのスライムを握り潰しながら吸収した赤腕の拳が開かれると、そこには目を瞑りながら指先を下に向けて合掌をして集中している雄太が立っていた。
『スライムスーツニ新タナ能力ガ追加サレマシタ』
『スライムスーツノLVガ上ガリマシタ』
スキル獲得の声が聞こると同時に、雄太は息を吐きながらゆっくりと目を開けた。
「ふぅ〜」