79. いらっしゃいませ
ご飯を食べた後、雄太はスキルズと一緒に商業施設内で新しい部屋用のベッドや生活で必要な物を色々と購入する事にした。
新しい部屋は3LDKという事で、とりあえず、雄太が一部屋、エルダに一部屋、鬼達で大きい部屋を使うと言う事にした雄太は、色々な店舗を周りながら、それぞれに好きな物や気に入った物を買わせていた。
最初に電化製品の店舗へと入ると、雄太は真っ先に11インチのラップトップを選んで購入した。
「なんで、この大きいのを選ばないの?」
エルダは徐に、ディスプレイされている大型テレビを指さした。
「別に。コレは小さくても色々と便利だから?って言うか、このケーブルをそれに繋げば画面を大きくする事もできるしな。そんじゃ、コレも一緒に購入するか」
雄太はそう言うと、エルダが指さした60インチのテレビを購入すると店員へと伝えた。
普段からテレビは全く見ない雄太ではあるが、エルダや鬼達へと、色々とこの世界の知識や常識を教える為にテレビを購入する事にした。
「このデカいのはオマエ達で好きに使っていいぞ。喧嘩しないで仲良く使うんだぞ。使い方は部屋に届いたら教えてやる」
「わかったー!」
「「はっ!」」
エルダは、リビング用に買った60インチのテレビとは別に、自分の部屋用にと32インチのテレビとゲーム機、それと一緒に大量のソフトと一人用の冷蔵庫を買った。
根っからの自宅警備員は、違う世界に来て、本格的に自宅 (自分の部屋のみ) を警備しだそうとしていたので、雄太はエルダにだけはPCは絶対に買い与えないと固く決心した。
キッチン用の大型冷蔵庫やレンジ、洗濯機も一緒に購入して電化製品の店舗を後にし、次に家具を販売している店舗へと足を向ける。
スキルズは、展示されているベッドへと寝そべり、寝心地を試しており、各自で好きな寝具を選ばせた。
しかし、大鬼のサイズに合うベッドがなく、大鬼は仕方なく数枚の布団を利用する事になった。
「って言うか、オマエラって眠らなくても大丈夫だろうが・・・むしろ、俺を警護する為にずっと起きてろよ・・・」
リビング用にソファーとローテブル、ダイニングキッチン用にダイニングテーブルと人数分の椅子を購入し、あらかたの大きい買い物を終えた雄太達は、後は帰るのみとなって原チャを駐めてある駐車場へと向かった。
しかし、ここにきて、もっと外の世界を見たいと言いだしたエルダは、何処ぞの子供の様に地べたで手足をバタバタと動かして寝転がりながら泣きじゃくって我儘を言い、世間の痛々しい目線によって殺されかけた雄太は、しかたなく皆んなで電車を使って帰る事になった。
「いいか。絶対はしゃぐなよ。さっきのこのバカみたいに絶対にコレ以上目立つなよ。帰るまでにうるさくしたヤツは、明日の飯は抜きだからな」
「「「サー!イエッサー!」」」
と言った具合に、スキルズの胃袋をガッツリと握っている雄太は、駐車場に停めてある原チャをこっそりと、パパっと収納へと仕舞い込み、商業施設内の地下にある駅から電車へと乗る為に、再度、駐車場から商業施設内を抜けて地下の駅へと向かった。
駅へと着いたのだが、スキルズはダイバーカードがない為、雄太が券売機で自分の分も一緒に切符を購入してスキルズへと手渡した。
実際、雄太が電車に乗る時は、ダンジョンのゲートの様に、ダイバーカードをアクティベートさせて改札へと翳せすだけで簡単に改札を潜れるのであったが、スキルズの初めての電車という事で、雄太は券売機へとダイバーカードを翳して人数分の切符を購入した。
「ユータ。何コレ?」
「コレは切符って言って、コレから乗る電車って乗り物に乗る為に必要なものだ。絶対に無くすなよ」
「「はっ!」」
「わかった〜」
切符を手にしたスキルズは、物珍しそうに切符の面や裏を見回したり、指でスリスリとさせながら肌触りを確かめたりしている。
「そんじゃ、行くぞ。切符は、ココに入れて、ココから出てくるからそれを取る。分かったな?取り忘れたりするなよ?」
雄太はスキルズへと改札の潜り方を実演しながらお手本を見せた。
「ここに入れて、取る!」
「ここに入れて・・・」
「・・・取ると」
スキルズは初めての改札に戸惑いながらも問題なく改札を潜り抜けることができた。
(っていうか、鈴木さんが言っていた通り、最寄り駅から新しい部屋までは結構歩くな・・・まぁ、駅に着いたらそこからは原チャで・・・いや、今日は駅から近い今の部屋に帰るか。どうせ荷物は明日の夕方に新しい部屋に届くから、大家さんに引越しの挨拶をした後にでも行けばいいか)
雄太は、電車に揺られながら、今日帰るところと新しい部屋の引越しについて考えていたのだが、スキルズは、まるで子供の様にベッタリと電車の窓に張り付いており、目をキラキラさせながら、車内から見える流れる景色を食いつく様に眺めていた。
車内では、偶にエルダと鬼人へと近づこうとする者もいたが、一緒にいる大鬼にビビっているのか、雄太達の周りだけ気持ちいいくらいに空いていた。
因みに、大鬼は電車の天井に頭が付いてしまい、頭を下げて少しかがむ様な形で電車に乗っていた。
「オマエら。後4駅で降りるから、ちゃんと覚えておけよ」
「はーい」
「「了解です」」
雄太は、座席に座りながら久しぶりの電車に揺られ、少し気持ち良くなってウトウトし始めたのであったが、急に電車の照明を遮るかの様に顔へと射した影によって、雄太は眠くなって閉じかけていた目をゆっくりと開いた。
眠そうな顔の雄太の前には、赤、黒、白と、このクソ暑い真夏にもかかわらず、フードを被った3人組が雄太を囲みながら覗き込む様に立っており、雄太は、この3人組の不愉快な行動によって余儀なく至福の一時から現実へと戻って来る事になってしまった。
(なんだこいつら?いくら夜とは言え、このクソ暑い真夏日にフードとか・・・どんだけ厨二ってんだよ・・・痛すぎんだろ・・・しかも、ワキんトコが汗で濡れて変色してんぞ。ロールする為に色々と頑張ってんだな・・・このクソ暑い中、そこまでして自分設定を作ってロールして楽しいのかよ。まぁ、本人は楽しいんだろうな。数年後にはコレを思い出す度に、枕へと顔を埋め、悶える事になるとも知らずにな)
急に目の前に現れた3人組により、至福の一時を邪魔された雄太は、心の中で厨二っている3人組を盛大にディスり、痛いモノを見る様な哀れんだ目で見つめていた。
だが、小声でボソっとフードの一人が発した言葉に対し、雄太は素早くこの痛い3人組へと警戒を敷いた。
「オマエ、橘花 雄太だな」
(なんで俺の名前を・・・)
「大人しく指示に従って、オマエラ全員、次の駅で降りろ。こんな公共の場所で暴れる様な事はするなよ」
フードを被った内の一人が、低い声で雄太へと喋りかけながら乗客を見るかの様に車内を見渡し、残りの二人は、掌から他の乗客には見えない様にチラッと小さな炎をチロチロ出していた。
『主ぃっ!?』
『我らがっ!』
不気味なフードを被った3人組に囲まれている雄太を見た大鬼と鬼人は、咄嗟に雄太へと意思疎通を使って話かけ、今にも動き出そうとしていたが、雄太は鬼達へと視線を向けて動きを制した。
『問題ない。手を出すな。これから探そうとしていたモノが、ご親切に向こうからコッチにやって来てくれた。オマエ達は静かに俺についてこい』
『『はっ』』
雄太は嬉しそうな顔をしながら鬼達へと意思疎通を返し、未だにアホみたく電車の窓に張り付いて外の景色を見ているエルダへと声をかけた。
「おい。次で降りるぞ」
「え?後4駅ってユータが言ってたじゃん?なんで?」
エルダは雄太の言葉に対して疑問を浮かべ、頭をコテンと横に倒して「なんで?」と質問してきた。
「アイス買いに行くぞ」
雄太は口角を吊り上げ、まるで、スライムと戦っている時と同じ様に、絶対的な捕食者の様な薄い笑みを浮かべた。
「あぁ。アイスね。分かったわ」
雄太の目が笑っていない笑みを見たエルダは、何かを悟ったのか、素直に雄太の言葉に頷いた。
フードの3人組に言われた通り、雄太達は次の駅で降り、3人組と一緒に駅を出て行った。
外はすでに暗くなっており、雄太は今夜の晩ご飯の事を考えながら赤フードの後をついて行った。
フードの3人組は、雄太達の後ろに2人、前に1人と、雄太達を囲む様にして歩いており、駅から少し歩いたところにあったビルの建設現場の中へと入って行った。
前を歩いている赤フードは、”危険!立ち入り禁止”と言う看板がかけらた封鎖されているトタンの壁をこじ開け、隙間から中へと入って行き、色々と資材が置かれている建設現場の中を通り抜け、ちょうど造りかけの建物の中、広々として薄暗い建設現場の中央へと着いたところで、雄太達の前を歩いていた赤フードは、雄太達へと反転して身体を向けて喋り始めた。
「橘花 雄太。ダンジョンを踏破した際に取ってきたモノをよこせ」
「ハァ?」
いきなりの確信をついてきた赤フードの言葉に対し、雄太は平坦な口調でシラをきった。
「アレがあそこにあったという事は、情報により判っている。このまま大人しくアレを差し出せば、命までは取らない」
パチンっ
喋り終えると同時に、赤フードが何かの合図をする様に右手の指を弾くと、造りかけの建設現場の上の鉄骨や物陰から、いきなり5人のフードを被った者達が姿を表した。
「さぁ。どうする?素直にアレを差し出すか、それとも・・・ここで死ぬか?」
合計、8人のフード達によって殺気を向けられながら囲まれた雄太達は、まるで、草原に吹くそよ風を受けているかの様に、向けられた殺気を気にも留めないと言った感じで受け流し、悠然とした態度でフード達の位置を1人ずつゆっくりと確認していた。
「そうだなぁ・・・俺も痛いのは嫌だから、平和的にこう言うのはどうだ?オマエラが知っている情報と、その情報源についてを俺に親切に詳しく話すってのは?」
雄太は、ここにいる8人のフード達を捕食の対象とし、まるで、罠にかかった獲物を捕捉した捕食者の様な目つきをしながら、口角を三日月の様に吊り上げてヌルリとした獰猛な笑みを浮かべた。




