78. パブロフの犬
2話めです。
ギルドへの出頭要請を終えた雄太は、別棟の商業施設へと再度足を運んでいた。
そして、誰もいない場所で擬装を発現し、エルダ、鬼人、大鬼を発現させた。
「ついでだからここで飯食ってくぞ。って言うか、俺が言うのもなんだが・・・なんなんだ、オマエらのその格好は?」
雄太は、発現されたエルダ達の格好を見て眉間にシワを寄せて難しい表情をした。
「主が、あの、”ざっしぃ“と言うものを見て服を再現しろと言うからのぉ」
「ああ」
「ねぇねぇ?どう?どうどうどう?可愛い??わたし可愛い?」
雄太は額に手を当てて俯きながらため息を吐いた。
大鬼は、赤のジャージのセットアップで、上は白のタンクトップ一枚だけを着ており、ジャージの上着は腰に巻き、足には雪駄を履き、健康的な小麦色な肌と2mを超えている厳ついガタイ、角張っている顔と短く刈りそろえられたボサボサのベリーショートがあいまって、歩くだけで人々を恐怖に落としいれると言う未来が確実に見て取れた。
「因みに、お前はなんでソレを選んだんだ?」
「強そぉだからかのぉ?」
「・・・・・・」
大鬼の頭の悪そうな発言に対し、雄太は無言で顔を引き攣らせた。
「そんで、鬼人。おまえは?」
鬼人は、胸元をガバッと開けた白いシャツを1枚着て袖をロールアップし、開いたシャツの胸元にはサングラスを引っ掛け、首には銀のペンダント、下は黒い細身のチノパンで、足元はラバーソールな白のジョー○コック○を履いていた。
しかも、髪型はミディアムな長さをオールバックにし、額の右側からは、チョロっと細い髪の毛の束がユラユラと揺れて垂れ下がっていた。
(なんでこんなに色気出してるんだコイツ!?)
しかも、肌が病的な白さになっており、どこからどう見ても太陽の下に出るのを好まない、変な信念を持ったバンドマンか、ちょい悪なキャラを作っている様な痛いホストである。
「我と体型が似てそうな者がこう言う格好をしていたもので・・・」
雄太は下を向いて頭を振った。
「ねぇねぇ。ユータ。わたしには?わたしには何かないの?」
いや、エルダさんの格好は普通ですよ。
普通に薄い黄色のシャツワンピと、ブリーチされた薄い青のジーンズをくるぶし上までロールアップし、白のパンプスと言う感じで、いたって普通ですよ。
だが、サラサラした胸まで伸びている銀髪と青い目、それと、整いすぎた顔が如何せんキレ可愛すぎて、どこぞのモデルか有名人にしか見えないんですよね、これが・・・
この個性的な集団の中に居る、どこぞのモブの様な、ふっっつぅぅな顔の、ふっっつぅぅな格好の、ふっっつぅぅに何処にでもいそうな、ふっっつぅぅな俺・・・
「オマエラ。なんの特徴もない俺への公開処刑ですか?」
「「「??」」」
俺のスキルズは、主人である俺の気持ちなんて何も分かってなかった・・・
グスっ・・・
「クソっ!こうなりゃヤケ食いだぁぁぁ!オマエラァ!飯食いに行くぞぉぉぉ!!今日は好きなだけ食いまくれぇぇ!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
と言う事で変な方向へとテンションが吹っ切れた俺と、腹を空かしまくっている獰猛なスキルズは、商業施設内にある、某有名店のランチビュッフェへと向けて足を向けた。
スキルズはよほど商業施設内や人間の生活が珍しかったのか、キョロキョロとひっきりなしに周りを見ていた。
しかも、エルダと鬼人の容姿のせいで、若い女性や男性が頻繁に近寄って来ては声をけたり、写真を撮ったりと言った具合にかなりモテモテであったのだが、後ろにいる大鬼の存在に気づいた瞬間に逃げていくと言う事を繰り返していた。
え?
俺?
特に何もないよ?
ただ歩いていただけですよ?
それが何か?
アレ?
商業施設内なのに雨が・・・
きっと、今夜の枕は、湿ってヒンヤリとして気持ちいいんだろうなぁ・・・
そんなこんなで商業施設内をウロウロと見て周りながら、雄太達はお目当てのビュッフェのレストランへと到着した。
「いらっしゃいませぇ〜。何名様でしょうーーヒぃぃぃ!?」
店内へと入って来た雄太達を席へと案内しようとした店員は、雄太の後ろに居る厳つい大鬼を見上げて悲鳴をあげた。
「・・・すいません・・・4名です・・・」
雄太は申し訳なさそうに指を4本出し、口を開けて目を見開きながら大鬼に驚愕している店員へと人数を告げた。
「か、か、か、か、畏まりぃまぁしたはぁぁ」
店員さん・・・
声、裏返ってますよ?
脚もガクガクしてますよ?
大丈夫ですか?
なんとか店員の案内によって席へと着いた雄太達は、テーブルの上で顔を付き合わせ、周りに聞かれない様に小声でヒソヒソと話しはじめた。
「ぁぁん!ユータぁぁ!わたし、もうダメぇぇぇ!我慢できないぃぃぃ!今すぐアレを、わたしの口の中に思いっきり突っ込んでぇぇぇ!」
「主ぃ!ワシも我慢できそうもないぞ!もうイッテもよいかぁ!」
「主。我も、もう無理です!どうかご慈悲を!我をイカセテください!」
「・・・・・・」
スキルズの声がこうして小声でなければ、雄太は完膚無きまでに世間の目に殺されていた事であろう。
しかも、スキルズは、これでもかと胃袋をくすぐるビュッフェ内の食べ物の匂いによって、犬の「待て!」の時の様に涎をダラダラと垂らしまくっていた。
「おまえら・・・先ずは、その涎をなんとかしろ・・・ここは2時間、食べ放題だから好きなのを皿に取って、ここに戻って来て食べろ。分かったな?絶対にその場で食べるんじゃないぞ。周りの人を見てお手本にして、ちゃんとマナーと順番を守って食べ物を取るんだぞ。分かったな?マナーを守れなかったら、ここへは2度と来ないからな」
「「「はっ!」」」
「本当に分かったな?」
「「「はっ!」」」
「絶対だぞ?」
「「「はっ!」」」
雄太によって胃袋をガッシリと掴まれたスキルズは、パブロフの犬よろしく、雄太へと忠実になっていた。
「それじゃ、行け」
「「「はっ!!」」」
サッ!
「・・・・・・」
スキルズは、どこぞの里の忍びかと思える程、残像すらも残さずに、さっきまで座っていた椅子から瞬時にその姿を消し去り、光の速度で食べ物へと向かって走り去って行った。
「・・・大丈夫だよな・・・」
テーブルで1人になった雄太は、取り敢えず、と言った感じでドリンクバーへと向かってドリンクを取りに行った。
ドリンクを取りに行ってテーブルへと帰って来た雄太は、皿にこれでもかといった具合に食べ物を大盛りで乗せ、広いテーブルを皿で占領しながら食べ物を口へと詰め込んでいるスキルズの姿にドン引きした。
「お、オマエら・・・ちゃんと味わって食べろよ?そんなに一気に取らなくても、まだまだ時間も食べ物もあるからな・・・」
「「「ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!!」」」
「無視かよっ!?」
スキルズは、一応は周りを見て真似しているのか、右手にスプーン、左手にフォークを持って食べ物を食べていたが、スキルズが手にしているスプーンとフォークは、まるで、手の一部、手の延長、だと言わんばかりに手と同じ様な異様な動き方をしていた。
「まぁ・・・素手で食べてないだけマシか?・・・」
雄太はスキルズの邪魔をしない様に、ひっそりと自分の分の食べ物を取りに行った。
雄太が1回食べ物を取りに行っている間に、スキルズは大量にあった食べ物を平らげ、再度食べ物を取りに動き出していた。
(ビュッフェにして良かったわ・・・これが普通のレストランとかだったら、金がいくらあっても足りなかったぞ・・・って言うか、次からどうすればいいんだよコレ・・・)
雄太はスキルズの底無しな食いっぷりについて、今後の食事情について真剣に考える事にした。
ここのビュッフェは、一人につき2万という事もあり、和食やイタリアン、メキシカンや中華、フレンチやアジアンと言った色々な種類の食べ物があり、少食な雄太でもなかなかに楽しめる様な品揃えだった。
そんな楽しいひと時も、そろそろ終わりを迎えようとしたところで、雄太はいまだにガツガツと皿にてんこ盛りに食べ物を乗せて食べているスキルズへと声をかけた。
「後、15分くらいで2時間だからそろそろ最後だな」
「「「な に !?」」」
「え?」
雄太がそろそろ終わりだという事をスキルズへと告げると、スキルズは口が食べ物で埋まって喋る事ができない代わりに、まるで咆哮をあげるかの様に目を大きく見開いて急激に食べる速度をアップさせた。
食べる速度を上げたスキルズは、手元にあった大量の食べ物を瞬時に完食し、光の速度を超える速さで新たな食べ物を大量に取って戻って来た。
「え?」
そんな一瞬のスキルズの異常な行動に対し、雄太はドン引きしながらも締めのジェラートを食べていた。
因みに、エルダの締めは大量のケーキであり、大鬼は大量の肉料理、鬼人は寿司を食べていた。
「お?時間だな。ほら。行くぞ、オマエら。また今度連れて来てやるから、ちゃんと大人しくしておくんだぞ」
「「「サー、イエッサー!」」」
スキルズは食べ放題のビュッフェに大層満足した様子であり、目をキラキラとさせながら満面の笑顔でもってキビキビと雄太へと返答した。
制限時間と共に雄太達が店から出ていく時、厨房の方からは多くの啜り泣く様な声が聞こえていた。
(美味しかったし、週一くらいで来るかな)
次の投稿は月曜日となります。
引き続きお楽しみいただければです。




