72. 地上へ
今回の件でほぼスライムダンジョンのマスター?になった、スライムを捕食する側の筈の雄太は、アリアの要望通り、異世界の進行を食い止める為にコア ー門ー を破壊する事にした。
「ハぁ〜・・・って言うか、こうなった以上、特殊なコアを破壊しないといけないと言うのは分かったが、そもそもアレってどうやって破壊するんだ?」
雄太はため息をつきながらコアを指差してアリアへと尋ねた。
『コアを台座から手に取って頂き、モンスターを倒す様に何かしらのスキルや魔法で攻撃をして頂ければ簡単に壊す事が可能です』
「ダンジョンで一番重要な物の割には、意外とヤワな作りなんだな・・・一番大事な物は、それこそ厳重に、壊せない様にガチガチにすりゃいいのに・・・」
雄太のもっともな意見に対してアリアは笑いながら答えた。
『フフフフフフ。そうですね。それこそ最高の硬度を持たせるのが常識ですよね。フフフフ。人体で言いますとコアは心臓や脳の箇所にあたりますので、此処まで人間に入られる事をあまり考えてないのかもしれないですね』
「って事はダンジョンも生きてるって事だよな?あ、さっきエルダがコアを破壊すればダンジョンが崩壊するって言っていたな?って事は、ダンジョン内のモンスター達は人間っていう病原菌を退治する抗体って訳か?ますますダンジョンがなんなのか分からなくなってきたな・・・」
『フフフ。そうですね。私の世界でも、ダンジョンについては諸説あります。世界が生み出した生物を調整するシステムや、創造神が与えた試練、生物の母、等と言うものです。ダンジョンを踏破し、コアを壊しても、また別の場所で新たなダンジョンが発生しますので、私の世界ではダンジョンのコアは壊さずに共生すると言う道を選んでおりました』
「ふぅ〜ん。そっちの世界でも色々とダンジョンについて考えられてるんだなぁ。まぁ、ダンジョンを潰しまくっても他の場所に急に現れるんだったら、地図も常に変わるし、地域の統制とかもままならなくなるからな・・・コアは壊さずにダンジョンと共生した方が楽なのかもな。取れる素材やスキルとかの恩恵も色々とあるしな」
雄太はアリアと話しながら鬼達の間を通り抜けて台座へと近づき、コアを手に取る為に右手を伸ばした。
「それで、後はこれを攻撃すれば良いんだよな? ーウわっ!?」
雄太が徐にコアを掴み取った瞬間、掌の上にあるコアと雄太の左手にある指輪が、まるで共鳴するかの様にゆっくりと明滅しだした。
「な、なんだコレ!?一体どうなってるんだ!?」
「ユータっ!?」
「主ぃ!?」
「主っ!?」
『こ、コアが!?』
突然の出来事に、雄太を含めた一同は驚きを隠せず、ただただ見ている事しかできなかった。
コアは段々と速く、激しく明滅し、一際眩い光を放った後、まるで雄太の指輪へと吸い込まれる様に吸収され、雄太の掌の上からその姿を消した。
「なんだったんだ一体!?コアが指輪に入っていったぞ!?」
雄太は慌てて自身の左手の指に嵌っている擬装の指輪を確認すると、スライムグラトニーのコアが嵌っている箇所と正反対の箇所に透明な石の様なものが出現していた。
「ユータ!大丈夫!?」
「主ぃ!無事か!?」
「主!お怪我は!?」
雄太が驚きながら指を眺めていると、エルダと鬼達が慌てて駆け寄って来た。
「あぁ、問題はない、かな・・・シス。一体どうなったんだ?ダンジョンコアもコアとして擬装に吸収されたのか?」
『ノー。マスター。マスターのスキルへは何も変化が見られません。ご確認をどうぞ』
雄太のディスプレイへとシスが表示させたスキルボードが現れた。
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橘花 雄太(25)
ユニークスキル:
【擬装】 (アクティブ)
-【収納】 (アクティブ)
-【超越】 (パッシブ)
-【並列思考】 (パッシブ)
-【スライムスーツ】 (アクティブ) LV 75
<スライムグラトニーベース> リミット解除
・暴食 (アクティブ) : ユニーク NEW
・身体強化 (パッシブ)
・同属察知 (パッシブ)
・同属捕食 (パッシブ)
・スライムナイト:硬化変形 (パッシブ) 衝撃吸収 (パッシブ)
・スライムソルジャー:斬撃変形 (パッシブ)
・スライムメイジ:膨張変形 (アクティブ)
・スライムスナイプ:狙撃変形 (アクティブ)
・スライムジェネラル:統率変形 (パッシブ)
・アーススライム:アースエンチャント (パッシブ) 土属性耐性 (パッシブ) 質量追加 (アクティブ)
・エルダースライム:意思疎通 (パッシブ) 造形変形 (アクティブ)
・アシッドスライム : 溶解 (アクティブ) 溶解耐性 (パッシブ)
・ポイズンスライム : 毒爪 (アクティブ) 毒耐性 (パッシブ)
・ウォータースライム : ウォーターエンチャント (パッシブ) 水属性耐性 (パッシブ) 槍棘 (アクティブ) 分離 (アクティブ)
・ファイアスライム : 燃焼耐性 (パッシブ)
・ラヴァスライム : 熱耐性 (パッシブ)
・ストーンスライム : 石化耐性 (パッシブ)
・フレアスライム : フレアエンチャント (パッシブ) 火属性耐性 (パッシブ) 爆炎 (アクティブ) 自爆 (アクティブ)
・バルーンスライム : 浮遊 (アクティブ)
・エアロスライム : エアロエンチャント (パッシブ) 風属性耐性 (パッシブ) 偽核作成 (パッシブ) 一点突破 (アクティブ)
・スライムグラトニー (改) : 全状態異常耐性 (パッシブ)
・チェインスライム : NEW
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「なんか、さっき鎖を消滅させた時にスキルが統合されたって声が聞こえたけど、この【暴食】って言うのがそうか?って言うか、あの鎖ってスライムだったのかよ!?一体どうなっているんだ異世界の技術は!?」
雄太は新しいスキルの箇所をタップして概要をポップアップさせた。
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・暴食 (アクティブ) : ユニーク
無機物捕食+現象捕食+膨張転換の結合スキル。
効果は元のスキルと一緒。
・縛鎖 (アクティブ)
縛りつけた者の意識を封印し、身体の自由を奪う
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『マスター。【暴食】スキルは、スライムグラトニーベーススライムスーツのユニークスキルとなっております。これは、本来のスライムグラトニーのスキルとして発現されていると思われます』
「マジかよ!?って事は、俺のスーツは本物のスライムグラトニーと同じって事かよ!?っていうか、天然のスライムグラトニーを最初に吸収していたのに、なんで今更スキルが完全になったんだ?」
『おそらく、マスターが吸収したスライムグラトニーのレベルが低く、スキルが不完全だったからだと思われます。今回のスライムグラトニーとの戦いで、スキルの構成が揃い、同時にスキルを使用した事で【超越】によってオリジナルのスキルとして結合し、統合されたと思われます』
雄太は分かった様な、分からない様な顔をしながらシスの説明を受けた。
「それよりも、ダンジョンコアについては、シスでも全く分からないんだな?」
『イエス。申し訳ございませんが私で解析、トレースする事ができませんでした』
「そうか・・・」
雄太は、スキルボードから自身の指に嵌っている指輪へと視線を移した。
『あ、貴方のそれは一体・・・』
アリアはコアが雄太のリングへと吸収された出来事に対し、目を見開いて驚愕しており、雄太へと指輪について質問をした。
「あぁ、コレか?コレは俺もよくは知らないけど・・・まぁ、俺のスキルだ。あ、正確にはユニークスキルなんだけどな。モンスターのコアを吸収して、そのモンスターの特徴の装備を発現させられるらしい。最近、このスキルが発現して、未だにこのダンジョンのスライムしか倒した事がないから、今はスライムの装備だけだな」
『なんなんですか、そのスキル!?ミディアでもそんなスキルやユニークスキルは一度も聞いた事がありませんよ!貴方は一体何者なんですか!?』
アリアは雄太のスキルの概要を聞いて更に驚愕した。
「最近ダイバーになった一般人だ。ダイバーってのはアリアさんの世界で言う冒険者?ってヤツか?」
『異世界のスキルは、ミディアの基準で考えない方が良さそうですね・・・』
雄太は、おばちゃん達と同じく、何故かアリアにも規格外認定された。
「それはそうと、コレってどうすりゃいいんだ俺?」
雄太は再度自分の指に嵌っている指輪を眺めながらアリアへと質問した。
『お見受けする限り、コアが封印?されている様にも見れますので、多分、このままで大丈夫だと思います。取り敢えず貴方には特段、害はなさそうですので、しばらく様子を見ておいてください』
「よく分からんが、取り敢えず分かった。・・・それと、俺は貴方じゃなくて橘花 雄太って名前だ。コイツと同じ様に雄太とでもなんとでも呼んでくれ。これからもコイツがちょくちょく遊びに来ると思うから、そん時は宜しくな」
『分かりました。ユータ様。今後とも宜しくお願い致します』
アリアはエルダをみて微笑んだ後に再度雄太へと視線を移して頭を下げた。
「そんじゃ、面倒だが帰るぞオマエらぁ〜」
「は〜い」
「「御意!」」
雄太は帰り道の事を考えて少し気分が重くなった。
『ユータ様。お帰りでしたら私が地上までお送り致します。そちらにある台座へと手を乗せて頂ければ、ダンジョンの入り口へと転移でお送りさせて頂きますので』
「おぉっ!?マジで!一気に入り口まで行けるの!?スッゲーな!?ありがとう!」
雄太がアリアの転移でダンジョンの入り口まで送ってくれると言う言葉に喜んでいると、エルダが鼻息を荒くしながら雄太へと声をかけた。
「どうよ!ユータっ!地上へとパパッと帰れるわよ!パパッとね!と、言う事で、約束ちゃんと守ってよ!約束守らないとシスをバグらせるわよ!」
エルダは勝ち誇ったかの様に胸を張りながら左手を腰へと当てて、右手で雄太を指差してドヤ顔をしていた。
「チっ」
「何よその舌打ちは!?本気でシスをバグらせるわよ!」
「いや、それだけはマジで勘弁してくれ。オマエ以上に優秀すぎて、それだけはマジでお願いします。バグるなら勝手に自分だけでバグってくれ」
「きぃぃぃぃぃぃぃぃ!何よその言い方!本気でシスをバグらせてやるんだから!」
「って言うか、シスがバグって俺が死んだら、オマエももれなく死ぬぞ。それでも良いなら、どうぞご自由にっ!」
「やだもぉ〜ユータさんったらぁ〜。冗談ですよ、じょ う だ ん〜。そうですよねぇ〜。シスは完璧の方が良いですよねぇ〜。今後もユータさんのお役に立てる様、精進して参りますので〜。どうかお身体にだけはお気を付けてくださいませぇ〜」
雄太とエルダのアホみたいな茶番を見ていたアリアは、目尻へと涙を溜めながらクスクスと楽しそうに笑っていた。
『フフフフフフ。お二人とも仲が宜しいんですね』
「「よくない (です)!」」
『あらあら。フフフ』
声がハモった雄太とエルダをみたアリアは、目尻の涙を拭う仕草をしながら更に楽しそうに笑っていた。
「それじゃ、そろそろ行きますんで。って事で、オマエら、発現を解除するぞぉ〜」
「しょうがないわね」
「「御意!」」
「解除!」
雄太が発現を解除すると、エルダ、鬼人、大鬼は身体が透ける様にして消えていった。
「アリアさん。それではお願いします」
雄太はコアがあった台座へと手を乗せた。
『はい。それではまた。お待ちしております。ユータ様』
アリアが祈る様に胸の前で両手を組むと、雄太が手を乗せている台座が白く光り輝き、光は雄太の身体へと螺旋を描きながらグルグルと纏わりついていった。
「そんじゃ、またっ!」
雄太の身体が光に包まれたと同時に、雄太はアリアの前、最下層からその姿を消した。
引き続きお楽しみいただければです!




