65. VSスライムグラトニー 2
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暗い・・・
息苦しい・・・
ここはどこだ・・・
無性に喉が渇く・・・
俺は何をしているんだ・・・
何かやるべき事があった様な・・・
意識を手放した雄太は、ユラユラと暗く深い闇の中を漂っていた。
まるで深く暗い海の底の様であり、コポコポと幾つもの気泡が雄太の身体から現れては消えを繰り返し、何時間も何日も長い事ここにいる様な気がしている。
コポコポと聞こえる気泡の音が心地よくなった雄太は、ゆっくりと目を瞑ってだんだんと考えるのをやめて思考を手放そうとした。
やがて雄太の目が完全に閉じられようとした瞬間、真っ黒な空間へと1点の光が現れ、眩い光は雄太の前方から背後へとかけて黒から白へと空間の色を反転させ、雄太の身体は眩い光によって包まれた。
雄太は急に輝き出した光を遮る様に、眼前へと両手を掲げて光の先を見ようとするも光が強すぎて、光によって赤く透けて輝く掌から先は何も見る事ができない。
眩しいな・・・
なんだコレは・・・
何も思い出せない・・・
光はだんだんと収まっていき、雄太はただただ真っ白な空間に一人でポツンと佇んでいた。
雄太は光が収まった真っ白な空間をキョロキョロと見回していると、どこから共なく声が聞こえた。
『やぁ』
誰だお前?
『酷いなぁ。いきなりお前はないんじゃないかなぁ』
雄太はいきなり聞こえてきた声に対し怪訝な態度で答えた。
『そんなに警戒しなくてもいいよ』
一体なんなんだコレは?
『アハハハハハ。今度はコレ扱いか。キミも大概だねぇ〜。フフフフフ』
急に聞こえた声の主は中性的な声をしており、男とも女とも、大人とも子供ともつかない口調で雄太へと話し続ける。
『それはそうと、キミ、かなり危なかったんだよ』
なんの事だ?
『キミ、何も覚えてないの』
何をだ?
『あちゃぁ〜。もしかして遅かったかなぁ〜』
遅い?
『あ、こっちの事だから気にしないでいいよ。フフフ』
何がそんなに可笑しいんだ?
『キミが可笑しいのさ』
何?
『ごめんごめん。悪気はないんだよ。いきなりとは言え、酷くやられたねぇ〜』
何を言っているんだ?
『うわぁ〜。覚えてないの?コレはもう無理っぽいかなぁ〜。色々と期待していたんだけどなぁ〜』
期待? 何が無理なんだ?
『それは、キミ自身で思い出さなきゃかな』
何を思い出すんだ?
『キミが今どこに居て、何をやっているのかって事をさ』
どこに居て何を?
雄太は白い空間を再度見渡し、自身の両手を広げて見つめる。
『とりあえずは大丈夫そうだからボクはそろそろ行くね』
大丈夫? 何処に行くんだ?
『遠くて近いところかな?』
なんだそれ?
『キミならその内、ボクと会えるかもしれないよ』
会う?
『そそ。今回は■■■■■の最後のお願いって事でキミを助けたけど、次はないから気をつけるんだよ』
次?願い?
『ボクはもう行くから、キミは何かを思い出したらあの扉を開けて出ていくといいよ』
扉?
まるで雄太の意識の隙をつくかの様に、真っ白な空間の中へと、酷くボロボロで今にも壊れそうな隙間だらけの木でできた扉が雄太の前へと現れていた。
ボロいな?
『それは今のキミと同じって事かな?』
なんだそれ?
『それじゃ、また会える時を楽しみにしているよ。じゃぁ〜ね〜』
おい。待てよ。
雄太は、急に聞こえて来た声が途絶えた事に対して不思議に思いながらも、眼前に現れた木でできたボロボロの扉の前へと腰を降した。
・・・・・・
なんだったんだ一体?
俺は何を思い出せばいいんだ・・・
声に思い出せと言われた雄太は、何がなんだか分からないと言った表情で、とりあえず何かを思い出してみようと何かを考えながら目の前にあるボロボロの扉を見つめた。
雄太は何かを思い出そうとするが、思考にはモヤがかかっており、まるで全てがステンドグラスやモザイクタイルの様に曖昧なツギハギの様なイメージでしか思い出せない。
雄太は扉を見つめて永遠にも思える様な時間を費やし、やがて何かを思い出すと言う行為から扉を見つめると言う行為へと目的が変わってしまっていた。
本当にボロい扉だな・・・
扉の向こう側を隠すのが扉だろ?
雄太は意識を目の前にある扉へと移した事で、曖昧に見えていた扉の詳細な造りや細部を見る事ができた。
あの声はこの扉は今の俺と同じって言っていたよな?
雄太の頭の中ではあの声が喋っていた事だけは鮮明に思い出せており、まるで声が耳に貼り付いているのではないかと思える程に声の質感や口調迄もがリアルに再現されている。
雄太は更に長い時間をかけて扉を見つめ続けていると、何故か今度はボロい扉の隙間へと意識を持っていかれた。
雄太がジーっと目を凝らして扉の隙間を見ていると、まるでテレビの砂嵐へとたまに映る様な感じでチラチラと動く何かが霞んで見えた。
雄太の思考は扉を見ると言う行為から、いつの間にか扉の隙間で動く何かを見ると言う行為へと移り変わっており、動く何かの姿を捉える様に扉にある沢山の隙間へと何度も何度も視線を行ったり来たりさせた。
雄太は扉の隙間を見る事に更に多くの時間を費やし、ある時を境に隙間に映る何かの姿を朧げながらも捉える事ができ始めた。
何か見えるぞ・・・
なんなんだアレは・・・
木の扉のボロボロになっている隙間に映る何かはだんだんと姿や形がはっきりと見えだし、雄太はソレから目が離せなくなってしまった。
ドクン・・・
なんなんだコレは・・・
ボロボロのドアの隙間から見えた光景に、雄太は何故か胸がザワついた。
ある箇所の隙間では、ボロボロの姿になりながらも周りへと必死に声をかけている銀髪の女性が見えた。
ドクン・・・
ボロボロのドアの隙間から見えた光景に、雄太の薄暗く曇っていた眼へと広がる様に淡い光が灯りだした。
違う箇所には右腕を失いながらも身体を張って何かを必死に守っている大男が見えた。
ドクン・・・
ボロボロのドアの隙間から見えた光景に、雄太は無意識の内に固く拳を握っていた。
別の箇所には左脚を失いながらも果敢に何かへと立ち向かう男が見えた。
ドクン・・・
ボロボロのドアの隙間から見えた光景に、雄太は何故か口角を吊り上げて笑っていた。
・・・アイツら・・・
ボロボロのドアの隙間から見えた光景に、雄太の口から自然と言葉が溢れでた。
ギィ〜〜・・・
雄太の口から言葉が紡がれた瞬間、今迄閉ざされていたボロボロのドアがひとりでに開いた。
「起きろぉぉぉぉぉ!『バカ』ユータぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
あぁ・・・
そう言えばそうだったな・・・
雄太は腰を上げて立ち上がり、扉へと向かってゆっくりと歩き出した。
そんなんだからオマエは救い様のない『バカ』なんだよ。




