57. 謎の群れの謎
2話目です。
引き続き楽しくお読みいただければです!
エルダは泣きながら過去を思い出している雄太へと聖母の様に優しくスタンピードについて説明した。
『スタンピードとはそう言う事なのよ。分かった?』
『あい。うっうっ。わがりまじだ。グスっ』
『スタンピードが起こるのは、自分より巨大な力を持っているモンスターによって、何かしらの原因でダンジョンの外へと追い立てられると起こるものなのよ。ここで言うと、4層のガーディアンが力を持ったモンスターだけど、基本、ガーディアンは自分の場所からは動かないし、他のモンスターとはあまり関わらないわね。ソレ以外だと、考えられるのは・・・スライムグラトニーね・・・』
エルダはスライムグラトニーが何かしらの動きをしようとしていると感じた。
『グスっ。スライムグラトニーってここの降りたところにいるんだろ?こんだけの距離があっても、スライムグラトニーが何かしようとしているとかって分かるものなのか?』
『強いモンスターは、膨大な魔力や気配を持っているわ。ソレを感じてるんだと思う。実際、わたしもスライムだった頃は、強いモンスターの魔力を感じると直ぐに逃げていたし。モンスターの世界は食物連鎖や弱肉強食って世界だからね。弱いモンスター程強いモンスターの気配を感じやすいの』
『オマエ、それって、自分で弱いって言っている様なもんだぞ?って言うか、オマエがいれば、モンスターの生態系についての論文書いて一儲けできそうだな』
『そうよ!わたしは弱いのよ!ずっと前から弱いって言い続けているじゃない!だからこうやって長く生きてこれたのよ!なのに、なのにユータは、そんな弱いわたしを戦わせようとするし・・・』
エルダがエルダースライムとして長く生きてこれたのは、弱すぎるが故に逃げ続けていた結果だった。
『強いモンスターの魔力を感じて逃げ続けたってのは分かったが、それじゃ、人間はどうなんだ?モンスターより、ましてやお前より強い人間は腐る程いた筈だろ?』
『その事なら問題なかったわ』
『は?』
雄太はモンスターより強い人間から逃れて今迄どうやってエルダが生き続けてきたのかがカナリ気になっており、当のエルダは問題なかったと言い切った。
『だって、ダンジョンにあった岩の割れ目や隙間にずっと隠れ続けて居たから!わたしは運良くベストプレイスを見つけたから問題なかったわ!しかも、わたしが見つけたベストプレイスはとても居心地が良すぎて、寧ろそこから出る気すらも起こらなかったわよ!隙間からはダンジョンの様子も見えたし、ダンジョンの内外何処にでも行けたし、わたしを見つけられずに通り過ぎて行く冒険者達は見ててホントに滑稽だったわ。フフフフフフフフ』
『・・・・・・』
エルダは雄太が思っていた以上に生粋の自宅警備員であった。
『そんで、そのオマエのベストプレイスは何処にあるんだ?』
『このダンジョンの至る所にあるわよ!ねぇ聞いて聞いて!わたしのベストプレイスはホント凄いのよ!ベストプレイスの隙間同士が繋がっていて、それがダンジョン中を駆け巡っていて、安全に何処にでも行けるのよ!しかもそこに居れば何故か魔力が漲ってくるのよねぇ。ホント凄いわよわたしのベストプレイスは!』
雄太はエルダの駄目具合と、ベストプレイス、ベストプレイスとウザく連呼されているエルダの不思議なベストプレイスについて興味が出てきた。
『オマエ、それってこのダンジョンの魔力の供給口的な何かなんじゃねぇのか?ビルや建物の通気口みたいな?』
『あ、そう言われればそうかも。最初は魔力の濃度がキツすぎて中に居るだけでも辛かったからベストプレイスの入り口付近に居たんだけど、長いこと住んでいる内に慣れてきたって言うかなんて言うか、魔力の濃度を気にせずに奥にも行ける様になっていたし、しかも、ベストプレイスに住みだしてから今迄に無かった感情とか疑問とかが出始めて、人間の言葉も分かる様になったかな?』
魔力と言う概念が分からない雄太から見ても、どうやらエルダは長年濃い魔力の中に浸かっていたせいか、濃い魔力に影響されて異常な進化をしている様に思えた。
『どうりで・・・そのせいで、こんなイカれたモンスターになったのか・・・』
『ちょっ!?イカれたって何よ!?わたしの何処がイカれてるって言うのよ!』
『全部だろ?』
『ぜぜぜ、全部ぅぅぅぅ!?即答した上にイカれイコールわたしって、どどど、どう言う事ぉぉぉ!?酷ーい!ユータ、ドイヒー!』
エルダは心外と言わんばかりに雄太へと猛抗議しだした。
『いや、そんな事よりも、結局あの群れは一体なんなんだ?そろそろ到着するぞ?』
雄太はエルダとの会話を躊躇なくバッサリと切り、肉眼で確認でき始めた空中に密集して漂って黒く影を作っているバルーンスライムの群れへと向かって行った。
雄太がバルーンスライムの近くまで来ると、餓鬼が少し離れたところからバルーンスライムの群れを監視する様にしながら雄太が来るのを待っていた。
「ありがとな」
雄太はバルーンスライムを監視していた餓鬼の頭を優しく撫で、餓鬼はまるで感情があるかの様に目を細めて頭を雄太へと擦り付けてきた。
『おい。エルダ。あの群れについて、ここから何か分かるか?』
『全く、さっぱり分からないわね・・・でも、あの湧き方は異常よ。アレはモンスターハウスの沸き方じゃないわね・・・』
『とりあえず、あの群れを吸収するぞ。あの群れのスライムの数は今までの階層の倍以上あんじゃねぇか?しかも丁度いい事に1箇所に集まってるときた。これはスーツのレベルを上げるのに丁度いい。そんじゃ、餓鬼共!集ぅ〜合ぉ〜!!』
雄太は意識の中?頭の中で空中庭園に散っている餓鬼達へと集合をかけた。
餓鬼達は数分の内に全て集まり、各自が吸収していたスライムは餓鬼達の羽へと還元され、見るからに速度が出そうな大きな羽を背中に発現させて雄太の下へと集まった。
「流石にそうなるわな・・・ここで身体を肥大化させても速度でねぇもんな・・・」
雄太は羽の部分を肥大化させた餓鬼達をみて1人で納得した。
「よし!お前達!あのスライムの群れへと突っ込んでこい!」
餓鬼達は雄太が指示を出すと雲霞の様なバルーンスライムの群れへと向かって突っ込んで行った。
『エルダ。還元率は俺に100%で変更してくれ。これ以上餓鬼達の羽がデカくなると逆に邪魔になりそうだしな』
『おっけぇ〜』
雄太の指示でバルーンスライムの群れへと突撃して行った餓鬼達は、まるで掃除機で床に散らばったビーズを吸い込むかの様に綺麗に片っ端からバルーンスライムを吸収して行った。
『スライムスーツノLVガ上ガリマシタ』
雄太のスーツは数分も経たない内にレベルが上がったが、ソレもまだまだバルーンスライムは半分も吸収されておらず、もう少しスーツのレベルが上がりそうな感じだった。
ー数十分後ー
『スライムスーツノLVガ上ガリマシタ』
ー更に数十分後ー
『スライムスーツノLVガ上ガリマシタ』
餓鬼によって全てのバルーンスライムを吸収した雄太は、トータルで3回もレベルが上がった。
「いやぁ〜。こんな入れ食い状態はなかなかの満足度だな!」
雄太はバルーンスライムの群れを吸収した結果に満足しホクホク顔で喜んでいた。
『エルダ。ここまで吸収したら今日はもう流石にスライムはいないだろ?残ってんのはガーディアンくらいなんじゃねぇか?』
『これだけの量を見た後は流石にそう思いたいよねぇ。でも、アレがどう言った理由で集まってたのかが気になるわね・・・モンスターハウスでもなかったし、ましてやスタンピードだったら上の階層を目指して押し寄せている筈だし・・・どうも引っかかるわね・・・』
エルダはスライムを大量に吸収しレベルが上がった事よりも、何故アレだけの群れが1箇所へと止まっていたのかの方が気になってしまい、自分の記憶を探る様に考え込んでしまった。
『まぁ、いいじゃねぇか。俺にとってはボーナスステージだったし、速いとこガーディアンを確認しに行くとしますか。って事でガーディアンは何処に居るんだ?』
と雄太がエルダへと声をかけたところでエルダが大声を上げた。
『そう言う事かぁぁ!』
『きゅ、急にどうしたんだ一体!?』
『ボーナスステージよ!さっきの群れはボーナスエリアなのよ!』
『はぁ?』
急に大声を出したエルダは、先程のバルーンスライムの群れに対してボーナスステージと言い切った。
『どう言う事?』
『ユータから見てあのバルーンスライムは1層の普通のスライムとどっちが強そうに見えた?』
エルダは唐突に雄太へと少し方向性がズレている質問をしてきた。
『なんだよ急に?強さで言えば普通のスライムなんじゃねぇか?』
『そう。バルーンスライムは普通のスライムより弱いのよ。だけど、普通のスライムより戦い辛いわ。何故なら、フワフワと空に浮いているから普通の攻撃じゃまず届かない。魔法を打つにしても魔法から発せられる僅かな風のせいで当てづらい。しかもバルーンスライムは自分から攻撃してこないし、耐久性もない。でも、ダンジョンコアに近い下の階層にいるから上の階層のモンスターよりは魔力を保有している。つまり、レベル上げのウマウマ商材なのよ!』
エルダは急に饒舌になり何か訳のわからない理論を唱え出した。
『全く分からないが、そう、なのか?』
『そうなのよ!攻撃もしない、耐久もない、別にダンジョン攻略に対しても邪魔してこない様なモンスターを、冒険者がわざわざ相手にすると思う?』
『俺も膨張の為じゃなかったら無視するかもな』
『でしょ?実際はかなりレベル上げに貢献するはずのモンスターなのに誰にも見向きもされない。しかも空の上にいる。雄太と違って普通の人間はこの広大な空を自由に飛び回れると思う?飛び回れたとしてもこんな下の階層で雑魚のバルーンスライムを態々狩る物好きはいると思う?』
『まぁ、探すのも面倒だし、皆んな、スルー一択だな』
『でしょ?でも、数を倒せばなにかしらレベルが確実に上がるのよ?そんなウマウマなモンスターがこんな浮島も無く人目につかない場所で密集してたら、これはもうボーナスステージよね?』
『そうだな。このエリアを見つける事ができれば、後はもう、単純作業の要領で狩り取るな』
『もしかしたら他にもここと同じエリアがあるかも!そうなれば、そうなればワタシが復活する日もw%jd*@HH^sy# で yusheyd&ihw*#$%kj@ できるわぁぁぁぁぁ!ブッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャァァァー!!』
『・・・・・・』
効果的なスライムスーツのレベル上げができると言う喜びに対し、エルダはまるで急に肝心なところで母国語を話す留学生の様に雄太が理解できない不思議な言葉を発しながら盛大にぶっ壊れた。
と言う事で雄太は再度、餓鬼達を散らし、この階層のスライム探しをさせた。
いつもの様に、次回投稿は月曜日となりますです。




