54. 4層へ
雄太が寝ている間にフレアスライムを完封で倒した鬼達の実態を観た雄太は、とりあえず、ガーディアンのリポップに対してのレポートをおばちゃんへと送った。
『こうなってしまったら、このまま下へと向かうか?』
『ちょっと待ちなさいよ!ガーディアンは鬼達が倒しちゃったけど、それ以外はまだ倒してないのよ!今の内に少しでも多くのスライムを吸収しておいた方が絶対良いわよ!』
雄太のそのまま下へと向かうという発言に対し、何故かエルダが猛反発してきた。
『・・・怒らないから本音で言ってみ?』
『あぁ、そうよ!そうですよ!ユータが思っている通りですよ!早くスーツのレベルを上げないとわたしが解放されないじゃないの!分かったらさっさと1体でも多くのスライムを吸収して来てよ!早くおいしいご飯が食べたいのよ!ユータ様ぁぁ!お願いですからわたくしめを早く解放して下さいませぇぇぇ!お願いしますぅぅぅぅ!ううっ。うっうっ。グスっ・・・』
本音をぶちまけたエルダは泣きながら雄太へと早くスーツのレベルを上げる様に嘆願してきた。
『・・・・・・』
あまりにも酷いエルダの嘆願に対し、雄太は少し思うところがあったのか、とりあえず3層のスライムをすべて吸収してから下へと向かう事にした。
『分かったよ・・・そんじゃ、餓鬼に急いで吸収させるから、お前達、一旦発現解除するぞ』
雄太は鬼人と大鬼を見て声をかけると、鬼人と大鬼はコクっと頷いた。
「解除!」
鬼人と大鬼は赤黒い光の粒子となって雄太の体へと戻って行った。
『スライムスーツノLVガ上ガリマシタ』
鬼人と大鬼の発現を解除すると、スライムスーツのレベルが上がった。
『お?スーツのレベルが上がったな。そんじゃ、餓鬼を発現させるけど、今の状態だと何体発現できるんだ?』
『3層のガーディアンも2回吸収したし、スーツのレベルも上がったから雄太の半分の膨張を使って80はいけるわよ?』
『そうか。そんじゃ俺の分を削って100の餓鬼を出してくれ。俺はこの祠から出ないから大丈夫だろ?』
『えぇ〜。やっても良いけど、絶対にこの祠から出ないでよ!少しは膨張は残してるけど、絶対に出ないでよ!餓鬼が殺られない様に鬼達と同じで各種耐性と火属性もつけるから、絶対に出ないでよ!』
『・・・あぁ、分かったから。さっさと終わらせて下に行くぞ。餓鬼、発現!』
エルダとの調整を終えた雄太は、100体の赤い餓鬼を発現させた。
「そんじゃ、お前達、速いトコこの階層中のスライムを狩り尽くしてこい!散れ!」
雄太に指示された赤い餓鬼達は、スライムを狩り尽くす為に3層中へと散って行った。
ー1時間後ー
雄太は祠の中で水龍のソファーに腰掛けてタバコを吸い、おばちゃんへと3層のリポップについての報告をしながら餓鬼達の狩りが終わるのを待っていたのだが、餓鬼達は3層のスライムを狩り尽くしたのか、チラホラとまばらに戻って来ていた。
戻って来た餓鬼は雄太によって発現を解除されて雄太の中へと戻り、最後の10体を解除したところで雄太のスーツのレベルが上がった。
『スライムスーツノLVガ上ガリマシタ』
「あ、レベルが上がった。そんじゃ、今度こそ下へと行きますか」
雄太は座っていた水龍を解除し、エルダへと声をかけた。
『おい。終わったぞ』
『ありがとうございます!ユータ様ぁぁぁぁ!』
『そんで、下に行く前に聞いとくが、4層ってどんなとこなんだ?』
『う〜ん。一言で言うのは難しいわね〜。なんて言うか、空中庭園?』
『は?もっと分かる様に説明しろよ。気候とか、スライムの種類とか、色々言う事があんだろ?』
『気候は2層の草原に近いかな?スライムについては何て言うか・・・飛んでる?』
『・・・飛んでるのはオマエの頭だろ?』
雄太はますます訳が分からなくなったので、取り敢えず考えるのをやめた。
『わたしの頭は飛んでないですぅ!至って普通ですぅ!本当に一言では説明できないから、下に降りて直接その目で見てみれば分かるわよ!』
『なんだよ、結局それかよ・・・そんじゃ下行って自分の目で確認するわ。それと、念の為、鬼人と大鬼を発現させるぞ』
そう言うと雄太はエルダとの会話を切って防衛の為の黄色い鬼人と大鬼を発現させた。
「よし。行くぞ〜」
雄太は大鬼を先頭に、鬼人を後方にしながら4層へと続く階段を下って行った。
階段の中は安全地帯とほぼ確信している雄太は、昨晩寝泊りした薄暗い階段の中頃を通り過ぎ、4層へと向けて悠々歩を進めて行く。
階段を下るにつれてだんだんと明るくなりはじめ、まるで2層の様に晴れわたった青空が眩しい4層へと降り立った雄太は、目を見開き驚愕を表情へと貼り付けた。
「な!?・・・ なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
雄太の眼前に現れたのは、いくつもの大小様々な島が、澄んだ青空の中へと浮いている光景であり、浮いている島には雲がかかっていたり、雲より高く浮いていたり低く浮いていたりと高低差までもがあり、島と島の間には大小様々な岩が浮き、そこは正しくエルダが言っていた様に空中庭園と言う言葉で表すのに相応しかった。
もちろん、今、現在、雄太が立っている箇所も例に漏れず浮いている島の一つであり、上へと続く階段は大きな岩の中へと続いており、岩の上を見ても空が広がるばかりで上へと続く階段が全く見えないと言う不思議な状態だった。
階段がある島は、大きな岩を中心に半径4m程しかない小さな島であり、次の島へと移動する為には島と島の間にある大小様々な岩を飛び移って移動するしかない様であった。
『オイ!エルダァァ!!一体なんなんだここは!?俺達、空の上の島に居るぞ!?』
この凄まじい光景を目にした雄太は気持ちを落ち着けられずにエルダへと問い詰める様に質問した。
『え〜。だからわたし言ったじゃん。空中庭園って』
『それはもうこの目で確認したから分かってるっての!そうじゃなくてダンジョンの中なのに空があって島が浮いているんだが!?』
『そりゃぁ、ダンジョンなんだから島も浮くわよ』
『浮くかぁぁぁぁ!!』
何事もなく、さも当たり前の様に冷静に雄太の質問へと返答しているエルダは、まるでコイツ何言ってるの?と言った様な口調で雄太を変人扱いしだしていた。
『これってマジで空の上なのか?実はホログラムとか映像とかでできていて、下に落ちても死なないよな?』
『ダンジョンが地球に転移してくる前に、向こうの世界でこのダンジョンに入って来た冒険者が落ちたのを見たことあるけど、それ以来その冒険者の姿を見た記憶がないかな?って事は、多分死ぬんじゃない?』
エルダが告げた「死ぬ」と言う言葉に対し、雄太は浮島の淵から中心の階段がある岩へと向かって後退りした。
『無理!俺には無理!高い所とセロリだけはマジで無理!死ぬ!これは落ちたらマジで死ぬ!』
雄太はどうやら高所恐怖症の様であり、上へと続く階段がある岩から一時も手を離す事がなかった。
『エルダさん。どうやら俺の役目はここまでだった様だ。これからは心を入れ替えて真っ当なパン屋さんを目指して生きます』
『ちょちょちょちょっ!ちょっと待ってよ!?ここをクリアすればスライムグラトニーなのよ!?って言うか、真っ当なパン屋さんってナニ!?パン屋さんって真っ当じゃなかったの!?確かに白い粉はキロ単位で扱っているけど!!それって法的に大丈夫な粉よね!?』
雄太は心底高いところが無理な様子で、小さい頃の夢であった真っ当なパン屋さんと言う記憶が蘇ってきだし、エルダは雄太が言う真っ当なパン屋と言う意味ありげなフレーズが気になってたまらなくなった。
『あぁ。俺がなりたいパン屋さんは至極真っ当なパン屋さんだ。パンを捏ねる時に怪しい呪詛も呟かないし、飛んで喋って頭を取り換える事で平然と蘇る不死身のパン人間も作らないし、スタッフの女の子も飼いならして24時間365日こき使わないし、センスのないイカれた乗り物も発明しない。至って真っ当なパン屋さんだ』
『なんなのその怖いパン屋さん!?どんな凄腕の錬金術師なの!?一体何を錬成しているの!?どんな真理を見たの!?何と何を等価交換しているの!?怖い!地球のパン屋さん怖すぎいぃぃぃぃ!ヒぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』
エルダは雄太から聞いた真っ当じゃないパン屋さんへの想像が膨らみ過ぎていつの間にか思考が恐怖に支配されてしまい、声を震わせながら奇声をあげだした。
『と言う事で、俺は世界のパン屋さんの秩序を守る為に地上へと戻って戦ってくる!そんじゃー』
『ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!』
雄太は階段へと向けて足を掛け、言葉を言い切る前にエルダによって止められた。
『そんな作り話しでわたしは騙されないわよ!こんな事している間にもスライムグラト・・・・・・・かっ!確保ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
エルダが雄太を引き留め、何かを喋ろうとしたところで雄太がいる島へとフワフワと白いクラゲの様な風船の様なモノが飛んで来て、それに反応したエルダはすごい剣幕で雄太へと確保する様に命令した。
雄太はエルダが発した確保という言葉に対して咄嗟に体が反応してしまい、赤腕を発現させている鬼人へと訳が分からないまま指示を出し、鬼人はワシっと赤腕を伸ばしてソレを掴んだ。
「あ?」
鬼人が掴んだソレは赤腕に触れられると同時に体を吸収されてその身を消滅させた。
「え?」
『スライムスーツニ新タナ能力ガ追加サレマシタ』




