43. 3層へ
リポップしたウォータースライムを大鬼がフルボッコにして吸収し終えた雄太は、放った20体の餓鬼へと雄太の元へと来る様に指示を出す。
雄太の眼前にはウォータースライムをボコって吸収していた3体の大鬼が既におり、雄太が階段の前で腰を下ろしておばちゃんへとリポップを含めた2層についての報告を送りながら他の17体の餓鬼を待っていたところ、1分もしない内に10体の餓鬼が雄太の元へと到着し、更に5分程で残りの7体が姿を現した。
雄太の元へと集まって来た全ての餓鬼達は、その身を大きくさせて、大鬼の姿になってやって来た。
「オマエらどんだけ育ち盛りなんだよ・・・」
事前にスライムの吸収を半々にしていたとは言え、まさか全ての個体がデカい鬼になって戻って来るとは思わなかった為、雄太は少し驚いた。
もし、この20体のデカい鬼に囲まれている雄太の姿を誰かが見ていたら、雄太へと静かに手を合わせ、声をかけずにソォ〜っとこの場から立ち去って行った事だろう。
「そんじゃ、1回オマエ達が吸収したスライムを回収するぞ。 解除ぉ」
雄太に発現を解除された大鬼達は、その身を粒子の様に細かくさせながら雄太へと向けて吸収されていった。
『スライムスーツノLVガ上ガリマシタ』
鬼達を解除したタイミングでスーツのレベルが上がった。
「レベルも上がった事だし、下に行くか。 っと、その前に、発現っと」
雄太は大鬼2体と餓鬼4体を発現させる。
雄太は発現させた大鬼を最前と最後尾へ1体ずつ配置し、前に2体の餓鬼、後ろに2体の餓鬼、真ん中に雄太と言った感じで3層へと続く階段を降りていった。
階段は1層と2層の間の階段と同じ様に、薄暗く幅が広い螺旋階段であり、雄太はその光景に慣れたかの様に下へと向かって歩いていく。
階段は、相変わらず耳が痛くなるくらい静かで、スライムやモンスターといったものはいなかったが、雄太はソレでも警戒しながら先を進む。
やがて薄暗い階段の先が明るみだし、3層へと近付いてきたと言う事が見て取れた。
そろそろか?
3層に近づくにつれて雄太の前はだんだんと赤々と燃える様に明るくなり、3層に着いた雄太は自身の目を疑った。
マジかよ・・・
雄太が今見ている3層の光景は、周囲を赤々と燃える様な明るさが広がっているドロドロと川の様にマグマが流れていたり、冷えた溶岩が固まって黒い岩が剥き出しになっている火山地帯だった。
3層の光景に対しての驚きは強く、その光景に伴うかの様に雄太の額や首からはジワ〜っと汗が吹き出てくるほどの息苦しい暑さが襲ってきた。
「アっつ!? なんか、暑いわムシムシするわで、息苦しすぎるぞ此処!?」
3層はまるで大きな岩のドームの様な感じの中にある巨大な火山地帯になっており、気候は2層とはガラっと変わって、まるでサウナの様に蒸し暑くて息苦しかった。
あまりにも蒸し暑くて息苦しかった為、雄太は大鬼と餓鬼へと一度階段へと戻る様に指示を出し、そのまま踵を返して階段内へと戻った。
階段の中は少しひんやりとしており、3層の絡みつく様な蒸し暑さと比べればとても快適に思えるほどだった。
吹き出している汗を腕や手で拭払っている雄太は、イラつく様にエルダへと声をかける。
『おい! 3層ってクッソ暑いんだが! こんなとこ早く終わらせたいんだが!』
『あ、ユータ! ヤッホー!』
『ヤッホーじゃねぇよ! 3層が! クソ! 暑い! んだが!! 周りでマグマが赤々と蠢いているんだが!! 鼻で息ができないんだが! 何これ!? 俺に死ねってか!?』
雄太はあまりにも3層が暑くて息苦しかった為、エルダへと盛大に愚痴りだす。
『だって、3層は火山地帯だよ。 そりゃ暑いに決まっているでしょ?』
『そう言うのは早く言えって!!』
『わたしはこんな状態になっているんだから言える訳ないでしょ!』
『あ、そう言えばそうだったな・・・ すまん・・・』
雄太は今のエルダの状況を思い出し、やり場のない感情を抑えながらも、素直に自分の過ちを認めて誤った。
『それで、ここはどう言う感じのスライムがいるんだ? ガーディアンはどんな奴で何処にいるんだ?』
『ん〜んとねぇ、ここのスライムは石? とかマグマ? 火? みたいな感じかな? ガーディアンは火山の中にいて、そこにある祠の前に居るよ。 見た目は火? 炎? みたいな感じ。 普通のスライムはまず近付かないね』
『・・・・・・』
雄太はエルダから聞いた3層の情報に辟易し、本気で地上へと帰りたくなった。
『ユータなら大丈夫なんじゃないの? ちょっと火山の火口から下に降りていってガーディアンを吸収するだけの簡単なお仕事でしょ?』
『できるかボケぇ!! 何処の世界に人間の身でマグマが渦巻く火山の火口に入って炎の化け物を倒せる奴がいるんだよっ!! 巫山戯んなよ! 簡単とか言うなぁ!』
雄太はさすがにコレはヤバイと感じ、サラッと自分なら簡単にできるみたいな感じで言ってきたエルダにキレた。
『え〜。 こんなの、全身に水龍を纏っていれば涼しいもんじゃない?』
『その手があったか!? ・・・とでも言うと思ったかこのボケぇ!! 炎とかマグマとかどんだけくそ熱いと思ってんだよ!? 水龍を纏っていても簡単に死ねるわ! 即蒸発するわぁ! 俺・即・滅 っつうの!!』
雄太はエルダに対してさらにキレた。
『大丈夫だって。 だってさぁ、ユータのスキルって超越で火を克服してるでしょ? それに、昨日、大量のウォータースライムを捕食した事でアーススライムを捕食した時の土龍と同じ感じで、水龍がすごい事になってるわよ? 試しに水龍を発現させてみてよ?』
雄太は、昨日の夜に水龍の上で眠りについた時は何処も変わってなかったがと思いながら、エルダに言われた通りに水龍を発現させてみる。
雄太が発現させた水龍は、エルダが言った通りに水々しさが増しており、まるで生物の様に生々としている感じになっていた。
『え?マジで!? 俺、まだ造形変形使ってないのに何コレ!?』
『でしょ〜。 コレを身体に纏って造形変形で服みたいな形に整えれば大丈夫だと思うんだけど』
と言う事で、雄太は水龍を造形変形で操作し、水でできた服を作った。
フーデッドパーカーの様に頭までスッポリ隠せる長袖の服、足の裏まで包み込まれたダボっとしたパンツ、手にはグローブ、顔には鼻と口と首を覆った水のマスクを発現させた。
雄太が発現させた服は、まるで砂漠で着ている様な肌の露出が少ないもので、見た感じは青白い爽やかな生地にも見えるが水の様に透明感が時折垣間見て瑞々しくもあり、見ているだけで清々しい感じを思わせた。
『そそ。 こんな感じ。 それに私が超越とか硬化とか衝撃吸収とかも付けといてあげるからちょっと外行って試してみて』
『効果はどうだかまだ分からないが、無駄にすげぇ感じになってしまっているな・・・ そんじゃちょっと行ってくるわ』
雄太は再度、餓鬼達をつれて3層へと降り立った。
最初に3層に降りた時とは違い、水龍の服を纏っている雄太は、暑さも息苦しさもウソの様になくなっており、まるでエアコンがかかっている部屋の中にいる様な心地良さが感じられた。
『エルダ様ぁぁぁぁ!!』
『ヒィ!? な、何よいきなり!?』
『コレはかなり快適になりましたです! コレさえあれば俺は此処で生き抜く自信があります!! ありがとうございましたぁぁ!!』
雄太は劇的に変化した心地良さにかなり驚いており、助言をくれたエルダへとお礼を言った。
『どういたしましてっ。 って言うか、ユータって超越持ってんじゃん? アレあると、此処で数時間過ごせば普通な感じになるのにねぇ』
『はぇ? ナニソレっ!? 詳しく!』
雄太はエルダに言われた自分のスキルの裏メニュー的な効果について驚いてしまい、エルダの言葉へと食いついた。
『ユータが持っている超越ってスキルなんだけど、スライムスーツの弱点を克服できるじゃん? だから此処で数時間ほど過ごせば、スライムスーツが勝手に此処の環境に馴染むって事ね。 此処の環境に馴染むってことは、スーツを着ているユータにもそれが適用されるから、ユータも此処に馴染めるって訳よ』
『マジか!? ・・・そんじゃ、そのうちこの環境が気にならなくなってくるのか!? スッゲェーな俺!?』
『いや、ユータが凄いんじゃなくて、超越スキルが凄すぎるのよ』
『まぁ、細かい事はなんでもいいや。 とりあえずありがとうな』
『うん。 それじゃ、まったねぇ』
超越によってそのうち此処の環境にも馴染めると言う事が分かった雄太は、息ができない程の蒸し暑さと言うかなり高いハードルが取り払われた事で胸を撫で下ろした。
「そんじゃ、改めて3層の狩りだな!!」
雄太はそう言うと2体の大鬼を解除し、代わりに16体の餓鬼を発現させた。
「オマエら。 先ずは先に俺が見た事ないスライムから探して吸収してこい。 今回は初めての階層だからツーマンセルで行動しろ。 そんじゃ、行け!」
雄太の掛け声と共に餓鬼達は2人1組になって雄太のディスプレイに映っている赤いアイコンがある箇所へと向かって散って行った。
そして雄太が餓鬼達を放して数分後、雄太にスキルを獲得した知らせが聞こえてきた。
『スライムスーツニ新タナ能力ガ追加サレマシタ』
『スライムスーツニ新タナ能力ガ追加サレマシタ』
「お? 早速来たな。 さてさて、一体どんなスキルだ?」




