42. 橘花鬼軍団 2
「それじゃ、先ずはっと」
雄太は散り散りになって走って行った餓鬼達へと向けて意識を向ける。
すると雄太のディスプレイには、雄太の視界の邪魔にならない様に20体分の餓鬼の視線のモニターが雄太の眼前にある虚空へと現れた。
「よし。 これで何かあればモニターが消える筈だから、そこへ他の餓鬼を向かわせれば良いか」
そう言うと雄太は自身の両腕を膨張で包み込み、背中へと4本の赤腕を発現させた。
「では、俺は一直線にウォータースライムへと向かうとします、かっ!!」
喋り終わると同時に雄太は地面を蹴って跳ねる様に昨日のウォータースライムがいた場所へと向けて全速力で駆け出した。
昨日、スライムスーツのレベルが上がった為、雄太は全力で走ったり、跳ねたり、ジグザグに移動したりとスーツの限界を試していた。
スーツのレベルが一気に2も上がった事で、昨日とは動きが全く違っており、雄太は完全に人間を超えた動きをしていた。
雄太が自身の動きを確認しながらウォータースライムがいた場所へと向けて一直線に走っていると、1時間もかからない内に目的の場所へと到着した。
到着した場所は、昨日の様に地肌が剥き出しの緩やかなすり鉢状になっており、すり鉢の底にはリポップしたアーススライムより少し大きい水たまりがポツリと存在していた。
「問題なくリポップしている様だな。 そんじゃ、早速喰っちまうか」
雄太はすり鉢状になっている緩やかな斜面を駆け下りて行き、背中にある4本の赤腕を広げて水溜りへと向かって水を掴み取るかの様に吸収した。
すると、急に攻撃された水溜りはブルブルと激しく震えて反応し、水溜りの中心がグググっとせり上がり、昨日と全く同じ女性を象った水の塊が現れた。
やっぱりこれが本来の姿なのか?
完全に女性のシルエットとなった水の塊は、徐に雄太へと右の人差し指の先を向けると、塊の指先が凄まじい勢いで雄太へと向かって伸び出した。
雄太は昨日の戦いの中で水線の速度に慣れていたと言う事もあり、また、スライムスーツのスキルが上がった事で、身体を少し右へと捻って難なく水の塊から伸びてきた指を躱す事ができた。
ヘェー
通常はこうやって使うんだな
雄太は、まるで、昨日のウォータースライムから得たスキルの使い方を学ぶ様に、水の塊からの攻撃を態と先手を取らせながらも全て躱していた。
最終的に、伸びる指は両手の指だけではなく、水の塊の髪が無数に直線的に伸び始め、伸びて来たと思ったらスキルを切って髪を柔らかくしたりと、水の塊はうまく直線的な動きと流動的な動きを切り分けながら水の棘をコントロールしていた。
途中でスキルを切ればこういう風にも使えるのか?
色々と俺が気づけなかった事があるな
雄太は両手の膨張へと槍棘を発現し、水の塊と同じ様に緩急を付けて伸ばしたりスキルを切って曲げたりしながら水の塊と応戦する。
そんじゃ、コレも試してみるか?
雄太は膨張の両腕を眼前へと突き出し昨日試していた直線的でカクカクした槍棘を発現させる。
雄太が発現させた槍棘は、真っ直ぐに伸びては横から新たな槍棘が伸びてと、幾何学的にカクカクと範囲を広げていき、まるで棘でできた檻の様に水の塊の周囲を囲った。
そしてコレでどうだ!!
雄太が槍棘を操作すると、水の塊を囲っている槍棘の檻から無数の槍棘がまるでアイアンメイデンの様に一斉に伸び、水の塊へと向かって襲い掛かった。
グサグサグサグサグサグサグサグサグサグサ──
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
水の塊は檻から伸びてきた無数の槍棘によってその身を吸収されながら串刺しにされ、輪郭がはっきりとしない顔で苦悶の表情を作り出す。
しかし、水の塊は身体を水の様に変形させてドロドロとした流動体になり、槍棘による串刺しの檻から容易に抜け出した。
やっぱりそうくるわな
水の様な流動体の姿になった水の塊が再度女性の姿へと形を変えると、自身の十八番の串刺しを自身で食らった事によって顔に怒りを貼り付けており、力を込める様な動きをしながら多数の水柱を背中から発現させた。
水の塊りの背中から発現された水柱の先端は、昨日のウォータースライムの様にプクゥ〜っと風船の様に膨らみ始めたのだが、膨らんで姿を現したその先には無数の足の長い水の棘を発現させ、まるでモーニングスターの様な形状を発現させていた。
なんだありゃ?
昨日は見なかったぞあんなの?
雄太が怪訝に思いながら水の塊から発現されたモーニングスターの様なものを眺めていると、水の塊がいきなりお辞儀をするかの様に背を丸め、水球についていた無数の刺を雄太へと向けて一斉に発射させた。
やべっ!?
雄太はとっさに背中の赤腕を土龍へと変えて4枚の壁を縦に並べて眼前へと作り、両腕に発現させていた膨張も同じく土龍へと変えて2枚の盾を作り、自身を守る様に腕を交差させる。
水の塊から一斉に発射された無数の棘は、昨日、雄太が受けた水線以上の威力があり、容易に4枚の土龍の壁を貫いて雄太の腕に発現させている土龍の盾へと軽く突き刺さる。
「うおぉ!?」
雄太は昨日より力が落ちている筈の水の塊の攻撃が、昨日のウォータースライムの攻撃より強力だった事に驚き、自身の腕にある土龍の盾に突き刺さった棘を急いで吸収した。
今のはマジでやばかったな・・・
ってか、コレってスライム弾にも応用できそうだな・・・
雄太にはまだまだ水の塊のスキルを解析できる余裕があり、他にもっと何かあるかもと考えて一気に捕食するのではなくチマチマと時間をかけて捕食した。
う〜ん・・・
これ以上は何も学べなさそうだな・・・
そろそろ一気に喰うか?
これ以上、水の塊からは何も学べないと思った雄太がトドメにかかろうとした矢先、雄太の上空が急に陰りだし、空から複数のナニかが落ちて来た。
「!?」
空から来た複数のナニかは、雄太と水の塊の間へと片膝を着いて着地する。
ズズズ〜ン!!
雄太は即座にバックステップをしてソレから距離を取って怪訝な表情で視線を向けると、そこには紫の金棒を持ち、緑色の身体をした3体の大鬼が立っていた。
「え?」
空から降ってきた3体の大鬼は、立ち上がると同時にそれぞれが手にしている紫の金棒を使って水の塊を力一杯ボコスカ殴り始めた。
雄太の目の前には、まるで複数の虐めっ子によってフルボっコにされている一人の虐められっ子の図があった。
「・・・・・・」
雄太が気になってその3体の大鬼に意識を向けると、雄太のディスプレイにある3つのモニターが青く光って囲われながらサイズを拡大し、その拡大された3つのモニターには3体の大鬼目線でボコられながら吸収されている、酷く怯えた顔をした水の塊の姿が映し出されていた。
「やっぱり、あのデカいのって俺の膨張だよな・・・ って言うか、こうやって3アングルで虐められっ子の姿を視るとなんだか切ないな・・・」
突如現れた3体の大鬼は、水の塊を容赦無くボコる手を全く止めず、終いにはフルボっコにしながら水の塊りの全てを吸収し尽くした。
『スライムスーツノLVガ上ガリマシタ』
「・・・・・・」
水の塊を全て吸収し終えた3体の大鬼は、雄太のスキルの為その身体からは汗も何も出ていない筈なのに、何故か額の汗を拭う様な仕草をしながらスッキリした様な顔をしだし、雄太は只々茫然とその異様な光景を見ながら棒立ちしていた。
「・・・何がどうなってこうなったんだ・・・ って言うか、無防備の相手を殴りながら吸収するってどんだけオニなんだよ・・・ あ、まんま鬼だったわ・・・」




