41. 橘花鬼軍団 1
1層へと続く階段へと戻ってきた雄太は、今日戦ったウォータースライムについての報告をおばちゃんへと送った。
「──と言う事だ。 明日、ウォータースライムのリポップを確認して詳細を送る。」
雄太はレポートを送った後に収納からタバコを取り出し吸い始める。
「ふぅ〜。 今日はおばちゃんから何もなかったな。 ピュアが動くのは明日って言っていたから、明日は何かしらの連絡があるかもな」
タバコを吸い終わった雄太は水龍で風呂に入り、その後、収納から弁当とお茶を取り出して黙々と食べ始めた。
「・・・なんか静かだな・・・ 此処は誰も居ないし音も全く無いな・・・」
雄太は水龍の上へと寝そべりながら階段の天井を見上げる。
後は寝るだけで特段やる事もなかったので、早々にデバイスでアラームをセットし、夜の見張りの為に1体の餓鬼を発現して雄太は眠りへと着いた。
ピピピピっ
ピピピピっ
ピピピピっ
ピピピピっ
ピピっ
雄太はアラームの音で目を覚ました。
雄太が水龍のベッドから身体を起こすと、見張りを任せていた餓鬼が雄太が起きた事に反応し、側へとやって来た。
「おぉ、ご苦労さん。 お前が無事って事は、夜は何も起こらなかった様だな。 って事は階段は安全地帯なのかもな。 まぁ、この事についてはこれから続けて検証していけば良いか?」
雄太は餓鬼の頭をひと撫でした後に餓鬼とウォータースライムを解除して朝食を取り始める。
エルダが居なかった為か雄太の支度は早く終わり、2層の草原へと姿を現した。
「よし。 今日も頑張って行きますかぁ!」
雄太は、日光の様に柔らかく照らし付ける光へと向けて気伸びをし、軽くストレッチをした後にエルダへと声をかける。
『おはようございまーす。 エルダさんは御在でしょうかー?』
『はいハーイ! 何方様でしょうかー?』
『あ、住所間違えましたー。 すいませーん』
『チョット待てぇぇぇぇい!? あってるから! 此処しか無いからぁ!!』
一夜明けたエルダは、今の状況に慣れたのか結構元気そうだった。
『それで、どうしたのユータ? わたしが居なくて寂しくなったの?』
『いや、それは全く問題ない』
雄太は考える素振りもなく躊躇せずに即答する。
『即答!? ここで即答!?』
『って言うか、今日はオマエにも働いてもらおうとだな。 昨日作った餓鬼を弄って欲しい』
『・・・え? ・・・ゴメンだけど・・・ わたしにそんな卑猥な趣味はないわ・・・』
『・・・何考えてんだオマエ・・・』
『なんでわたしの口からそんな卑猥な事を言わなきゃいけないのよ。 どんな性癖してるのよ・・・ ホント、ユータって獣ね・・・』
『まてまてまて!? それは俺じゃなくてオマエの性癖だろうがっ! そんな事を考えているオマエの方が遥かに獣だろうがっ!?』
『え? そう言うのじゃないの? ピーxxxxとか、ピーxxxxピーとかって事じゃないの?』
『オマエの性癖、マジでヒデェなオイ!? しかも言えないとか言ってめっちゃ言ってるし!? オマエは間違いなく獣だよ!!』
『・・・・・違うなら先にそう言ってよ・・・』
『先ずはオマエが俺の話しを聞けよ!! どんだけ色々と噛み合ってねぇんだよオマエの思考は!?』
エルダは自分の性癖を思いがけず暴露してしまった為か少し声のトーンが落ちており、雄太はやっぱりエルダとなんて話すんじゃなかったと酷く後悔する。
『と、とにかくだな、今から餓鬼を発現させてスライム狩りをする。 それでどれくらいの餓鬼をオマエは操れるんだ?』
『ユータにも膨張を半分残して、餓鬼にスキルを付けて機能性とか指向性を持たせるってなると、今のところ20体かな? もっとたくさんのスライムを吸収したり、スーツのレベルが上がったりすればもっといけるよ。 ユータに死なれたらわたしまでアウトだから膨張の総量の半分は絶対に残すからね』
『俺じゃなくてオマエ中心じゃねぇかそれ・・・ んじゃ、とりあえずそれでいいや。 そんじゃ、餓鬼に毒と溶解とスライム察知を付けてくれ。 それと餓鬼の視界を俺にリンクさせる事ってできるか?』
『できるんじゃない? 多分? 毒と溶解は問題なくできるけど、視界のリンクはできるかどうかやってみるから、ちょっと1体出してみてよ?』
と言う事で雄太はエルダに言われた通りに餓鬼を発現させる。
雄太によって発現された餓鬼は、昨日の様な透明で赤黒い見た目では無く、溶解と同じ緑色の体表で、牙と爪が紫色になっていた。
『まるで身体の凹凸がない丸くツルッツルなゴブリンみたいな見た目だな・・・ 火とか水とか土とかはねぇのか?』
『そんなの属性持ちが現れたら後で付ければ良いのよ! これが無難に餓鬼の生存率を上げるのに適しているのよ! それと、ついでに硬化と衝撃吸収も付けておいたからちょっとやそっとじゃくたばらなくなってるわよ』
『言い方!? くたばるとかって言うなよ! 他に何か言い方あるだろうが!』
『え? だって、餓鬼がやられたら、ユータはその分の膨張を全て失う事になるのよ? スライム弾と似た様な感じなのよこの子。 違うところはこの子がスライムを吸収すればユータへと自動で還元されるってところね。 この子自身がスライムを吸収しておいて後で回収することもできるけど、その分この子はどんどん大きくなっていくわよ。 ユータへの還元率もユータ次第だけどどうする?』
『え?』
雄太はエルダから聞かされた分離の裏事情的な事を聞かされた感じがし、少し驚いてしまった。
『まじか・・・ そうなったら貯めた膨張が無くなってしまうのか? 大きくなったら毒とか溶解の部分はどうなるんだ? 要素が足りなくなるとかなのか? って言うかコイツがスライム吸収しまくったら巨大化したりするのか?』
『・・・巨大化するわね・・・ スキルの部分はわたしが管理するから問題ないわ。 それと、さっきユータが言っていた視界のリンクだけど、あたしの意思疎通を付けたら問題なくできたわよ。 ちょっと試してみて?』
雄太はエルダに言われた通り、餓鬼へと意識を向けると、雄太のディスプレイへとARの様に雄太の眼前の虚空へとモニターに映し出される様に餓鬼の視界が現れた。
『おぉぉ!? すっげぇなコレ!? そのまんま餓鬼の見ているものが俺の視界に流れてくるって思っていたけど、こう言う感じになるんだな!?』
雄太は思っていた以上の結果に興奮しながら大満足する。
『そんなの全くもって当たり前でしょ? いくら視界共有って言ってユータの目に直接餓鬼の視界が映し出されたら、ユータは自分の視界が見えなくなって真面に動けなくなるでしょ? 馬鹿なの?』
『・・・・・・』
エルダに初めてもっともらしい事を言われて論破されてしまった雄太は、何故か怒りよりも悲しみが込み上げてきて、今すぐ死にたくなってしまった。
『それで、続きだけど、その餓鬼の視界を見ながら餓鬼の動きを操ることもできるから、試しに何か動かしてみて? でも、あまり遠くに行っちゃうと分離の効果が無くなって餓鬼が消えちゃうから気をつけてね。 今のスーツのレベルだとユータを中心にして半径5キロが限界かな? まぁ、わたしが範囲のギリギリに来たら範囲内に留める様にするけど』
エルダに言われた様にディスプレイに映る餓鬼の視界へと意識を向けると、餓鬼の視界を映しているモニターの周りが青く光、餓鬼を雄太の好きに操る事ができる様になった。
『最高だなこれ・・・ これなら俺とバレずに女風呂覗き放題だな・・・』
あまりにも凄すぎるスキルの性能で、雄太からは心の願望がだだ漏れになってしまった。
『なんか色々とだだ漏れてるわよ・・・ せめてもう少し濁す様に考えなさいよ・・・』
『・・・・・・すまん・・・』
雄太は今すぐベッドへとダイブし、枕で頭を隠しながら大声で叫びたい気持ちになった。
『と、とりあえず、これで出せるだけ出してくれ。 スライムの吸収はとりあえず半分は俺に回して半分は餓鬼預かりで後で回収するわ。 そんでスライム察知で自動的にどんどん狩っていく感じで』
『分かったわ。 コレをこうして、アレをああしてと、調整できたからコレでいつでも出せるわよ』
『おう。 ありがとな。そんじゃまた何かあったら呼ぶからコントロールよろしく』
『それじゃ、まったネ〜』
雄太の用が済むと、エルダがスキルへと戻った事で声はここで途絶えた。
「そんじゃ、餓鬼発現!!」
雄太は一気に20体の餓鬼を発現させる。
「よっしゃ! そんじゃ、橘花鬼軍団、コレから狩りの時間だ!! 散れ!!」
雄太の掛け声と共に餓鬼達はそれぞれがスライムを察知して散り散りになって走り出した。




