4. 初めてのダンジョン
ハロワの外へと出た雄太は、真夏の日差しを手で遮る様に顔を隠し、おばちゃんに言われた様にハロワの裏にあるダンジョンへと向かおうとしたのだが、やはり武器が無いと言うのは心細いので、とりあえず武器になりそうな物を探しにハロワの敷地内をウロウロする事にした。
「なんか武器になりそうな物はねぇのかよ・・・ 素手じゃ流石にダメだろ・・・」
雄太が愚痴りながら敷地内をウロウロしていると、タイミング良く清掃員のおじさんが箒で敷地内を掃除していた。
雄太は清掃員のおじさんの元へと向かい、ハロワのゴミ捨て場の位置を聞く事にした。
「あの〜。すいません。ゴミ捨て場ってどこですか?」
おじさんは箒を掃く手を止めて、メガネをクイっと持ち上げて胡乱げに雄太を見た。
「ゴミ捨て場は向こうだけど、どうしたんだい?」
「そ、そのですねぇ、か、噛んでいるガムを捨てに行こうかと・・・」
胡乱げな表情で雄太を見ている清掃員のおじさんの質問に対し、雄太は咄嗟に嘘を言い、あたかもガムを噛んでいるフリをした。
「そんなら塵を捨てるついでに捨ててあげるよ」
といっておじさんは雄太へと手をの差し出した。
「い、いえ、包み紙を先に捨ててしまったので、このまま口の中にあるガムを渡すのは申し訳ないので自分で捨てに行きますんで・・・」
「そ、そうかい。 それじゃ、あの角を曲がって少し真っ直ぐ進んだ角のところにゴミ捨て場があるから」
流石に他人が噛んでいたガムを生のままで受け取るのは嫌だったらしく、清掃員は後ろを振り向いてゴミ捨て場がある方を指差して雄太へと親切に教えた。
「ありがとうございます」
雄太は清掃員に言われた通りにハロワの敷地内を歩いて行き、ゴミ捨て場へと辿り着いた。
やっぱり今の俺の格好って怪しいよな・・・
一瞬マジで逃げ出しそうになったわ・・・
ゴミ捨て場は金網の柵に囲まれて種類毎に分別され、所定の場所に分別されたゴミ袋が沢山置いてあり、雄太はその中で粗大ゴミと言うプレートが付いている箇所へと向かった。
そこには先が欠けていい具合に尖っている、長さが1m程の手頃な長さの鉄パイプが立てかけてあり、雄太は真っ先に目についた鉄パイプを手に取った。
これはいい感じだな・・・
コレを使うか・・・
もし、コレが壊れた場合も考えて、他にも何か無いか探すか・・・
雄太は粗大ゴミの箇所を色々と眺めながら探し歩いたが、他に武器になりそうな目ぼしい物は無く、横にある燃えないゴミの箇所へと移った。
燃えないゴミは流石に袋に入っており、雄太はパンパンに膨らんでいるゴミ袋を適当に足の爪先で蹴って中に入っている物の感触を確かめた。
何個か袋を蹴っていると、「カランカラン」と言うスプレー缶の様な音が聞こえたので雄太はその袋を開封した。
袋の中には殺虫剤のスプレー缶や食器洗い用の洗剤のボトルがいくつか入っていた。
お?
コレ使えるんじゃね?
4つの殺虫剤の缶を見つけた雄太は、1缶ずつカチャカチャと縦に振ってスプレーを噴射させて中身を確かめた。
結果、4本中2本は僅かながらまだ中身が入っており、一緒にゴミ袋に入っていたコンビニの袋へと缶を詰めた。
次に食器洗い用の洗剤ボトルへと目をやり、中に黄色い透明な液体洗剤が残っているのを見つけた。
少し水を入れれば目潰しくらいにはなろだろ?
お?
トイレ用の洗剤のボトルもあったぞ!
コレも洗剤と一緒に混ぜれば水で薄めても何とかなんじゃね?
雄太は食器洗い用の洗剤のボトルの蓋を開け、少し残っているトイレ洗い用の洗剤を流し込んだ。
この際、一緒に殺虫剤も混ぜるか?
先程袋に仕舞った2本の殺虫剤の缶を取り出し、カチャカチャと振った後に噴霧が途切れるまで洗剤のボトルの中へと噴射させた。
ケミカルな物同士を混ぜるのが楽しくなってきた雄太は、他にも色々と混ぜてみようと色々とゴミを物色し始めた。
結果、雄太がゴミ捨て場から見つけ色々と混ぜた物は、食器洗い用洗剤、トイレ洗い用洗剤、殺虫剤、漂白剤、カビキラー、ガラスクリーナー、目薬、コーラ、ビール、弁当に入っていたであろう切り出されたレモンの絞り汁と小分けされた醤油。
「ぐふぅっ!?」
何だこのヤバそうな臭い!?
俺が誰かにこんなんかけられたら死ねるぞ!?
意外と結構な量になったな・・・
ボトルが満杯になるって事は500ml近くあるぞコレ・・・
って言うか目が痛い!早く閉めねば!
雄太がボトルの口から量を見るために中を除き込んだ瞬間、何とも言えない明らかにヤバそうな刺激を伴ったケミカル的な何かが、ボトルの口から気化しながら立ち込めてきた。
雄太は堪らなくなり直ぐにボトルのキャップを締め、コンビニの袋に入れてグルグルと包み込んだ。
取り敢えず、今日はこんな物でいいか。
どうせ今日は様子見程度なんだしな・・・
コレで無理なら明日にでもサラ金に行って金借りて、ちゃんとした武器を買ってくるか・・・
雄太は先の尖った鉄パイプと自作のケミカル兵器を持ってダンジョンへと向かった。
向かったダンジョンは元々はこの地域の人の為の地下に設置された避難所だったらしく、外観はそれらしい佇まいをしていたのだが、入り口には駅の改札の様なゲートと、ゲートの横には小さな建物があり、建物の入り口には物々しい装備をしているダンジョンの見張りらしい人が一人座っていた。
雄太は見張りの人へと軽く会釈をしゲートへと向かおうとしたところで徐に見張りの人に声をかけられた。
「ちょ、ちょっとキミ!?そんな格好で何処に行くんだ!?」
流石にTシャツ、ジーンズ、サンダルと言ったほぼ部屋着の様な格好で、右手に鉄パイプ、後ろポケットにビール袋で包まれた何かを持っただけの、到底ダンジョンへとモンスターを狩に行く様な格好とはかけ離れまくっている格好の俺は、速攻でダンジョンを見張っている人によって止められた。
「いえ、ダンジョンへと行くのですが、何か?」
「イヤイヤイヤ!?『何か?』じゃないだろ!?ダンジョンに行くなら装備を整えてからじゃないと危ないぞ!しかも何?その鉄パイプみたいなものは?こんなのでモンスターを倒せると思っているのかい?幾らここが最弱のスライムダンジョンって言っても、スライムに捕まればそんなのは直ぐに溶かされてしまうぞ。 悪い事は言わないから出直してきた方がキミの為だ」
見張りの人は雄太の格好を上から下まで眺め、装備を整えてから雄太に出直して来るように伝えた。
「いえ、大丈夫です。俺、さっきライセンス取ったばかりで、今日は入り口付近でモンスターを見るだけで戦おうとか全く思って無いんで。 とりあえずダンジョンがどんなものかって言う様子見です」
「まぁ、それなら良いんだが・・・ スライムは動きが遅くてコッチから攻撃しない限りは自ら進んで襲ってこないからから、遠目から見るだけにしておくんだよ。分かった?」
「はい。わかりました。俺もまだまだ死にたく無いんで見るだけにしておきます」
「それじゃ、気をつけて。あ、キミ、さっきライセンスを取ったって事はダンジョンに入るのは初めてだろ?ゲートの入り方を教えてあげるから。 キミのライセンスはどのタイプ?リストバンド?スマホ?」
「カードです」
「え?」
雄太はジーンズの後ろポケットからライセンスカードを取り出して見張りの人に見せたのだが、雄太が取り出したカードを見た見張りの人は不思議な物を見るような目で雄太の顔とカードへ目線を行ったり来たりさせていた。
「ゴメンゴメン。 リストバンドじゃないんだ・・・ カードタイプの人は久しぶりに見たから少し驚いてしまって・・・ と、取り敢えず、隠れている情報を起動させて、そこのゲートにある黄色く光るデバイスの箇所に翳したらゲートが開くから」
見張りの人はゲートにある黄色く光っているデバイスを指差してダンジョンへと入る方法を教えてくれた。
「ありがとうございます」
そんじゃ『起動』っと。
雄太カードの所定の場所に指を当てて情報を出現させた。
そんでもってここに翳すと・・・
おぉ!?
開いた!?
雄太は開いたゲートをそそくさと潜り、ゲートの向こう側へと何事も無く入る事ができた。
「ダンジョンへようこそ。それじゃ、気を付けて行ってらっしゃい」
見張りの人はテンプレの様な台詞を言いながら腕を横へと広げ、雄太へと軽く手を振って見送った。
ゲートを潜ると地下へと続く階段があり、壁や階段は現代的なコンクリートの造りになっていた。
階段を降りていくと、奥へと続く真っ直ぐな通路が現れた。
通路は、雄太が入ってきた階段側の方はコンクリートの造りなのだが、奥に向かうにつれて、まるで洞窟の様な岩肌が剥き出しな天井や壁となっていた。
足元は意外としっかりしている様で、壁や天井の様にデコボコしているのではなく、ある程度フラットな感じだ。
しかもダンジョン内は、若干ヒンヤリとして少し肌寒く、まるで氷河の内部の様に壁や足元が薄っすらと青白く発光しており、発光によってある程度の視覚が確保されていた。
雄太が思っていたダンジョンと違って、青白く発光している岩壁は中々に幻想的な壮観であった。
スッゲーな・・・
ダンジョン内の美しい風景に目を奪われてしまい、少しの間立ち尽くしていた雄太は、発光している壁を触ろうと虚ろなままにフラフラとゆっくりと歩き始め、コンクリートの部分から光る岩肌の部分へと脚を踏み入れた瞬間、突然、何処からともなく声が聞こえてきた。
声は、男性とも女性とも取れる様な中性的かつ機械的な声色であり、まるで頭上から降って来た様な、身体の内外へと纏わり付く様な、身体の内部から外へと染み出る様な感じで聞こえ、急な出来事に雄太は思考が止まって歩く脚を止めた。
『スキル発動条件ガ満タサレマシタ。 コレヨリ、スキル【擬装】ヲ解放シマス』