31. ユーザーVSアーススライム 1
ー時は少し遡りー
雄太が朝早くからダンジョンへと潜った日の13時。
スライムダンジョン横のハロワへと、ギルドから派遣されたダイバーの一団が到着した。
ハロワの自動ドアが開くや否や、物々しい数の屈強そうな男女が管内へと入って来た事で、フロアに居た少なくない利用者達は、異質な一団を見て動きを止めて何事かと驚いたり、知り合いらしき者達は一団と目線を合わせないようにヒソヒソと話し始める。
異質な一団の先頭には、周りにいる多くの屈強そうな者達とは違い、高そうなスーツを着て小綺麗な格好をした長身で身体の線が細い30代後半に見える男性がおり、周りとは違うスーツと言う格好も相まってか、一際異彩を放っていた。
スーツ姿の男性は何やら集団へと指示を出し、集団から一人離れてカウンターへと向かい、カウンターに居るおばちゃんへと話しかける。
「はじめまして。 私、ギルド本部から派遣されてきました日向と申します。 本日は春日所長とのお約束がありこちらへとご訪問させて頂きました。 春日所長はご在でしょうか?」
日向と言う男性は手にしていたビジネスバッグから名刺を取り出してカウンターにいるおばちゃんへと見せた。
「えぇ。 私が所長の春日です。 本部から話は聞いております。 ここではなんですので会議室へとご案内します。 鈴木君! こちらの方々を会議室までご案内差し上げて」
「はい! 畏まりました。 こちらになりますのでどうぞ」
鈴木はおばちゃんからの指示に対してカウンターの中の自分の席から瞬時に立ち上がり、日向へと会議室がある方向へと手を差し向ける。
日向達がゾロゾロと動き始めると、鈴木も自分の席を離れてカウンターの横に設置されているスイングドアからフロアへと現れ、日向達を先導する様に会議室へと向かった。
会議室はなかなか広く、大勢いたダイバー達は一人残らず椅子へと腰掛ける事が出来た。
ダイバーの数は10人もおり、日向を入れると11人と言う数になっていた。
「春日も直ぐに参りますので、少々お待ち下さい」
鈴木は日向達を会議室へと案内した後にドアを開けて会議室から出ていった。
数分後、数回のノックの音と共に会議室のドアが開き、おばちゃんと鈴木が入室してきた。
おばちゃんと鈴木が入室して来たタイミングで日向はシュっと席を立ち、名刺を取り出しながら自己紹介を始める。
「改めまして。 はじめまして。 私、ギルド本部、ダンジョン調査部の日向と申します。 本日は宜しくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます。 はじめまして。 わたしはここの所長をしております春日と申します。 本日はお忙しい中ご足労頂きありがとうございます」
「はじめまして。 ここでダンジョン素材管理部の責任者をしております鈴木と申します。 何卒宜しくお願い致します」
おばちゃん、日向、鈴木はお互いに名刺交換をした後に席へと着き、その「ザ・サラリーマン」的な光景を見ていたダイバー達は、三者三様に当たり前の様に見ている者や、つまらなさそうに見ている者、懐かしむかの様に見ている者等と言った感じでバラバラだった。
「春日所長。 早速なんですが、スライムダンジョンにつきましての情報をお伺いさせて頂ければと思います。 当方も今朝方に春日所長より送られて来ましたレポートを読ませて頂いたのですが、何分文字では伝わらない部分もあるかと思いますので、お送り頂きました情報を元に、春日所長の生の声と照らし合わせながら確認させて頂ければと思いますが宜しいでしょうか?」
おばちゃんから見た日向は、態度も言葉使いも落ち着いており、レポートと生の声を照らし合わせると言った様に情報収集力もありそうな感じがし、なかなかにやり手の様に感じられる。
おばちゃんは、雄太のスキルや個人情報、エルダやエルダから聞いた話しを伏せながら、雄太から得られたダンジョンの最奥の情報を隠す事なく日向へと伝える。
「成る程。 新たな階層へと続く階段は、その橘花さんと言う方が発見したのですね。 素晴らしい。 それで、その橘花さんは今、何処においでで?」
「彼は今も通常通りスライムダンジョンへと潜っております。 彼は昨夜、当方と専属契約をし、ダンジョンへと先行させて情報収集をさせています。 つい先程も彼から情報が届いたところですのでそちらもこれよりご報告させて頂きます」
おばちゃんは、まるで何事もなかったかの様に、シレッと雄太が先行している事や専属契約した事を日向へと伝えた。
「その様な報告は私が頂きましたレポートには全く記載がありませんでしたが、何故、記載が無かったのでしょうか?」
下層へと続く階段を見つけた最も重要とされる人物、雄太の現状に関しての報告が一切無かった事に対し、日向は胡乱な目つきでおばちゃんへと視線を合わせた。
「彼の専属契約に関しましては、ギルドの専属契約の登録管理をしているアーカイブへと登録しましたので報告は不要かと。 先行については、あくまでも情報収集の為ですので双方に益があるかと。 結果、これから伝えます彼から報告があった最新情報は、そちらの皆様にとって大いに役立つかと思われます」
おばちゃんはハロワや雄太を庇う為の屁理屈や嘘といった事は一切言わず、ただ単に事実だけを淡々と日向へと伝えた。
「そうですか・・・ まぁ、良いでしょう・・・ それで、その最新情報とはどう言ったもので?」
おばちゃんは、なんとかこの山場を乗り切ったと心の中で安堵し、横に居た鈴木はエアコンが効いている部屋だと言うのにも関わらず、何故か大量の汗をダラダラと流し、手にしていたハンカチで何度も額を拭っている。
「それはですねー」
おばちゃんは、雄太と連絡が取れるデバイスを机の上に置き、昼前に雄太から届いたボイスメッセージを再生しながら、日向を含め部屋にいるダイバー達へと説明をし始める。
「そうなんですね。 1層の階段を隠しているのはガーディアンと言い、リポップして再度階段を隠すと。 ガーディアンはアーススライムと言うレア種で大きさは縦横約3m程。 アーススライムはダンジョン奥の広い空間の入り口から奥の壁に真っ直ぐに向かって約10m進んだ地面に居り、ちょっとやそっとの攻撃じゃ見向きもされずに無視される。 これはなかなかに有力な情報ですねぇ。 これからの攻略に大いに役立ちそうです。 対処法があれば良かったのですが、それは当方で色々と検証していくとしましょう。 それでは、そろそろ時間も押して参りましたので、私達はダンジョン調査へと向かわせて頂きます」
日向は連れて来たダイバー達へと視線を移した後におばちゃんと視線を交差させる。
「それでは春日所長。 色々と有益な情報をありがとうございました。 本日の調査後に改めてお声がけさせて頂きますので、春日所長や職員の皆様は通常通りの業務を続けてください」
「分かりました。 では当方は引き続き通常通りの業務をいたします。 お気をつけて。 良いご報告をお待ちしております」
「はい。 それでは後程」
おばちゃんから情報を聞いた日向は、おばちゃんへとハロワに対する指示を出した後に席を立ち、ダイバー達を引き連れて会議室を後にした。
「「・・・・・・」」
日向達が出て行った後の会議室には重たい沈黙が訪れ、おばちゃんと鈴木はなんとか事を荒立てずに上手くいった事に安堵する。
鈴木はグッタリと机へとうつ伏せになり、おばちゃんは椅子へと体重をかけながら深く自身の背中を預けて息を吐きながら天井を見つめた。
「フゥ〜・・・ 何とか上手くいったわね。 あの子も何とか情報源として組み込めたし、取り敢えず、現状はウチが優位な状態に持って行けたわね」
「ハァ〜〜。 僕は終始緊張しぱなっしでしたよ・・・ あの、日向という人はなかなかに鋭そうでしたので、もうダメかと思いましたよ・・・ と言うか、流石は所長ですね。橘花さんからの情報を上手く使いつつも、相手に余計な詮索や疑問を抱かせない。本当に尊敬しますよ」
鈴木は極度に緊張をしていたからか、表情には多分に疲労が見え隠れしており、左手で眼鏡を外して右手の親指と人差し指で自身の目を押し込む様にマッサージをし始める。
「さてと、これからどうなるのかしらねぇ・・・ あの子も無事だと良いんだけど・・・ さぁ、私達は私達の仕事をするわよ。 あの子の為にも、あの子が帰って来るまではここが残っている様に全力で戦うわよ」
おばちゃんは自身へと気合を入れた後、椅子から立ち上がって腰を伸ばして両手でグイグイと押しながら鈴木と共に会議室を後にした。
明日からガチバトルです!




