3. カード発行
ガイドブックを読み進めてライセンスやポイントの項目から装備に関してのページへと移った。
装備はギルドやハロワからレンタルする事もできるらしいが、基本は個人の持ち込みらしい。
個人で持ち込む場合は、ギルドやハロワで装備を登録する事が義務付けられており、登録を怠った場合は多額の罰金が課せられる。
また、ダンジョン外での装備の利用は禁止されており、使用した事が判明した場合、逮捕されて状況に基づく罰金を支払い、ダイバーライセンスは永久に取り消される。
まぁ、治安維持の為にはそうなるわな。
装備を購入する際は、ギルドやハロワが指定した所定のショップにてライセンスを見せれば購入する事が可能で、販売ライセンスを所持している鍛冶屋や企業へとオーダーする事も可能。
これは、既製品やオーダーメイドを選べるって事だな。俺には当分縁がないかな。
装備は基本的にダンジョン素材で作られており、ダンジョンの素材を使わない装備ではダンジョン内のモンスターを倒す事やモンスターの攻撃から自身の身を守る事ができない。
ダンジョン内のモンスターにとって、ダンジョン素材を使用していない武器は、まるで子供の玩具の様な物であり、防具は紙同然である。
それ程にダンジョン内のモンスターの強さは異常であり、ダンジョン素材と言うものも異質なのである。
しかし、人類は、ダンジョン素材を使用していない装備でもモンスターへと対抗できる術を持っている。
ーそれはスキルだー
人類は、世界が静寂に包まれた後とダンジョンが現れる前の空白の間に、多種多様な異能なチカラ、所謂スキルを発現させる人々が出現し始めた。
スキルを使用できる者には、先天的な者と後天的な者がいる。
生まれながらに先天的にスキルを発現させた者は『ピュア』と呼ばれ、ダンジョンでモンスターを討伐して得られたスクロールを用いて後天的にスキルを得た者は『ユーザー』と呼ばれている。
ピュアは、世界が静寂に包まれた当初から、スキルを駆使して文明の発展に携わり、ダンジョンが現れてからはモンスターの討伐、ダンジョンの管理等に対して度々英雄視される様な多大な活躍や貢献をしている。
ピュアが使用するスキルは、戦闘だけで無く生産や医療関係等と言った各分野においても一気に技術や文明を押し上げる程の力を保有しており、どれをとってもユーザーが使用するスキルとは全く別物な異質で強大なチカラである。
しかも、ピュアは、スクロールから得られるスキルと自身のスキルを組み合わせる事によって、常識では計り知れない様な現象を起こしたり、組み合わせによっては更なる秘めた可能性を持っている。
故に、静寂に包まれた後の世界は、ダンジョンから得られる素材を基にしてピュアによる未知なるチカラで発展していったと言っても過言ではない程だ。
その為、ピュアは世界の権力や中枢と深く結びつきを持っており、各国は総力を挙げて更に多くのピュアを国家へ取り込もうと必死になって常日頃から動いている。
ピュアを多く抱える国は世界中で絶大な発言権を持ち、世界の情勢や経済を容易に動かす事ができるのである。
ピュアやユーザーが使用できるスキルは私生活においても色々と利便性や多様性があるのだが、スキルの使用は特別なケースを除き、基本的にはダンジョンのみで使用が許可されている。
しかし、現在では国が定めた面接と試験に受かる事によって、ダンジョンの外でもスキルを使用できる事を認める『ダンジョン外スキル使用許可証』と言うのが作られた。
この許可証は、以前はピュアがダンジョンへと行かなくても、ダイバーにならずともダンジョン外でスキルを使用する為の資格だったのだが、今の時代ではダンジョン土方なる隠語が流行る程ダンジョン関連の仕事が多くなり、日常生活内でもスキルが使われたりしている事もある為か、ダイバーライセンスとダンジョン外スキル使用許可証を取りながら希望のスキルを獲得する事ができる、スキル獲得ツアーなるものまでまかり通ってしまっている世の中になっている。
そのせいか、生まれてから死ぬまでの間に、多くの人は遅かれ早かれ何かしらのスキルを獲得している世の中になってしまっており、就職前にこの『ダンジョン外スキル使用許可証』と言う資格を取得していれば大企業や公務員への就職が有利になると言う事で、ダイバー専門学校や大学の卒業前には誰もが通る大イベントとなっている。
ダンジョン外スキル使用許可証は、ダンジョンに一回も行った事が無く、ましてやスキルが無くてもテストに受かれば取得する事が可能なのだが、それ故か試験や面接はそれなりにハードルが高い仕様だ。
かく言う俺も、就職を有利にする為に大学卒業前に『ダンジョン外スキル使用許可証』を取得した。
俺はこの資格を持っていたからこそ、ダンジョンに一度も行った事がなくてもダンジョン関連の大企業へと就職する事が出来たのだが、蓋を開けて見ればこの有様である。
遊ぶ金があったせいか、ダンジョンに入る事に全く興味が無く、スキルを使うと言うシチュエーションにも全く遭遇しなかった俺は、この歳になっても未だにダンジョンに行った事もスキルを使った事も無く、就職先の会社からは濡れ衣を着せられた上にあっさりと切られ、職も財産も失った。
こうなるのが分かっていたら、週末や休みの日にダンジョンへ通っておくべきだった。
と言う事で、俺はダイバーとしてはかなり出遅れている感じだ。
ガイドブックを読んでいると、カウンターのおばちゃんから大声で俺の名前が呼ばれた。
俺はおばちゃんの大声に吃驚してしまい、思わず声を出して返事をしてしまった。
「あ、はい!」
自身でも気付かない内に集中してガイドブックを読んでいたらしく、何度も名前を呼ばれたが無反応だったらしく、俺は急いでおばちゃんがいるカウンターへと向かった。
「すいません・・・ ちょっとガイドブックを読むのに集中していた様で・・・」
「ったく、何度声をかけさせれば済むの。 ホラ。カード出来たわよ。自分の名前と住所、生年月日を確認して。 あんた、何かスキルは持っている?」
おばちゃんは何度も俺を呼んだ為か少しピリピリしながら薄緑色のカードをカウンターの上に差し出し、俺はそっとカードを受け取った。
「スキルはないです。カードの情報は問題ないです。全部合ってます」
「じゃぁ、スキルの登録証は持ってないわね。 それじゃ、カードの裏の右下にある、四角い枠の中を指で押さえて。 申し込み時に登録した指紋の認証確認よ」
俺はおばちゃんに言われるままにカードの裏の四角い枠の中を親指で押さえた。
すると、カードに記載されている俺の名前だけを残し、顔写真や住所、生年月日と言った俺の個人情報が薄っすらと青く光り輝いて跡形もなくカード上から消えた。
「これでカードの登録は完了よ。 カードに情報を発現させるには今みたいに裏にある枠の中に指を当てれば出てくるわ。そうすれば名前の部分が青く光ってあんたの個人情報が浮き出てくるから。浮き出した情報は1分以内には消え、カードは自分以外の他人では反応しないから。 それと、ポイントを受け取る時や支払う時は情報を出現させないと使用出来ないからちゃんと覚えておくのよ」
おばちゃんは俺からカードを取って、自身の指をカードに押し当ててカードが反応しない事を見せた後に再度俺へとカードを手渡した。
「凄い技術だなコレ・・・」
「でしょ? 私も良く分からないけど、昔のピュアの人が開発したらしいわ。 この技術が使われているのはダイバーライセンスだけらしいから、多くの人が個人IDや銀行のカード代わりに登録しているわね。 今ではあまり誰も使わないカードでもこの性能よ。 けど、主に使われているリストバンド型やスマホ型はもっと便利で凄いわよ。 って言うかあんた、そんな事も知らなかったの?」
「今迄、普通のスマホやID、銀行のカードでも特段問題無く使えてたから全く気にすらしてなかったわ」
俺はカードをベタベタと触り、何度も指を当てて情報を出現させたりしながらカードを弄っていた。
「それじゃ、これでダイバーの登録は完了したから、さっさとダンジョンに行って稼いでおいで。 私も慈善事業じゃないから、立て替えた分を早く返すんだよ」
「・・・わかりました。なる早で返します・・・ って言うか、武器とか装備はどうすれば・・・」
金が全く無い俺は申し訳なさそうにおばちゃんへと装備について聞いてみた。
「流石にそこまで面倒見切れないわよ・・・ この裏に最弱のスライムのダンジョンがあるから気を付ければ何とかなるんじゃない? スライムから露出しているコアさえ破壊できれば倒せるから、その辺のゴミ捨て場から武器になりそうな物でも拾っておいで」
おばちゃんは本当にそこまで面倒を見る気がないのか、ゴミ捨て場から武器になりそうな物を探せ等と適当な事を言いながら、まるで犬を追い払う様にシッシと腕を振って俺をカウンターから追い払った。
「そんじゃ・・・ 行ってくるわ・・・」
俺はカードを後ろポケットへと雑に仕舞い、カウンターから立ち去った。