285. 死ね。 ビ◯チ
「「・・・・・・」」
いきなり現れた子供の姿を見た雄太は、顔を引き攣らせながら口角をヒクつかせ、芽衣は口を開け、目を見開いて驚愕の表情となった。
「私の攻撃が、 ──子供に防がれた!?」
「お、おま──」
「ま、まさか──」
ガイアが姿を表したことに驚きを隠せない雄太と芽衣は、同じタイミングで口を開く。
「何しに此処に来──「この! クソビ◯チがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
芽衣の怒声によって雄太の言葉は完全に消され、同時に、芽衣が手にしていた長巻とラキを取り囲む八岐の大蛇が瞬時に消失し、芽衣の手には光輝く十握剣が現れた。
「えぇ~、うそでしょぉ・・・ ソレはちょっとボクでもマズいかもなんだけどぉ・・・」
「「え?」」
少しマズいと言った様な表情になったガイアの顔と呟かれた言葉に対し、雄太とラキはマジで?と言った表情でガイアの顔を凝視する。
「神殺しを使われちゃったら、さすがにねぇ〜」
「「は?」」
「「カミゴロシ?」」
マズいと言いながらも余裕を崩さないガイアは、フワフワとラキの頭上から眼前へと移動した。
「クソビ〇チ!! 私の許可なく橘花さんの子を産んだ事を後悔しながら死ね!!」
「は?」
「え?」
「うん?」
想像が膨らみすぎて盛大に勘違いにしている芽衣の妄想は、神の想像をも超えてしまった。
「お前はバカか!? どこの世界にたった1日でこんだけ成長する子供がいるんだよ!?」
「異世界との時差です」
「んな時差とかあってたまるか!? 異世界は精神と時の部屋じゃねぇ!!」
「私の精神は、あのビ○チのせいで時間が止まってしまっています。 今後の私の精神衛生の為、目の前にいる不幸な母子は、此処で速やかに駆逐します」
芽衣は手にしている十握剣を水平にし、剣先をガイアへと向ける。
「駆逐ってなんだよ!? って言うか、全部お前の一方通行的な想像じゃねぇか!? 何考えて生きてんだよお前!?
「No Tachibana No Life です」
「会話が全く成り立ってねぇよ!? って言うかマジで止めとけ! そのちっこいのには手をだすな!」
雄太はガイアへと剣を向けている芽衣を静止しようとするが、芽衣の表情が更に怒りのものへと染まっていく。
「橘花さん。 そこまでそのビ○チの事を・・・」
「いや違う!! コイツは死んでもどうでも良い!! むしろ殺してくれ!」
「貴さ──!?」
「だが、そのちっこいのにはマジで手を出すな!」
怒り心頭の芽衣はギロリと悠太へと視線を向ける。
「ひぃぃぃっ!? って言うかどうなっても俺は知らんからな!!」
芽衣に睨まれた雄太は投げやりになり、雄太から視線が移り、芽衣にギロリと上から睨まれているガイアは、やれやれと言った感じで両手を肩の横へと持ち上げて首を窄めながら軽くため息を吐く。
「ふぅ〜。 ラキ。 ボク達、あの娘に良い様に言われまくっているよ?」
「が、ガイア様?・・・」
「このままじゃボク達の威厳が保たれないよね?」
「・・・・・・」
ガイアの言葉の意味を悟ったラキは、表情を険しくしながら押し黙って顔を俯かせる。
「まぁ、ボクとしてはそんな事はどうでも良いとして──」
俯いていたラキは、『え?』といった表情をしながら顔をあげる。
「──あの神殺しの剣、どんなものか見てみたいからちょっと相手してくれない?」
「え?」
いきなりガイアに芽衣の相手をする様に言われたラキは、キョトンとした表情となった。
「さぁ。 ボクの為にがんばってよ」
「・・・・・・」
ガイアに頑張ってと言われたラキは、ゆっくりとガイアから芽衣へと視線を移し、獰猛な笑みを浮かべながら剣先を向けている芽衣と視線を合わせた。
「承知しました。 ご満足のいく結果をお見せ致します」
さっきまで怯えに怯えまくっていたラキは、ガイアの言葉によって急に平静を取り戻してガイアへと身体を向けて恭しく一礼すると、芽衣と対峙する様にガイアの前へと歩み出て、瞬時に両腕へとガントレットを発現させた。
「クソビ○チが。 橘花さんの子を成したからと言って調子にのるなよ」
「ガイア様の御前だぞ。 人間風情が調子に乗るなよ。 それに、私はあの化け物の子など死んでも成すつもりはない。 あの化け物を慕う貴様の気が全く知れんわ」
芽衣とラキ、それぞれが互いの獲物を構えると、一瞬にして2人の周りは殺気に満ちた緊迫した空気によって包まれた。
そして、
お互いが一足飛びで距離を詰め、
激しい攻防が始まった。
そんな芽衣達の不毛な戦闘を気にすることもなく、
「おい・・・ お前何しに現れたんだよ・・・ ってか、なに煽ってんだよ・・・ 地上に干渉しないんじゃなかったのかよ・・・」
雄太は呆れた表情でガイアへと視線を向ける。
「それはこっちのセリフだよ。 なんで地球に帰って来れてる訳? ホント、君って大概だよね? ボクの苦労を利息を付けて今すぐ返してくれるかな?」
ガイアも同じく呆れた様な視線を雄太へと向ける。
「なんとなく試した死にスキルが使えたらしくてな。 まさか、マジで異世界間を行き来できるとは俺自身も思ってなかったんだよ。 んで、お前は?」
雄太は顎をしゃくってガイアへと答える様に促す。
「ミディアに送った筈の君の気配を地球で感じたから、急いで様子を見に来たに決まってるだろ? いきなりキミの気配を感じたから吃驚してホントに飛んできたんだよ。 そしたら面白いことになっているじゃないか」
「面白いってなんだよ・・・ お前が来たせいで、余計クソ面倒くせぇ事になってんだろうが。 って言うか、こっちはマジで腹減って死にそうなんだよ。 ってかもう、食うからな」
雄太は収納の中からブリトーを取り出して、ガサゴソと音をたてて包みを開いて食べ始めた。
「食うか?」
「うん。 もらおうか」
雄太は収納から新たなブリトーとコーラを取り出してガイアへと渡す。
「って言うか食えるのかよお前?」
「問題ないよ。 嗜好の一環だよ」
「あ、そ」
雄太とガイアは、ブリトーとコーラを片手に芽衣とラキの戦いの観戦を決め込んだ。
「美味しいねコレ」
「だろ? 最近コレにハマってんだよ」
ガイアは美味しそうに雄太から受け取ったブリトーへと齧り付く。
「それで、 アッチはどう?」
「あぁ。 めちゃくちゃ濃い1日だったわ。 って言うか、いきなり最悪な場所に送り込んでんじゃねぇよ。 人も寄り付かない様なイカれたモンスターがいる深い森に送ってんじゃねぇよ。 現地でもかなりヤバい場所ってことで、誰もが知っている様なモンスターの巣窟だったぞ」
雄太もガイアと同じ様にブリトーへと齧り付きながらチラリとガイアへと視線を向ける。
「キミなら大丈夫だったんじゃないの? って言うか、ミディアなんて行ったことなんてないし、担当していない違う世界の事情なんてボクが知る訳ないじゃないか。 それに、ミディアの管理者に見つからない様な、人とモンスターの気配が感じられなかった場所がそこしかなかったんだよ。 違う世界の中を感覚だけで探っているボクの身にもなってよ。 凄くしんどいんだよ?」
「そう考えると、お前の思惑は大外れたぞ。 到着した瞬間、お前んトコのあのバカが大声を上げたせいで、直ぐにモンスターと接敵したからな」
雄太はコーラを飲みながらラキへと視線を向けた。
「はぁ〜。 ミディアにバレちゃったかな・・・」
「さぁな」
雄太は飲み終わったコーラの缶を足元に発現させた膨張へと放り込んだ。
ガイアも同じ様に、食べ終わったブリトーの包み紙と空き缶を雄太の膨張へと放り込む。
「それで、スライム狩りは順調?」
「順調も何もあるか。 まだ向こうに行って1日しか経ってねぇんだぞ?」
雄太は膝へと肘を乗せて頬杖をつきながら芽衣達の戦闘をぼ〜っと眺める。
しかし、ニヤリと口角を吊り上げながら言葉を続ける。
「まぁ、さっきも言った様に、濃い1日ってのはちょっとした収穫ってのもあるもんだ」
「フフフフフ── キミならそうだろうと思ったよ」
「チッ── 人をなんだと思ってんだ」
「それで?」
「あぁ。 スライムを2体捕獲した」
「ほう。 それはそれは」
雄太はミディアでスライムがいきなり姿を消し、現れたと思ったら、強力な力を持った人型となって、これまたいきなり現れたと言う情報をガイアへと話す。
「スライムが人型にねぇ〜。 う~ん。 地球で暴れていたスライムを核とした寄生型から、キミのアレをベースにしたスライム型にシフトチェンジされている感じがするねぇ」
浮遊しているガイアは、顔を空へと向けながら両腕を後ろへと伸ばして掌を地面へとつけ、背後へもたれる様に自重をかけた。
「そう考えたらマジで胸クソ悪ぃな・・・ 俺の知的財産や著作権を思いっきり侵害しまくってるじゃねぇか」
「いや・・・ 心配するところはソコじゃないと思うんだけど・・・」
ガイアは呆れたと言った表情で雄太へと視線を向ける。
「それで、ソノ、”キミの探し物”は見つかったのかい?」
「まだだな。 だが、アイツは俺に何か伝えたい事があるらしい。 明日からはソレを辿っていく感じになるな」
「伝えたい事ねぇ~・・・」
雄太へと視線を向けているガイアは、何かを考えるかの様に目を細める。
「それで、キミが辿るソレってのは?」
雄太は芽衣達から視線を外し、ガイアへと顔を向ける。
「あぁ。 捕獲したスライムにアイツのお使いってのがいた。 んでもう一匹は、TPOを無視して夜にも関わらず俺を殺しに来やがった。 とりあえず、今日だけで何らかの情報源は確保できたって感じだな。 隷属させて、全ての情報をむしり取ってやる」
雄太は口角を吊り上げて悪そうな笑みを浮かべる。
「キミが言うと、捕獲されたスライム達が可哀想に思えてくるよ」
「ただ単に俺の糧になる為に喰われるよりも、俺に発現されて死なない身体になって利用された方がまだマシだろ?」
「ハハハ── どっちも最悪だよねソレ・・・」
ガイアは苦笑いをしながら雄太から芽衣達へと視線を移す。
「それはそうと、アレ、ソロソロじゃない?」
「・・・だな」
ガイアに言われて雄太が芽衣達へと視線を向けると、背中を丸めて激しく呼吸をし、見るからに焦燥しきっている汗だくの芽衣とラキが、お互いに最後の攻撃を繰り出そうと見合っていた。
「彼女凄いねぇ。 見てよアレ。 ラキと互角に戦えるとか即戦力モノだよ。 双方共にボロボロだよ」
「まぁな。 あのバカがいない間、木下さんにはずっと俺の訓練の相手をしてもらっていたし、それに、俺のスキルで色々と底上げもしているからな」
「ハハハ── キミに底上げされて、しかも神殺しまで持っているとか、もうチートじゃないか」
ガイアは乾いた笑い声をあげながら口角をヒクつかせる。
「でもまぁ、流石に人間がボクの使徒に勝つって事はないだろうけどね」
ガイアは当然と言った様子で芽衣の隙を伺っているラキへと勝ち誇った様な視線を向けるが、
「いんや、木下さんは俺が与えたチカラはまだ使ってないぞ?」
「え?」
雄太が呟いた、ガイアの理解が追い付かない言葉を聞いた瞬間、バッと言った様子で雄太へと顔を向けた。
「って言っている内にホレ。 使うらしいぞ」
「は?」
芽衣は手にしている十握剣の剣先を地面へと向けながらを逆手で握り、まるで、雄太が短刀へと膨張を込めるかの様に十握剣の柄尻へと徐に左手の平を添えた。
「死ね。 ビ◯チ」




