268. 此処は何処?オマエは誰?
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ガイアなるこの世界の管理者の態度もそうだが、それ以上に、急に居なくなったエルダの原因に対し、俺は言いようのない怒りに襲われた。
「あのバカ・・・」
俺の呟きを聞いたガイアは、俺の心情を悟っているのか、楽しそうにクスクスと笑ってい始めた。
と、言う事で君には異世界、ミディアへと行ってもらうんだけど、良いよね?
「ふぅ~。 って言うか、なんで同意を取ってるんだよ? どうせ俺が行くことは決定事項なんだろ? だったら聞くなよ」
アハハハハハハハ──
一応、言質を取っておこうかなって。
「言質もクソも、俺が行かないとヤバいんだろ?」
う~ん。
そうだねえ~。
スライムを狩る事に特化したスキルを持っているキミが行った方が効率も確実性も倍以上に上がるってのもあるし、それに、気になるんだろ?──
ガイアが口角を吊り上げて何かを含んだような笑みを作る。
──君のパートナーのスライム君の事?
「・・・・・・」
俺は目の前で笑みを浮かべるガイアを睨みながら、呆れとも諦めとも感じられる様な思いを噛み殺しながら、無意識に鼻から息を漏らす。
「行くしかないだろ・・・ あのバカの責任は俺が取る。 それが飼い主の義務ってもんだ」
アハハハハハハハ──
ホント、キミは大概だねぇ~。
そうだね。
キミが彼女に、まるまるキミと同じスキルをリンクさせなければ、ここまで複雑にはならなかったんだよねぇ~。
そのせいで、こうして1年近くも調査に時間が掛かっちゃったんだけどね。
瞬間、笑っていたガイアの目つきが変わった。
「っ!?」
ガイアの表情が変わると同時に、まるで、周りの空気を呑み込み、この場の雰囲気の全てを塗り替えるかの様に、明らかにこの場の全体の質が変わり、雄太の呼吸を詰まらせる程に重苦しいものとなった。
まぁ、あの状況であれば、ソレも仕方が無い事だったんだけどさ。
そして、ガイアの顔が笑顔へと戻ると、雄太の身体は水中から上がってきたかの様に一斉に酸素を取り込もうと息を荒げた。
「ハァハァハァハァ── 化け物め」
アハハハハハハハ──
まぁ、ボクはこう言う存在な訳だし、それは自覚しているよ。
けどねぇ~。
ミディアの管理者はソレを自覚しておきながら下界に手を出しているんだよねぇ~。
「質が悪すぎだろソレ・・・」
そう。
本当に質が悪いんだよ・・・
全く持って本当に迷惑なヤツだよ・・・
ガイアは面倒臭そうな顔をしながら両手の平を上へと向けて肩を竦める。
「で、出発はいつなんだ?」
できれば今直ぐ行って欲しいかな。
キミのパートナーを手に入れたミディアの管理者は、調子に乗ってどんどんと計画を進めていくだろうからね。
まぁ、今はあのスライム君が何かと抵抗しているっぽいから、今直ぐに事が起こるって事は無いんだけど、彼女の抵抗もそろそろ限界っぽいしね。
ガイアの言葉を聞いた雄太の表情が険しいものとなるが、それとは裏腹に、目の中の瞳には、喜びの炎を灯していた。
「ウザいあいつをコントロールするのは流石に『神』でも厳しいか」
嬉しそうだねぇ。
「いや、アイツを相手にしているミディアの神の苦労が想像できてな」
アハハハハハハハ──
それは違いない。
ボク達管理者は、地上に降りれば、キミたちみたいなスキルは一切使えないんだよ。
まぁ、それでも、それなりにキミ達以上には純粋な力と存在の格があるから、基本、どうこうできる存在ではないんだけどね。
キミみたいに相手を操る能力なんてものは全く無いから、いちいち時間をかけて、対話して、それから懐柔したり、周りを巻き込んだり、事を起こしたり、って、そりゃぁもう、地上で1つの事を成すだけでも管理者は色々と大変なんだよ。
力と格を見せつけて脅す事も可能なんだけど、キミみたいな性格の人種にはそういう脅しが効かないからそう簡単にはいかないんだよねぇ~。
ガイアは片目を瞑って軽く口角を上げた。
「なんとなく分かった。 アンタら世界の管理者は、地上では無能なくせに権力を傘に威張り散らしている、体力馬鹿の詐欺師って思えばいいんだな?」
クククククククク──
なんか、キミの言い方に棘があって、ちょっと、いや、結構ムカつくんだけど、まぁ、そんな感じかな。
どう?
キミでもなんとかなりそうになって来たでしょ?
ガイアは何故かドヤ顔で俺へと視線を合わせた。
「そうだな。 なんでもアリアリなチートヤローじゃないって分かっただけでも少しは気が楽にはなったな。 そりゃ、あのバカを操るのに苦労している訳だ」
何を思ったのか、雄太は楽しそうに笑みを作った。
それじゃ、あまり時間もかけていられないから、今からミディアに行ってもらうよ。
それと、ミディアの管理者と接触した場合に備えて、ボクの眷属をキミに預けておくね。
「眷属?」
そう言うと、ガイアが徐にパンと一拍手を叩いた。
はい。
これでキミは眷属を通していつでもボクと連絡が取れるし、ミディアの管理者を見つけた時は、ボクの眷属が彼を捕縛してくれるよ。
「ん?」
ガイアはそう言うが、雄太には何が起こったのか全く意味が解らず、首を傾げて怪訝な顔でガイアへと視線を向けた。
そんな雄太の態度がツボに入ったのか、ガイアは顔を俯かせて笑いを噛み殺しながらチョイチョイと雄太の足元を指さした。
「??」
ガイアが差している指に誘導される様に雄太が自身の足元へと視線を移すと、
「!? オマっ!?」
そこには、白く半透明なバスケットボール程の大きさのスライムがプニプニと蠢いていた。
プフッ──
その子はラキって言うんだ。
ボクには決まった姿が無いから、勿論、眷属も自然とこうなっちゃうよね?
ククククク──
ボク達、本当に相性が良いのかもね♪
アハハハハハハハ──
雄太は足元で蠢いている白く半透明なスライムを見て頬を引き攣らせる。
そして同時に怒りが込み上げてきた。
「巫山戯てんじゃねぇぞオマエ!? 俺に異世界まで行ってスライムを根こそぎ狩ってこいって言っておきながら、なんでその狩りの対象のスライムがオマエの眷属なんだよ!? ってか、なんで俺がスライムと一緒に行動しなきゃなねぇんだよ!? 本末転倒だろうが!!」
アハハハハハハハ──
仕方ないじゃないか。
特定の形を持たないボクの眷属は、自然と地上でも特定の形を持ってないモノになってしまうんだよ。
クククククク──
この世界にダンジョンが転移してくる前までは、スライムだって珍しい存在だったんだからさぁ。
アハハハハハハハ──
雄太が狼狽える姿を見たガイアは、とても楽しそうに腹を抱えて笑い転げた。
それじゃ、世界の運命とラキを頼んだよ。
「オマっ!? マジで巫山戯てんじゃ──」
──ハイ。
行ってらっしゃ~い。
「──まて! ゴラぁぁぁぁぁぁぁ──」
・・・・・・
雄太は怒りながらガイアの眷属に対して不満をぶつけようとしたが、ガイアはそんな雄太の言葉を遮って雄太と眷属のラキを異世界へと飛ばした。
雄太とラキの身体は、そこから存在が無くなったかの様に姿を消し、暗闇が広がる地下施設へと耳が痛くなるほどの静寂が戻ってきた。
頼んだよ──
そして、今まで人の形をしていたガイアの姿がグニャグニャグルグルと変わり始め、空間へと染み込む様にして地上から姿を消した。
□
「──ぁぁぁぁぁぁあああ、 あ?」
いきなりガイアによってミディアへと飛ばされた雄太は、これまたいきなり森の中へと姿を現した。
「・・・・・・ どこだよ此処・・・」
いきなり森の中へと飛ばされた雄太は、真顔で真っすぐに目の前に広がる木々へと視線を固定させた。
自身の右を見て、左を見てと顔をゆっくりと動かして周りを見るも、辺り一面、木々が鬱蒼と茂った森であった。
そして雄太は上を見上げ、お腹に思いっきり息を吸い込み、怒りの形相で大声で叫んだ。
「なんで森に飛ばしてんだよアイツぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
そして、再度キョロキョロと激しく顔を振って辺りを見回すも、遠くにも木々が生えているだけであり、徐にその場でジャンプして木の上へと出て周りを確認するも、雄太がいる現在地は、完璧に森のど真ん中だった。
「何処だよ此処ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 飛ばすなら街の近くとかにしとけよぉぉぉぉ!!」
異世界に飛ばされた瞬間、雄太は遭難してしまった。
地上へと降りて来た雄太は、苛立たし気に頭をかきながら横にあった倒木へと腰を下ろす。
「右も左も全く分からねぇ世界だっつうのに、これまた右も左も分からねぇ森のど真ん中に飛ばしやがって! 今度会ったらぶっ飛ばしてやる!」
雄太が息まきながらブツブツとガイアの愚痴を言っていると、雄太は足元へと何かを感じた。
「ん? あ・・・」
雄太の足元には、白いスライムが身体を伸ばしてペシペシと雄太の足を叩いており、その動作には少しばかり怒りが見て取れた。
「そう言えば、お前を無理やり預けられたんだっけ・・・ お前のご主人さまに言っておけ。 今度会ったらぶっ飛ばしてやるってな!」
雄太は、足元にいる白いスライムへとガイアへの愚痴を言いながら、ペシっとスライムの上部分を軽く叩いた。
それで少しは気が紛れたのか、雄太はため息を吐きながら上へと顔を向け、木々の隙間から見える青空へと視線を固定させた。
「しかたねぇ・・・ とりあえず飛んで行って近くの街でも探すか・・・」
だが、雄太はそこである考えに至った。
「って言うか、此処の文明ってどんな感じなんだろうな? ミディアの人たちがもたらした魔道具や、マルバスが使っていた飛空艇から考えると、そこそこ文明は発達しているとは思うんだけど・・・ エルダを見ていた限りだと、食文化は微妙そうだな・・・」
雄太は眉間に皺を寄せながら考えに耽った。
「って言うか、風呂ってあるのか? まんま地球の中世みたいな感じだったら、マジで生活が厳しくなるぞ・・・ まぁ、風呂や住居地は、収納にあるプレハブでも発現させて、そこに住めばいいんだけどな・・・」
暫く何かを考えていると、執拗に雄太の足を叩き続けているスライムが、モゴモゴと蠢きだした。
「?」
足元で蠢いているスライムへと視線を向けると、次第にモゴモゴがボコボコとなって体表を激しく波立たせながら縦に伸び、倒木に座っている雄太の高さを超えた。
「え?」
そして、グニャグニャと細部を形作って行き、人型となって雄太の前へとその姿を現した。
「グチグチグチグチと我らが創造主様を貶しおってぇぇぇぇぇぇ!! 貴様は一体なんなのだぁぁぁぁぁ!!」
姿を変えたスライムは、透き通るような長い白髪を腰の部分で纏めている、ギラギラと輝く目力がキツい、雄太と同じ歳くらいに見える白い肌の女性となって、腰を下ろしている雄太を見下ろしながら怒り狂ったように大声を上げた。
「は?」
いきなり白いスライムから変貌した女性を、雄太は呆けた顔で見上げたが、雄太を見下ろすギラついた目の女性は、どう見ても怒り心頭と言った様子で雄太へと敵意を剥き出しにしながら怒りをブチ撒けていた。
「は? じゃないだろぉが、は? じゃぁぁぁ!!」
「なんだオマエ?」
「っ!?」
雄太の返答によって、白髪の女性は自身の中で何かがブチ切れたのか、口元をヒクヒクと盛大に引き攣らせながら息を飲んだ。
「・・・・・・じょ、 ──上等じゃゴらぁぁぁぁぁ!! 今すぐ貴様をブチ殺してくれるわぁぁぁぁ!!」
白髪の女性は、身に纏っている白一色の洋服の袖を捲り上げ、雄太の頭頂部へと向かって雄太を潰すかの様に右拳を振り下ろした。




