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見参!スライムハンター  作者: だる飯あん
Part 2. 第1章 新たな世界 編
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266. 旅立ち

マルバスを倒し、エルダが消えた日から月日はあっという間に過ぎていく。


現在、スライムダンジョンのメンバー達はすべてがとはいかないが、ほぼ、元通りの状態となっていた。


今まで世界中を統制していたギルドは力を失い、今後のダンジョンの運用について連日の様に世界的な会議が行われていた。


しかし、それもとある人物の一言で解決された。




暁 静江、彼女は、ダンジョン素材を扱う世界的企業の代表であり、世界で1,2を争う資産家でもある。


そして、木下 芽衣の母親であり、木下 栄治の嫁だ。


その世界的に権力がある彼女は、木下 栄治が率いる裏ギルドを、腐敗したギルドに取って代わる様に世界へと推薦し、大々的に支援を始めた。


静江の推薦や、ギルドによる世界中を巻き込んだ地球侵略を阻止したという事で、裏ギルドは、今までの裏の存在ではなく表の存在へと変わってしまった。


それと併せ、異世界から転移してきた者達の姿も公のものとなり、異世界人の代表として、イスフェルテの民を統べる女王である、エルフのエゼルリエルが表の世界へと姿を現した。


当時、漫画や小説、御伽話だけの存在と思われていたエルフがいきなりメディアへと姿を現した事で、世界中は歓喜に沸いた。


まぁ、主にアレな奴らばかりだが・・・


エゼルリエルを筆頭に、エルフの人々は地球人と積極的に交流を持ち始め、現在では雑誌のモデルや広告塔等で引っ張りだことなってしまった。


そんなエルフとの交流を支援し、管理したのも静江であった。


裏ギルドやエルフの事もあり、今までのギルドに代わり、静江を筆頭とした新たな世界組織が立ち上がった。


その名も、


新世界発展連合 New World Development Union


通称、【ユニオン】



ユニオンの初代代表は立案者の静江となり、運営は裏ギルド、イスフェルテのメンバーが中心となった。


ダイバー達の管理に関する最高責任者には木下が、モンスター素材の買い取りや魔道具等の開発に関する最高責任者にはエゼルリエルが就いた。


ユニオンの拠点は、スライムダンジョンがあるハロワを取り壊し、その跡地に巨大なビルを建てることになった。


だが、ハロワの敷地だけでは流石に土地が足りないという事で、近隣を買収する事となったが、幸いと言うのか、ハロワの周りには姿を偽装したエルフ達が密集して住んでいたため、スライムダンジョンへと引っ越をして行ったエルフ達は、ユニオンへと快く土地を売った。


土地を提供したのではなく売っという理由は、堂々と表の世界で姿を現せられる様になったエルフ達は、この世界の旅行を楽しみ始めたからだ。


所謂、路銀の工面である・・・


これには、新たな仕事で忙しいエゼルリエルが発狂していた。


広大な土地を手に入れたユニオンは、スライムダンジョンを呑み込む様な形で、縦ではなく横に長い巨大ビルをスライムダンジョンの上へと建て、巨大な商業施設やレンタルオフィス、行政機関といった大小様々な施設がユニオンビル内へと纏まる形となった。


世界的に有名になったエルフ達は、身の安全を考慮してユニオンビルに住んでいると言う扱いとなってはいるが、ユニオン内のエルフ達の部屋はスライムダンジョンにある家と繋がっており、実際は、世界樹があるスライムダンジョンの最下層が主な居住スペースとなっていた。



スライムダンジョンのダンジョンマスターであるアリアは、雄太のスキルによって人間としての肉体を得た時に、ダンジョンマスターの権限をエルフの誰かに譲渡し、長い束縛から解放され、ギルフォードと一緒に自由を得てみてはどうかと提案されたのだが、アリアは今度は皆を絶対に護ると言ってこれを拒み、これから先もダンジョンマスターでいる事を望んだ。


これではアリアより先に逝ってしまうギルフォードが不憫だという事で、雄太が力ずくでダンジョンマスター権限を分割し、アリアとギルフォードへと分けた。


通常であればダンジョンマスターを折半する事は不可能なのであるが、スライムダンジョン内にある世界樹のおかげで、通常では起こりえない奇跡が起きたのであった。


この事についてエゼルリエルが言うには、世界樹が生えているスライムダンジョンは、既にダンジョンの域を脱している為、これが可能になったのではとの事らしい。


それならばと、ヤリクもダンジョンからの解放を望むも、ヤリクの代わりを名乗り出るものが全く無く、そのまま裏ギルドのダンジョンマスターを続けざるを得なかった。


そんな現在の裏ギルドは、ダイバー管理局と名を変えて全てのダイバー達へとダンジョン内の施設を開放し、そこではこれまでと変わることなく、木下、ヤリク、クレシアの異世界勇者パーティーによって、荒くれ者のダイバー達の管理がされていた。



そして、雄太のスキルズなのだが、マルバスを倒した後、雄太が取り戻したスキルによって再度膨張でその姿を顕現する事が出来た。


スキルズの性格や記憶等と言ったものは、雄太の記憶や思い出によって消える事無く依然と同じ様に発現できた。


そんな中、当初、魔族となるであろう胎児の対処について色々と揉めており、雄太達は、この罪もない生まれてくる胎児達の処遇について頭を悩ませていた。


そこで雄太は、スキルズを魔族のコアの様にして未だ生まれてこない胎児へと移し、魔族のコアを胎児の内側から破壊し、自我を取り戻した時のギルフォードの様にするという事を提案した。


生物としての魂が無かった雄太のスキルの一つであったスキルズは、マルバスによって受肉体として育てられていた胎児の肉体へと移され、胎児の中の魔族のコアを破壊した後に胎児の魂とリンクし、その後はそのまま受肉して肉体を管理すれば、双方に害がなくなり、罪のない胎児もこの世に生を得られるだろうと雄太は考えた。


魂はあるが、未だに思考を得ていない胎児の肉体へとスキルズを移す事によって、スキルズの転生と言う形で胎児は生まれ、胎児達へと移されたスキルズは、その名の通り胎児達のスキルとなり、雄太の中にいたシスの様に精神体として胎児達をサポートしていく予定だ。


まぁ、胎児達の魂へとリンクさせるのだから、胎児の性格はスキルズに寄る可能性があるのだが、魔族として生まれて来るよりはマシと言う事でみんなは納得した。


胎児は7人おり、スキルズも丁度7体だったので、雄太が生まれてくる子供の面倒を見るという事で、雄太のこの案が実行される事となった。


しかし、スキルズはこの件について納得がいかないのか、少し悲しそうにしていたのだが、雄太に、


「また会える。 今度は家族だ」


と言われた瞬間、嬉し泣きしながら快く了承した。


生まれた胎児へもそれぞれに、夜尋(ヤヒロ)力羅(チカラ)、美夏、いずな、佳巳代、詩寿(シス)、そして義男と言う名が付けられた。


転生したスキルズは、雄太が育てると言う事だったが、ダンジョンマスターとなった子供ができないギルフォードとアリアが自分の子供として育てたいと申し出た。


この時に、芽衣が雄太と一緒に胎児達を育てると最後まで主張していたのだが、木下と雄太によって全否定され、スキルズ達はギルフォードとアリアの子供となり、スライムダンジョンの最下層で育てられることとなった。


ダンジョンの外へと出すかどうかは、今後の様子を見て木下とエゼルリエルが決めていくとの事だ。




そんなこんなで1年近くの時が過ぎたが、いまだにエルダは雄太の下へは帰ってこない。




雄太も暇を見つけては、関係者以外立ち入り禁止となって厳重に秘匿管理されたギルドビルの地下施設へと何かの痕跡や手がかりがないかと探しに行くが、それと言ったものは全く見つからず、ケレランディアと一緒に施設のフロアに刻まれていた魔法陣を調べるも、エルダが消えた原因となる様なものは発見されず、時間だけが唯々過ぎ去って行った。



そんなエルダを探し続けているある日、ハロワ跡地に立つユニオン本社へと差出人不明の手紙が雄太へと送られてきた。



「ちょっと、アンタ宛てに手紙が来てるわよ」



雄太宛と言う事で一度エゼルリエルが受け取って預かっており、スライムダンジョン内で子育てをしているアリアとギルフォードを手伝っている雄太へと手紙を持ってやって来た。



「手紙ぃ?  俺に?」



雄太には手紙を貰う様な近しくも遠い相手はおらず、敢えて挙げるとすれば、スライムダンジョンに関わる者達しかいなかった。


若しくは、姿を消したエルダか──



差出人のは書かれておらず、切手や消印すらもなく、どこからどう見ても怪し手紙だった。



「誰からなんだよ・・・  怪しすぎるぞこの手紙・・・」


「だからアンタにこうして直に手渡しで持って来たのよ」



エゼルリエルは顎をしゃくりながら怪訝な顔で雄太の手にある手紙へと視線を向ける。



「そんじゃ、まぁ、何が起きても良い様に外に出るか・・・  おばちゃんも一緒に行く?」


「嫌よ。  どうせ碌でもない事は分かっているんだから、後で報告してくれればそれでいいわ」


「そう思っているんだったら一緒に来てくれてもいいだろ?」


「私は忙しいの。  これ以上仕事が増えるなんてたまったもんじゃない。  いくらエルフが長寿だからと言っても、睡眠時間は必要なのよ」


「んだよそれ・・・  絶対に巻き込むから覚悟しとけよ」


「ハイハイ」



エゼルリエルは手をヒラヒラとさせて雄太がいるギルフォードの家から出て行った。



「マスター。 どうしたんだ?  何か問題か?」


「いや、まだ問題かどうかは分からないんだが、俺に差出人不明の手紙が届いててな・・・」


「問題が起こる予感しかしないな・・・」


「ふぅ~──  お前までそんな事言うのかよ」


「おっと、ミルクの時間だ!  私は皆にミルクを作らなくては!」


「オイ!?  オマっ!?」



ギルフォードは、まるで雄太から逃げる様に両手に子供を抱きながら走り去って行った。



しかたねぇ・・・


1人で確認するか・・・



雄太は一人寂しく手紙を持って、何かあった時の為に転移でスライムダンジョンの2層にある平原へと向かった。


そして、平原の真ん中で胡坐をかいて腰を下ろす。


怪訝な顔で手紙を見つめながら地面へと膨張を展開させ、ゆっくりと手紙の封を切る。



中には2つに折り畳まれた手紙があり、雄太は警戒しながら手紙を開く。



・・・・・・



開いた手紙にはこう書かれてあった。





─────

今度の土曜日にご飯行きませんか?


私はフォカッチャが食べたいです!

─────




「・・・なんだコレ」



雄太は、一瞬、芽衣の悪戯かとも思ったが、一瞬にして考えを改めた。


手紙の文字へと意識を向けた瞬間、文字がユラユラと揺らめき、書いてある文字が動き回って文面を変化させた。




─────

約束の時は来た。  


旧ギルドビル地下施設にて待つ。

─────



そして何かによって覆い隠されていた様に雄太の記憶が蘇る。




白い空間での記憶。


見えない何かとの会話。


そして、


マルバスを倒した後の依頼と約束。



『その時は依頼者としてちゃんと姿を見せよう。 信用は大事だからね』



雄太の記憶が蘇った瞬間、手にしていた手紙がブクブクフワフワとシャボン玉の様に空中へと舞いながら消え去った。



「ふぅ~」



雄太は空中へと舞ったシャボン玉を見ながら深いため息を吐く。



「そう言えばそうだったな・・・  って言うか、日時くらい書いておけよ・・・」



思い出した内容について雄太はエゼルリエルへと伝えようと考えたが、その考えを頭の中で否定する。



「まぁ、ギルフォードには伝えておくか・・・」



雄太はスライムダンジョンの2層から最下層へと転移する。


雄太が転移してきたスライムダンジョンの最下層は、フロアの中央に巨大な世界樹が建っており、それを取り囲む様にどこかの商店街を思わせる様な平和な街並みが広がっていた。


その風景を見ながら、雄太はギルフォードの家へと歩を進める。





「──って事だ」


「いや、何故そんな重い話を私にしたのだ・・・」


「なんとなく?」


「なんとなくと言われても・・・  はぁ~。   ──それで、私はどうすれば良いのだ?」



ギルフォードは雄太の目を見て何かを諦める様にため息を吐いた。



「話が早くて助かる。  お前に俺の無形の王を付与しておく」


「いや、それは・・・」


「コレは、この前の様に俺の力が無くなった場合も考えての事だ。 お前にこの力があれば、護れるモノは増えるだろ?」


「・・・・・・」



雄太はギルフォードの後ろで昼寝をしているスキルズへと視線を移し、ギルフォードもつられる様に視線を移す。



「それに、また膨張の転移とかブレスレットが使えなくなったら困るだろ?」


「そんな事を言われたら、了承するしかないではないか」


「それでいい。  ダンジョンマスターになったお前なら、この力に飲まれる事はない筈だ。  寧ろ飲まれて本格的なスライムの王になるってのもいいかもな」


「それだけはご免被る」


「冗談だよ。  お前に付与するのも劣化版のコピーだよ」


「分かった・・・」



ギルフォードが真剣な顔で雄太へと視線を合わせる。



「って事で、皆には適当に言っておいてくれ」


「マスター・・・  ちゃんと此処に帰って来ると約束してくれ。  此処はもう、マスターの帰る場所であり、家族が待っているんだ」


「あぁ。  約束する。  あいつらにも約束したしな」



雄太はスキルズへと視線を向けて優しく微笑む。



「そんじゃ、ちょっくら行ってくるわ」


「お気をつけて」



ギルフォードは雄太へと腕を伸ばして拳を向ける。


そして雄太はギルフォードの拳へと自身の拳をコツんとぶつけた。



第2部開始!


毎週 月、水、金 で更新していきます。


引き続き楽しくお読みいただければです!

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