263. 決着
上層部が倒壊しているギルドビルの中層フロアでうつ伏せになって倒れているマルバスは、まるで何かに寄生されている様に身体中から小さなミミズみたいな触手をウネウネと出現させていた。
雄太はマルバスへととどめを刺す為に、マルバスの周りへと複数の鞠を展開させて取り囲みながらマルバスへと向かって近づいていく
マルバスへと近づいている途中で、雄太の前に発現されている小さなフラフープが赤く光り出した。
急に光り出したフラフープの内側へと立体的な地図が現れ、地図の中の1箇所へと丸い印が表示された。
雄太が地図に表示されている印へと意識を向けると、地図が拡大され、印が付いていた箇所の映像が映し出された。
フラフープの中に映る映像には、エゼルリエルを初めとした沢山のエルフ達がギルドビルの地下にある広い空間に縛鎖で捕らえられて閉じ込められており、その中には安田とケレランディアの姿もあった。
捕まった人達はビルの倒壊には巻き込まれておらず、縛鎖によって意識を奪われた状態ではあるが、とりあえずは無事そうな姿を確認する事ができた。
エゼルリエル達を見つけた雄太は、念話を使ってギルフォード達へと捉えられた人達はとりあえず無事と言う事を告げ、倒れているマルバスの近くへと降り立つ。
そして左手へと再度スピアを発現させ、身体中へとグニョグニョウネウネと気色の悪い触手に覆われているマルバスへと向かって矛先を向ける。
これでもう終わりだな。
雄太がスピアを振り上げてマルバスへ向かってととどめを刺そうとすると、倒れているマルバスから小さくくぐもった笑い声が聞こえてきた。
「ククククククク──」
雄太は笑うマルバスを気にせずにスピアを振り下ろそうとするが、マルバスが掠れた声で雄太へと向けてボソリと呟いた。
「【寄生】── 【侵食】── 【自爆】付与── クククククク──」
マルバスの掠れる声を聞いた雄太は、チラリとフラフープに映るエゼルリエル達の姿へと視線を移した後、険しい表情でうつ伏せになっているマルバスを睨みつけながら振り下ろそうとしていたスピアを止めた。
「オマエ──」
そしてマルバスは、半壊している壁へと手をつきながら重々しく身体を起こして立ち上がる。
「ククククククク── どうやらこの意味が分かっているいる様だな。 ククククククク──」
雄太は振り上げていたスピアを降ろし、無言でマルバスを睨みつける。
「貴様が我を殺し切るより先に、皆、派手に吹き飛ぶであろぉなぁ。 ククククククク──」
マルバスは嬉しそうに雄太の目を見て口角を吊り上げる。
「まさか、我がスライムごときに身体も意識も乗っ取られるとはな・・・ どうやらこの身体はこれ以上持たんな・・・」
マルバスはスライムグラトニーに寄生されている腕を見て呟く。
「だが、我の目の前には、新たな入れ物を作る為の丁度良い材料があるではないか」
マルバスは更に口角を吊り上げる。
「貴様は何をすれば良いのか考えずとも分かっておるであろう?」
「・・・マジでクソヤローだな」
「ククククククク── 貴様のその新たなスキルを使えば、我の望む入れ物が延々と作る事が出来るのであろうなぁ」
「・・・・・・」
マルバスは雄太の握るスピアへと人差し指を指し向ける。
「クソが・・・ 好きにしろ。 この【コピー】ヤローが。 【搾取】でもなんでも勝手にしやがれ」
雄太は左腕の模様を光らせながらスキルを全て解除してヤリクからもらった普通の服装の姿となり、マルバスを睨みながら右腕を前へと突き出す。
スキルを解除した雄太を見たマルバスは、フラつく足取りで雄太へと近づきながら雄太の腕を掴む為に右手を突き出す。
「ククククククク── 貴様のスキルを頂くとしよ──!?」
しかし、雄太は突き出していた手で先にマルバスの腕を掴み、
「──な!?」
マルバスのユニークスキルの名を口にする。
「【搾取】」
マルバスは、逆に雄太に腕を掴まれ、自身のスキル名を口にされた事に対して意味が分からないと言った様子で驚きの表情を見せる。
「何を──!?」
「オマエに奪われた俺のスキル、 熨斗つけて返してもらったぞ」
「──!?」
雄太は驚く表情のマルバスを見ながら盛大に口角を吊り上げる。
「【創操】 リンク 【無形の王】」
続けて雄太がスキル名を呟くと、雄太は漆黒のスライムスーツの姿となった。
「貴、 さま──!?」
そしてそのまま掴んでいたマルバスの腕を引き寄せながら腰にある短刀を鞘から引き抜き、ディスプレイへと映るアイコンが指し示す箇所へと向けて短刀を突き刺した。
「ふぐぅっ──!?」
「・・・なぁ、知ってるか?」
雄太が短刀を突き刺すと、左腕の模様が短刀を介してマルバスの中へと流れ込んでいく。
「自分で開いたドアは自分で閉める。 これって──」
雄太が突き刺した短刀を時計回りに捻ると、マルバスの中から『ガチャリ』と何かが施錠される様な音が聞こえた。
「──子供でも知ってる常識だよな?」
瞬間、
模様で紡がれた鎖の様なものがマルバスの身体中から溢れ出し、上空にある魔法陣へと向かって一直線に伸びていった。
マルバスの身体から伸びていく鎖が上空にある魔法陣へと到達すると、まるで、次元を破壊し、穴の先の先の先にある、見えない異空間へ伸びる様にして魔法陣へと深く突き刺さり、ピンと撓む事なくマルバスの身体と魔法陣を一直線に繋げて張り詰めた。
そして一直線に伸びている鎖は、魔法陣に穿つ穴の先の先の先にある何かに巻き取られる様にしてマルバスの身体を手繰り寄せ始める。
「な!? なんなんだこれは!?」
糸のついた操り人形の様な状態となっているマルバスは、身体を横に水平にして浮き上がり、魔法陣へと向かって身体を浮かす。
マルバスは身体を揺らし暴れるも、まるで虚空へと磔にされているかの様に身体を動かす事ができない。
「我に! 我に何をしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
魔法陣へと向かって遠のいて行くマルバスは、怒りや恐怖を綯い交ぜにした醜い形相で雄太を上空から睨みつける。
「お前の身体を鍵に変えた」
「な!?」
コアを雄太に短刀で突き刺されたマルバスの身体が徐々に消えて行くが、それを補うかの様に赤い文字や図形で形成されたスカスカの外枠が現れて、魔族のコアを中心とした中身の無いスカスカなマルバスの身体を形作る。
「責任もってアレを閉じてこい」
雄太は首から上だけとなったマルバスから、上空にある魔法陣へと顔を向ける。
「た、 タ チバナ 雄ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ太ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
声を上げるマルバスの残りの顔が文字と図形のフレームへと変わり、魔法陣へと到着する。
文字と図形だけとなったスカスカのマルバスが魔法陣へと到着すると、まるで紙に染み込むインクの様に、マルバスを形作っている文字と図形が魔法陣へと広がり始め、1本の鎖がついたマルバスのコアだけが残った。
「エルダ」
崩壊したビルのフロアでは、雄太との創装を解いたエルダが、雄太に肩へと手を当てられながら肩膝立ちで厳ついライフルを構え、スコープに写るマルバスへのコアへと照準を向け、
「やれ」
ゆっくりとトリガーへと指をかける。
「了解」
雄太の合図と共にエルダがトリガーを引くと、手にしているライフルから赤く光る一条の線を引きながら一発のスライム弾が飛び出し、マルバスのコアを吸収しながら魔法陣へと着弾した。
スライム弾が着弾すると、魔法陣へと広がっていた文字や図形が赤く光り輝き、魔法陣を絡めとる様にしてスライム弾へと吸収され始める。
魔法陣を吸収したスライム弾は、野球ボール程の大きさへと膨れ上がり、無数の文字や図形を表面へと浮かび上がらせた。
魔法陣を吸収して消し去ったスライム弾は、まるで吸い込まれる様に上空を見上げていた雄太の手の中へとゆっくりと降りて行き、雄太はスライム弾へと視線を落としながら、握り潰すかの様に収納へと仕舞った。




