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見参!スライムハンター  作者: だる飯あん
Part 1. 第5章 世界と異世界 編
253/290

#253. 白

落ちる。




ボロボロになったTシャツを旗めかせながら落ちる。




家族も



職も



生活も



スキルも



仲間も




全てを失ったボロボロの雄太が地上へと向けて落ちる。






まるで──



飲み干されて空となった空き缶の様に。



噛み尽くされて味のなくなったガムの様に。



完食された弁当の容器の様に。





空となって



無となって






ただただ落ちる。






用途を終えたゴミの様に。








空を落ちる雄太の耳は、ゴォゴォビュゥビュゥと鳴り響く風切り音で埋め尽くされ、上も、下も、右も、左も分からない様な浮遊間に包まれる。




あるのは消失感のみ。




身体の奥底に、胸の奥底にあった ”ナニカ” が大穴を開けて抜け落ちた。


そのナニカに引っ張られるかの様に、周りの ”ナニカ” も芋づる式に抜け落ちていった。




抜け落ちていく ”ナニカ” を思い出そうとしても思い出せない。



”ナニカ” を思い出そうとするが、その ”ナニカ” を思い出そうとする以外は何も思い出せない。



”ナニカ” を思い出そうとする度に、頭の中が白へと塗り替えられていく。



頭の中を始め、どんどんと周りも白く塗り替えられていく。



白く塗り替えられた世界には、ポツンと一つのドアがある。



行かなければと言う得も言えぬ思いに駆られ、無意識にドアノブへと手をかけて白いドアを潜り抜ける。




何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も──




前へと進もうにも白いドアがあり、右へと進もうにも白いドアがある。


ドアを開き潜らなければならないと言う事は分かっていても、なんの為にドアを開いて潜らなければいけないのかが分からない。


何も分からないまま、ドアを開けては潜り抜ける。



何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も──




そうやって、訳も分からずに延々と目の前に現れるドアを開いては潜り抜けてを続けていると、唐突に終わりが訪れた。




真っ白な空間。



これ以上ドアが現れない空間。



狭いのか広いのか。



高いのか低いのか。



暑いのか寒いのか。




何もかもが白一色であり、闇も光も無い空間。





開放感を覚えるも、押し潰されそうな圧迫感もある。



暖かさを感じるも、身を刺す様な寒さも感じる。



初めて来たと言う感覚もあるが、以前来たことがあると言う感覚もある。





そんな訳の分からない真っ白な空間。



居づらいのに心地の良い空間。





そして、




ソレは不意に現れた。





真っ白な空間に居る白い ”ナニカ”。




白に白を何度も重ね、平面へと厚みを加えたかの様な見えない ”ナニカ”。




同じモノを同じ箇所に何度も何度も延々と重ね続け、ある時フトしたズレが生じて感じる事ができた ”ナニカ”。




厚みやズレ、違和感と表現するのが正しい ”ナニカ”。




そして分かる。



その何かの感情が分かる。



見えないのに感じられる。






お前は何をそんなに困ってるんだ?


お前は何をそんなに悲しんでいるんだ?




そしていきなり声が聞こえる。



『キミの事でもあり、ボクの事でもあるかな』




さっきからイキナリばかりだな。




『運命なんてそんなもんさ』




そうか?




『そうだよ』




声は淡々と言葉を返す。



『また来るとはキミも大概だね』




また来る?


・・・っは、此処へ来た事があるのか?




自分の呼称を口にしようとするも、何故か思い出せない。



『以前のキミは、自分の事を “俺” って呼んでいたよ』




そうなのか?




『そうさ』



見えない声から感情が伝わる。




何がそんなにおかしいんだ?




『だってさぁ。 どうしていつもキミはそんなに酷くボロボロなんだい』




ボロボロ?


俺? が?




『ホラ。 自分で見てみなよ』




俺の前へと酷くボロボロな格好の男性が姿を現していた。


ボロボロのTシャツとジーンズを着用し、肘から先の左腕が無い男性。


顔の部分だけが薄い影の様に暗くノイズを走らせ顔が全く見えないが、体格や体型からして男性と判断した。


目の前のボロボロの男性は、身体へもジジジジと酷いノイズを走らせ、偶に姿が消えそうになる。



『どう。 酷いでしょ?』




どうと言われても。


これは俺なのか?




声がクスクスと笑いながら答える



『そうだよ。 そこに居るのはキミだよ』




目の前に居るのを見せられて、ソレを俺と言われてもな。




『ボクがコレはキミと言えば、ソレはそう言う事なのさ』




意味が分からん。




声が再度クスクスと笑う。



『まぁ、あまり気にしないでよ。  ソレよりキミだ』



声の雰囲気が変わったのが分かった。




俺?




『そうキミだ。 ・・・いや、ボクもかな?』




なんだよソレ?




『まぁ、色々あるんだよ。 色々』




色々ってなんだよ?




『とりあえず話を進めるね』




オイ。


色々ってなんだよ?




『以前キミには次は無いって言ったよね?』




人の話し聞けよ。




『次は無いって言ったけど、また会おうとも言ったね』




どっちだよ。


意味が分からんぞ。




『あの時は、■■■■■■とそう言う約束だったからなんだけど、今回はボクからキミにお願いがあってね』




お願い?




『そそ。  今、世界がグチャグチャなんだよ』




世界?  


グチャグチャ?


って言うか願いは?




『まぁ、ちょっと待ってよ。  ボクの話を少し聞いて欲しいかな?』




人の話は聞かないクセに・・・




『ソレはソレ、コレはコレ』




なんだよソレ・・・




『世界にバグが出ちゃったんだよ』




マジで俺無視して話し続けるのかよ。




『そのバグを取り除く為に、今世界がアタフタしているんだ』




ハァ・・・


もう勝手に話してろ。




『しかも、そのバグのトリガーがこの世界なんだよねぇ』



声の感情が落ち込んだ様に感じられた。



『その為に、キミにお手伝いをして欲しくてさ』




いきなりだな。


話の展開が全く読めないんだが。




『この世界でボクとコンタクトが取れるのはキミだけなんだよね。 まぁ、■■■■■に頼まれて、一度キミを助けたって言うのがそうさせたのかもしれないけどね』




助けた?


俺を?


お前が?




『あぁ〜。 ”また” お前って言ったぁ〜。 ほんと大概だよねキミって』



また?




『あぁ、もういいやソレで。 とにかく話を進めるよ』



声はプンプンと怒り、拗ねている様に感じられた。



『まぁ、みんなと色々と話しあったんだけど、結果、それぞれの世界からバグを取り除く者を出す事になってね。  ソレをキミに頼みたいんだ』




は?


なんで俺なんだ?


バグってなんだ?




『キミを選んだ理由は、まず第一に、ボクと繋がれるってとこかな?』




第一に?




『こんなになっていても、ほんとキミってなかなか鋭いよね。 まぁ、そこもポイントに入っているのかな?』




なんで俺を勝手に査定してんだよ?  




『第二はね』




無視かよ。




『キミがこの世界の住人って言うのと、キミの──』



声の雰囲気が変わった。



『──チカラかな』




俺のチカラ?




『そう。 キミの ”チカラ” だ』



声から ”チカラ” と言う言葉が出てきた瞬間、目の前に居るボロボロの男性の顔が一瞬見えた。



顔がチラリと一瞬見えた瞬間、“ナニカ” が一瞬だけ白い空間を塗り潰すが、また、元のボロボロの男性が立っているだけの白い空間へと戻る。




なんだ今のは・・・




『今のはキミのチカラであり、キミ自身だよ』




俺のチカラ?


俺、  自身?




『そうさ。 さぁ、きっかけは与えたよ。 早く自分を思い出すんだ。 時間は有限だからね』




思い出す?


ナニを?




『先ずは今のキミからかな』




今の俺?




『答えはキミの目の前にあるじゃないか』




俺の目の前?




見えているのは、酷くボロボロな姿の男性。




この人はどうしてこんなにボロボロなんだ?


着ている服もそうだが、左手はどうしたんだ?


右手の指先が青く、その指には指輪している?




指輪へと意識を向けた瞬間、顔の部分の影が消え、暗い表情で俯く男性の顔が見えた。




俺はこの人を知っている。




俯く男性の視線は、自身の左腕を見ている様だった。




ん?


左腕がどうかしたのか?




左腕へと意識を向けると、得も言えぬ痛みに襲われた。




ぐぅ!?




襲って来た痛みが激しく全身を駆け巡る。




がぁ!?




どれくらいの時間が経ったのかも分からない。


短かったのか、はたまた、長かったのか。


激しい痛みに苦痛や疲労感を覚え、諦めるかの様に意識を手放そうとするも、“ナニカ” によって意識を掴まれその場へと縫い留められる。



そして、その ”ナニカ” に誘導されるかの様に、全身を駆け巡っている痛みが1箇所へと集まり始め、身体の外側から中心へと向かってグルグルと渦を巻いて移動する。




クっ!


なんだコレは!?




渦巻く痛みの流れに意識を向けると、痛みと一緒に意識が奥へ奥へと吸い込まれる。




ぐぅ!?




瞬間、俺は激しく胸を押さえた。


いや、


俺の目の前に居る男性が胸を押さえ、影が晴れた男性の顔がはっきりとし、苦悶の表情を浮かべ、声にならない声を上げる。





────────────!!





目の前の男性が声を上げると同時に、俺と男性の身体が重なり、超速で再生されたかの様な膨大な情報が俺の中を駆け巡って包み込む。




そして、俺は─





──思い出した。





あの左腕のないボロボロ男性は俺で、



俺は全てを奪われた。



全てを思い出したと同時に、目の前にいた男性の姿は消え、俺の視線の先へと自身の身体が映り込んだ。




そうだ。



俺は、




橘花 雄太




─全てを奪われた者─




パチパチと手を打つ音が聞こえてきた。



『おめでとう。 自分を思い出した様だね』




あぁ。


思い出した。


全てを思い出した。




俺は失った左手へと視線を移し、右手の平をギュウっと握る。



『まだ全てじゃ無いよ』




まだ?




『キミはまだスキルを思い出してないじゃないか?』




・・・スキル


・・・俺にはもうスキルがない。


・・・もう、   スキルの使い方が思い出せない。




俺はギリっと強く奥歯を噛み締め、右手で胸を押さえて爪を突き立てる。



『う〜ん。   キミが奪われたアレは、キミのスキルじゃないだろ?』





俺のスキルじゃない?




『そそ。  アレって、ルカと翔吾から貰ったスキルでしょ?』




お袋と親父から貰ったスキル?


そう言えば、以前ジジイから聞いた事が・・・




『そうだよ。 自分でも分かっているじゃないか?』



声の感情がウキウキとした楽しげなものへと変わった。



『さぁ。 今度は自分の本当のスキルを思い出してみようか。  ルカと翔吾のスキルを使ったおかげで、キミは自分の魔核を得た筈だ。 もう、ルカと翔吾の魔核は必要ないよ』



すると、俺の指に嵌っていた白いリングが霧散して消え、何かが凝縮した様な深紅の鍵が俺の掌の上へと現れた。



『ソレはルカの魔道具だね。  まぁ、ちょっと形は変わっちゃってるけど・・・  使い方は分かる、  でしょ?』



意味深な声の物言いに、俺は手の中にある鍵を握りしめ、



『さぁ。 これで思い出せるはずだ。 キミの──』



手にしている鍵を見つめながら、胸の前へと向けて鍵を握る手を動かす。



『──キミだけのスキルを』



そして、


鍵を胸に突き刺し、




ぐぅ!




勢いよく右へと捻る。







ガチャン







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